カンアオイ
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カンアオイは、被子植物門双子葉植物綱モクレン亜綱ウマノスズクサ目ウマノスズクサ科カンアオイ属の1種であるが、これに属する植物の総称でもある。「寒葵」は、葉が葵に似ていて冬場でも枯れない常緑多年草であることからと名づけられたが、一部の種は冬に落葉する。
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[編集] 特徴
非常に背の低い多年草。茎は地表、あるいは浅く地中を横に這うが、伸びは非常に遅い。まれに匍匐枝を出す種もある。根は太くて真っ直ぐなものを少数もつ。
葉は各茎に数枚だけつける。長い柄があり、葉はハート型か三角に近い形で、基部両側は耳状に突出する。葉は常緑性の種は革質で厚く、多くは表面に雲状の白っぽい斑紋がでる。
花は冬季に咲き、短い柄の先に一つづつ付き、地表か、やや土に埋もれて表面だけを地表に出す。花弁に見えるのは実は咢であるが、つぼ状、釣り鐘状などの形で、先端は三裂する。
成長が遅く、そのため生息範囲が広がりにくく、このことが地方によってさまざまな種に分かれる(種分化)ことに影響したとされる。前川文夫はその移動速度を「1万年で1km」と見積もっている。ただし、種子はアリ類によって運ばれることもあって、この説には異論がある。
[編集] 花粉媒介
この類の花は、いくつかの奇妙な特徴を持つ。まず地表すれすれに花をつけること、しかも大抵は葉の陰に見えないように花をつける。また、花期がほとんど冬である。花の構造にしても、若干の差はあるが、壺状の花の奥に雄蘂と雌蘂がまとまっている。そのため、一般的な訪花動物が引きつけられるとも思えないし、風媒花など機械的な作用によるとも見えない。
そのような地表に咲く花の花粉媒介についての説の一つに、これらの花粉を運ぶのがカタツムリやナメクジであろうとの説があり、カタツムリ媒という用語も存在する。カンアオイについても、これにあたるとの説もあるが、いやワラジムシだ、ヤスデだと様々な説があり、確定されていないのが現状である。一部の種については、キノコバエが花粉媒介を行うことが報告されている。
[編集] 利用
江戸時代から栽培が行なわれた。特に、通常は葉柄から葉の裏が紫になるが、その部分が緑色で濃い色がのらないものを選び、品種名をつけたものは「細辛」として古典園芸植物と認められる。
また、野生種も山野草として栽培の対象となる。特に各地の種を集めるマニアがおり、その為に分布域の狭い種には絶滅危惧に追い込まれたものがある。
[編集] カンアオイの種類
カンアオイ属は東アジアで非常によく種分化がおこっており、その数は50-80とされるが、そのまた半分は日本に産する。他にアメリカとヨーロッパにごく少数種がある。花の構造が比較的簡単なウスバサイシン属(Asiasarum)と内部に複雑な網目構造が発達するカンアオイ属に分ける考えもあるが、まとめる場合もある。
[編集] ウスバサイシン属
ウスバサイシン(薄葉細辛、学名Asiasarum sieboldii)は、日本や中華人民共和国、朝鮮に分布し、日本では北海道、本州、九州北部に極めて局地的に分布している多年草。茎は地をはしり、丸く先がとがっている柄の長い葉を二枚出す。3~6月に暗い赤紫色で6本の花柱の外側に12本の雄しべを持つ花を咲かせる。和名の「サイシン」の由来は根を乾燥したものを漢方薬で細辛(細くて辛い根の意)いうことから。
オクエゾサイシン(奥蝦夷細辛、学名Asiasarum heterotropoides)は、樺太、北海道、本州北部、南千島(北方領土)に局地的に生息する多年草。山中の林の薄暗く湿った場所に生え、5月~6月にウスバサイシンと同じく暗い赤紫色の丸い花を根元に咲かせる。ウスバサイシンに似ているが、こちらは葉の先が丸くなっている。
クロフネサイシン(黒船細辛、学名Asiasarum dimidiatum)は本州、四国、九州中部に分布する多年草。ウスバサイシンによく似ているが、花が咲いている3月から5月になると花柱が3本、おしべが6本とウスバサイシンの半分であることが観察できるので良く分かる。
[編集] カンアオイ属
ヒメカンアオイ(姫寒葵、学名Heterotropa takaoi)は、本州や四国に分布するカンアオイ属の一種。主に日光が余り届かず人の手がほどよく加わった程度の里山の水の豊富な場所に生息する。特徴はハート型の大きな葉に白い斑点があり、葉に丸みがあり花は2~4月にかけて咲く。本種は他のカンアオイよりも小型であることからヒメカンアオイと名づけられた。
コシノカンアオイ(越ノ寒葵、学名Heterotropa megacalyx)は主に北越地方日本海側の多雪地帯に分布するカンアオイ属の一種。花が大きくまた葉は厚く黒ずんだ光沢があり、2月~5月に咲く花は1.5センチほどで大きい。 花は長さ1.5cmほどで,萼裂片は開出し萼筒の基部はくびれることはない。