ガスマスク
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ガスマスクとは、毒ガス・粉塵・有害なエアロゾル・微生物・毒素などから体を守るために顔面に着用するマスクで、目など傷つきやすい組織や鼻・口を覆う。日本語では防毒面と表記する。
目次 |
[編集] 歴史
[編集] 構造と部品
- 面体
- 本体。鼻と口を包み外気を遮断する。下顎から鼻までを覆うものを半面マスク、下顎から額まで覆うものを全面マスクと言う。吸気口と排気口を別々にもち、それぞれ内側に逆止弁が付いている。排気口は着用者の口に近い場所にあることが多い。吸気口は一つないし二つ付いており、それぞれに吸収缶が取り付けられる。
- ベルト
- 面体を頭部に固定するためのベルト。
- 吸収缶
- 有毒ガスを吸収する濾材が詰まった缶である。吸気は吸収缶を通ってからマスクに入るようになっている。吸収できるガスの種類によって塗装の色が異なる。サイズもさまざまあるが、小さいものは面体の側面か下部に直接ねじ込むようになっている。
- 吸気弁
- 吸気口の内側に付属する逆止弁。空気を吸う方向には開くが、吐く方向には開かない構造になっている。
- 排気弁
- 排気口の内側に付属する逆止弁。空気を吐く方向には開くが、吸う方向には開かない構造になっている。
[編集] 種類
[編集] 濾過式
[編集] 防毒マスク
少量の有毒ガスに汚染された空気をその有毒ガスを除去するフィルター(吸収缶)を通すことによって無害化するタイプのガスマスクである。 汚染している有毒ガスにより適切な吸収缶を用いる必要がある。 吸収缶には寿命があり、使用前未開封時の有効期限および汚染環境下での使用時間を適切に管理する必要がある。 マスクに直接吸収缶が付いている形式のものを直結式、マスクと吸収缶が分離しホースでつながっている形式のものが隔離式である。 隔離式は直結式に比べ吸収缶を大きくすることが出来るため、より高い濃度の有毒ガスに対応できる。 吸収しきれないほど高い濃度の有毒ガスに汚染された環境や酸欠(酸素濃度が16%以下)の環境においては使用することができない。 このような場合には供給式マスクを使用する必要がある。 吸収缶が大型であるほど着用者の疲労は大きくなるので、作業雰囲気に合わせて適切に選ばなければならない。
吸収缶の種類には、有機ガス、ハロゲン、青酸、硫化水素、アンモニアなどの種類があり、吸収缶だけを取り替えることもできる。 種類の合わないガスには効果が無いので、あらかじめ作業場所の雰囲気を確認しておかなければならない。
一般的には他の呼吸保護具よりも軽量・安価であるため、広く用いられており入手も容易である。 このマスクは顔に対するフィットが極めて重要であり、購入に際しては 品揃えの豊富な店で幾つかのタイプを試着する事をお勧めする。
[編集] 防塵マスク
固体の微粒子が浮遊している空気を粒子フィルターを通すことによって微粒子を除去して無害化するガスマスクである。 防毒マスクに粉塵用フィルターを組み合わせて両方の役目を同時に果たすタイプのものもある。
医療用マスクとして流通しているマスクは、細菌やウイルスによって汚染された空気をフィルターを通すことによって無害化することを狙った、一種の防塵マスクである。 医療用マスクは、SARSの流行がマスメディアの注目を集めたことから、近年需要が高まっている。 特に一般でも手に入りやすいN95マスクは人気があるが、実質的にはDS2規格相当品であり、性能は産業用の防塵マスク(半面マスク)と同等である。
[編集] 供給式
有毒ガスに汚染された、あるいは酸素が不足した空気を完全に隔離し、代わりに外部から安全な空気を供給するタイプのガスマスクである。 空気の供給源より幾つかの形式に分けられる。
[編集] 自給式
空気ボンベないし酸素発生缶(化学反応により酸素を発生させる器具)によって清浄な空気をマスクに供給する装備である。 酸欠雰囲気や高い濃度のガス中でも使用できるが、装備は重い。 空気供給源が有限なので作業時間に制限がある。 行動範囲に制限が無い。
特にガスを通さない材質の全身気密スーツにボンベを組み合わせた自給式加圧服というものもある。
[編集] 送気式
エアラインマスクが代表的。コンプレッサーで発生させた圧縮空気を、チューブを通してマスクに送る方式である。 作業時間に制限が無いが、行動範囲はチューブの取りまわせる範囲に限られる。
特にガスを通さない材質の全身気密スーツにチューブを組み合わせたものもあり、これをエアラインスーツと言う。軽量な上、涼しいので着用感も良好。スーツの内側が陽圧になっているので、万一スーツにリークがあっても激しく動かなければ汚染しない。
[編集] 使用方法
- 使用する前に外観検査をする。面体やベルトに傷や劣化が無いこと、吸気弁や排気弁に折れ曲がりや傷が無いこと、吸収缶が正しく取り付けられ、ゆるんでいないことを確認する。
- ベルトを全て弛める。
- 着用者の下あごを先に面体に入れ、次いで面体を顔にかぶる。このとき、面体に髪や被服を巻き込まないように注意する。
- ベルトを頭の後ろに回して締め、ベルトの長さを調節する。このとき、ベルトが長すぎると使用中に汗をかいたとき面体がずれやすい。ベルトを締めすぎると頭の血流を阻害し使用中に頭痛を起こすことがあるので、適度に締めること。
- 面体が顔にフィットしたら、吸収缶の吸気口を手で軽く塞いで、息を吸う。このときに息苦しい感じがしたら、正しく装着できている。
[編集] 機能検査
産業でガスマスクを使用する場合、JISに定める方法によって定期的に機能を検査し合格したもの以外使用してはならない。 防塵マスクにあっては、マスク着用者を塩化ナトリウムの粒子を放出した雰囲気中に一定時間置き、面体の内部と外部の塩化ナトリウム濃度を比較する方法による。昭和63年労働省告示第19号に定める防塵マスクの規格は次の通り:
- DS1,RS1……粒径0.06~0.1μmの塩化ナトリウムの捕集効率80%以上
- DS2,RS2……同、95%以上
- DS3,RS3……同、99.9%以上
- DL1,RL1……粒径分布0.15~0.25μmのフタル酸ジオクチルの捕集効率80%以上
- DL2,RL2……同、95%以上
- DL3,RL3……同、99.9%以上