キクセラ目
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キクセラ目 | ||||||||||
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キクセラ目は接合菌門に含まれる菌類のひとつである。特殊な姿のカビの一群を含む。
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[編集] 特徴
キクセラ目(Kickxellales)には、キクセラ科(Kickxellaceae)のみが含まれ、ここに8属がまとめられている。いずれも特殊な姿をしたカビであり、一部のものは高等植物のような複雑な姿をしている。接合菌門接合菌綱に所属するが、外見的にもさまざまな特徴でも特殊な点が多い。
菌糸体はよく発達した菌糸からなる。菌糸は比較的一定の太さで、規則的に隔壁がある。隔壁の中央には両側に突出したパイプ状の構造がある。
ほとんどは腐生菌で、土壌に生活するものや、糞から見いだされる。一部にキノコから出るものがあり(Martensella)、寄生菌と思われる。多くは通常の寒天培地でよく生育するが、成長はケカビほど早くない。
[編集] 無性生殖
無性生殖は、分生子状の胞子による。この胞子は出芽するようにして形成されるが、形成部位から新たに次の胞子が作られることはない。多くの属では胞子を出芽する細胞が独立して、紡錘形をしていることから、アオカビやコウジカビに見られる胞子形成細胞であるフィアライドに類似しており、偽フィアライド(シュードフィアライド)と呼ばれる。また、この偽フィアライドを、胞子形成菌糸の側枝にずらりと並べるものが多く、この側枝のことをスポロクラディアと呼ぶ。標準的なスポロクラディアは、まず柄があって、その先に円柱状の胞子形成部がある。その部分の片面に偽フィアライドが二列ないし三列に並び、胞子を出芽的に生じる。その部分だけを見ると、ブラシのような形になる。
この菌の胞子は、古くは分生子と言われたが、詳細な観察により、単胞子性の分節胞子のうであると考えられるようになってきた。多くの場合、この類の胞子は、細長い形をしており、先端に透明な部分がある。発芽する時は側面から発芽管を生じる。
[編集] 有性生殖
有性生殖が知られている種は少ない。ほとんどは自家不和合性と思われる。
有性生殖が知られているものでは、菌糸が接合して、そこに接合胞子のうが作られる形である。ケカビ類に見られるように、菌糸が膨らんで配偶子のうとなることは見られない。接合胞子のうは球形で、その壁は厚くならず、色もほぼ透明である。
[編集] 分類
キクセラ目は、当初はケカビ目に含まれていたもので、1980年代以降には、独立目として扱われることが多くなった。ディマルガリス目のものとは胞子の形態等が似ているが、向こうは二個の胞子を含む分節胞子のうを形成する。
また、同じく接合菌門のトリコミセス綱ハルペラ目の形成する無性胞子であるトリコスポアは、構造上この類の胞子と類似性があり、また菌糸体の形態にも似たところがあることから、この両者の間に類縁関係があるとの説もある。
キクセラ科には6つの属が含まれるが、多数の種があるのはブラシカビ属(Coemansia)のみで、他の属は、それぞれに1-2種あるだけである。標準的なスポロクラディアを形成するのはブラシカビ属のほか、キクセラ属(Kickxella)、Martensella、Martensiomyces、Spirodactylonなどである。ブラシカビ属は直立する菌糸の側面にスポロクラディアを生じ、胞子は軸の外側に向く。スポロクラディアは無限成長する先端から順次形成され、全体としてはブラシ形の枝をつけた木のような姿になる。Martensellaは、これに似てスポロクラディアの数は少なく、胞子は軸の内側に向く。なお、この属はキノコの上に生育するものである。キクセラは短い直立する軸の先端にスポロクラディアを輪生し、胞子は内側に生じる。Spirodactylonは最も複雑な構造をするもので、胞子柄は所々で二又分枝しながら伸び、あちこちで緊密なバネ状の螺旋部を作る。スポロクラディアはこの螺旋の内側に多数作られる。
Linderinaは直立する胞子柄のあちこちの側面に円盤状のスポロクラディアを生じ、その上面に一面に偽フィアライドをつける。Spiromycesは螺旋状の胞子柄の側面に多数の球状の隆起を作り、その表面に胞子を多数出芽する。明確なスポロクラディアも偽フィアライドも見られない。