セントラルヒーティング
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セントラルヒーティングは、一箇所の熱源装置(ボイラーなど)を設置して、熱を暖房が必要な各部へ送り届ける暖房の方式である。中央暖房(ちゅうおうだんぼう)ともいう。
一般的には石油ボイラーの熱で湯を沸かし循環ポンプにより各部屋へ循環させる。各部屋にはラジエータと呼ばれる放熱器が設置される。各部屋に設置されるラジエータは一般的なストーブほど高温にはならないため火傷や火災の危険が少なく、ラジエータ自体からは燃焼ガスの発散が全くないので安全性に優れる。設置時に大掛かりな工事が必要となり初期費用がかさむことが多い。
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[編集] 発祥
中国で古くから使われてきたオンドルやロシアのペチカが発祥である。オンドルが床下を煙道とする事で床暖房をしていたのに対し、ペチカは壁内を煙道として全館暖房を行った。一種の温風セントラルと呼べる。
近代的なセントラルヒーティングの発祥は欧米。20世紀初頭から欧米の都市では、ガス、電気、水道などの供給と共に、蒸気の供給も行っている。初期においてこの蒸気は発電の副産物であり、発電所が供給していた。緯度的に北に位置する欧米都市では、町ぐるみで暖房と給湯に取り組む必要があったため、このような設備が生まれた。
この蒸気を各戸へ分配するシステムがセントラルヒーティングであり、ビルディング等の建設時あらかじめ地下に、蒸気を温水へと熱交換するボイラーが設置され温水が作られた。温水はビル内の各所へ分配され、暖房と給湯を成していたのである。
日本において都市が蒸気の供給を行っているのは現在でも、北海道の一部都市に限られる。
[編集] 方式
日本におけるセントラルヒーティングの方式は、温水セントラルと温風セントラルに分けられる。
[編集] 温水セントラル
一般にセントラルヒーティングといえば、この方式を指す。石油や電気のボイラーで作られた温水を各部屋に分配し、ラジエーターを用いて空気への熱変換、また放射熱への変換を行い暖房する。利点は媒体が水であるため比熱が高く、ある程度長距離の配管を行っても熱損失が少ない事により、比較的大きな建物の暖房を行える点にある。欠点は、ラジエーターや配管の気密性への配慮などでイニシャルコストが増大してしまう点にある。戦後より北海道を中心とした住宅、また日本全土のビルディング等で用いられてきた。近年の北海道内の住宅では、標準的な装備となっている。
[編集] 温風セントラル
電気もしくは石油、ガスなどを用いて空気を暖め、各部屋に分配するシステムである。FF式ファンヒーターの巨大版とも言え、実際にFF式ファンヒーターを熱源とするものも存在する。利点は媒体が空気であるため、配管の気密性をさほど重点としなくて良い点、熱源に拘らず暖かい空気であれば何でも熱源として使える点などがある。反面、比熱の低い空気は長距離の引き回しに適当ではなく、小規模な建築でしか使用できない点が欠点となる。アパートやマンションの暖房などに採用例がある他、本州東北部の新築住宅でも積極的な採用が見られる。北海道の新築住宅では、2000年以前に採用例が見られたものの、現在は姿を消している。
[編集] 利点
安全性、経済性の面から評価がある。各部屋で個別の暖房を用いた場合、石油やガスを直接燃焼させる形態のものであれば、設置の問題等から火災へ繋がる危険性がある。また個別の暖房装置では、熱損失が各機器の合計値となり、合算で同じ熱量を発生させる1個の装置と比べた場合、損失が大きくなってしまう。これはすべての部屋で同じように暖房器具を使用した場合の事で、温暖な地方において局所的な暖房でも問題ない場合には当てはまらないが、関東以北の地域では冬季、日常的に暖房を用いるためそうとは言えなくなる。
局所暖房と全体暖房を比べた場合、健康面でも影響があるといわれる。代表的なものがヒートショック現象で、暖かい空間から冷たい空間への移動時に、身体が医学的なショック状態となるものである。局所暖房の場合、居室と廊下の温度差は激しくこの現象の起きる可能性が高い。全体暖房では居室も廊下も同じ温度となるため、こういった現象は起きにくい。
[編集] 備考
北海道内の住宅では古くからセントラルヒーティングが一般化しており、また断熱にも優れた構造が普及していたため、家中の温度を冬季でも夏季と大差ない温度へ上昇させて暮らす事が多く、Tシャツ一枚でも平気などと言われて来た。一方で東北北部の住宅は建築コンセプトが同じ本州内の関東寄りとなり、高温多湿に適した構造が採用され続けたためか恐ろしく寒い居住空間となってしまった。
また道内の住宅はセントラルヒーティングが標準となる一方でエアコンを持つ家は稀である。住宅のみならず、一部の店舗や自動車を除けばエアコンの存在する空間はほぼ皆無となっている。