ピエール・ルジャンドル
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ピエール・ルジャンドル(Pierre Legendre,1930年 - )は、フランスのドグマ人類学者、法制史家、宗教史家、精神分析家。
リール大学、パリ第10大学などで教鞭を執ったのち、パリ第1大学法学部教授(ローマ法)、高等研究実習院(EPHE)宗教学部門研究主任(「キリスト教規範空間分析」)を兼任(1996年退官)。この間にヨーロッパ親子関係研究所(現ドグマ人類学協会)を設立、今日まで主任を務める。
中世教会法とローマ法との結合によって近代法の根幹が成形された過程の分析(博士論文『グラティアヌスからインノケンティウス4世、1140年から1254年にいたる古典教会法へのローマ法の浸透』、1964年)、および18世紀半ばから現在までのフランスの中央集権的官僚制の緻密な分析(その成果をまとめた著作が『1750年から今日にいたる行政の歴史』、1968年)によってその学問的履歴を開始した。
これと並行して、ユネスコをはじめとする各種国際機関の派遣職員として、ガボン、セネガルなどのアフリカ諸国に滞在し、西洋において形成されてきた行政制度の移出が非西洋的世界における既往の制度秩序とのあいだで引き起こす軋轢を実地で観察する機会を得た。「世界の西洋化」に対する独自の批判、宗教概念の徹底した再解釈など、後年に展開される思想的主題はこの経験に根ざしていることが著作の全編で強調されている。
さらにまた、ジャック・ラカンの設立したパリ・フロイト派に所属し、学派分析家としての資格を獲得。分析理論と制度研究を綜合した最初の成果が『検閲官への愛』(1974年)である(この書物が出版された経緯についてはエリザベート・ルディネスコの『ラカン伝』などを参照)。
パリ・フロイト派の解散以降はフリーランスの分析家となり、『講義』と銘打った一連の著作を中心に、主体形成に対する制度性の作用を閑却した現今の精神分析・心理学、分析の知見を排斥ないし濫用する社会学・経営管理学の潮流をそれぞれ厳しく批判。とくに80年代以降、「ドグマ」の概念に、主観性と社会性の結節点という新たな意味を付与をしながら、みずからの思想を「ドグマ人類学」の名のもとに展開しつつある。
[編集] 邦訳
- 『第II講 真理の帝国 産業的ドグマ空間入門』人文書院
- 『第VIII講 ロルティ伍長の犯罪 〈父〉を論じる』人文書院
- 『ドグマ人類学総説 西洋のドグマ的諸問題』平凡社
- 『西洋が西洋について見ないでいること 日本講演集』以文社