フライ・バイ・ワイヤ
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フライ・バイ・ワイヤ(Fly-by-wire, FBWと略される)は、航空機の操縦・飛行制御システムの1種。直訳すると「電線による飛行」。
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[編集] 概要
FBW以前の機力操縦システムでは、パイロットが操縦桿(輪)やラダーペダルに与えた入力は、ケーブル(索)やロッドによる機械的リンクを介して油圧アクチュエータに伝わり、エルロン・エレベーター・ラダーなどの操縦翼面が動かされていた。自動操縦も、ケーブルへ自動操縦装置が機械的入力を与えることで達成されていた。
FBWでは、パイロットの入力はコクピットで電気信号に変換され、電線(wire, ワイヤ)によって飛行制御コンピュータを通り油圧アクチュエータに伝えられる。アナログコンピュータを使用した初期のものはアナログFBW、デジタルコンピュータを使用するものはデジタルFBWと呼ばれる。
おおむね以下のような利点と欠点がある。
- 利点
- 欠点
FBWへの移行の前段階として、CAS(コントロール増強システム)と呼ばれるものがある。コンピューターによる飛行制御を、機械的リンクの補助として用いるものである。
[編集] 採用例
[編集] 軍用機
軍用機では、試作のみで終わったCF-105 アローがデジタルFBWを採用していた。デジタルFBWが有名になったのはF-16で、以降の多くの戦闘機が採用している。F-16以前においても、F-15の場合、機械系統が戦闘などで破損しても、前述のCASを通じて問題なく操縦が可能になっており、完全なデジタルFBWの一歩手前の状況まで来ていた。
[編集] 民間機
エアバスはA320で、旅客機としてはじめてデジタルFBWを採用した。同時に操縦桿はジョイスティック型となり、操縦席の横に配置された。以降のA330・A340・A380などでも踏襲されている。エアバスではボーイングに比べるとコンピュータによるプロテクション機能を優先しており、その点も含めた設計思想の違いはたびたび議論の的となっている。
ボーイングは777ではじめてデジタルFBWを採用した。形状は従来と似た操縦輪であり、エアバスのようなジョイスティックではない。プロテクション機能はあるものの、操縦感覚が重くなることでパイロットに注意を促すだけで、それ以上の力を操縦桿に加えれば、プロテクション機能を越える操縦をすることもできる。これは空中衝突などを避けるための急激な回避行動を取れるようにするための措置で、安全性に劣るということではない。
他にはイリューシンのIl-96、ボンバルディアのCRJシリーズ、エンブラエルの170シリーズ(アナログFBW)などの例がある。
[編集] 発展
- 光ケーブルの利用
- 操舵信号を電線ではなく光ケーブルによって伝えるシステムはフライ・バイ・ライト (Fly-by-light, FBL) またはフライ・バイ・オプティクス (Fly-by-optics) と呼ばれる。電磁干渉に強くなることなどが利点とされている。
- パワー・バイ・ワイヤ
- FBWでは、電気信号が伝わるのは油圧アクチュエータまでである。そのため依然として油圧システム(タンク・ポンプ・配管・アクチュエータ)は存在し、重量と整備性においての課題となっている。このためアクチュエータとして、電動モーターまたは密閉式電気油圧式アクチュエータを採用し、タンク・ポンプ・配管を削減したシステムが開発され、パワー・バイ・ワイヤ (Power-by-wire, PBW) と呼ばれている。F-35戦闘機やA380のバックアップシステムとして採用されている。
[編集] 関連項目
- ドライブ・バイ・ワイヤ - 最近、自動車などで使用され始めた、電線を介してのスロットル制御方式