ホラー映画
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ホラー映画(ホラーえいが)は、映画のジャンルのひとつ。観る者が恐怖感(英語で言うところのHorror、Fear、Terror等)を味わって楽しむことを想定して制作されているものを広く指す。また、ゾンビ、殺人鬼など、観客に恐怖感を与えるためにホラー映画で用いられた題材を含むものを(それが恐怖感を与えるためかどうかに関わらず)ホラー映画とする場合もある。
ホラーの他に、ジャンルの名前がそのまま感情の名前でもあるものにサスペンス映画とスリラー映画があるが、これらはホラーと(同一の感情ではないとしても、)非常に密接に関連しており(例えば猟奇殺人などのサイコ系)、かつ実際の作品では重複が見られることも多い。また、スプラッター映画は、ホラーのサブジャンルと見なされることも多く、典型的には血しぶきや惨殺死体(スラッシャー)などの直接的な描写によって定義されるジャンルだが、これも恐怖感を引き起こす手段として多用されるため、結びつきが強い。
古来より人々の恐怖心に訴えかける作品はあらゆるジャンルで多く生み出されているが、これは映画の世界に於いても例外ではない。故に現在ではやや様式化が進んだ感も強く、焼き直しが進み(これはホラー映画だけに限った話では無いが)、新しい独創的な作品が生まれ難い状況に陥っているとも言える。またアイデア勝負や低予算での制作に向いている=利益率が高い事も手伝ってか、アマチュア作品や新人映画監督の登竜門的な映画ジャンルとしての位置付けも強く、ホラー映画を出発点とした作品を撮り、今では有名となった映画監督も多い。
撮影中、出演者やスタッフに怪奇現象が起きたり、幽霊らしきものがシーンに映る事があるというウワサや逸話が多い事でも有名である。
[編集] ジャパニーズホラー
通称Jホラーとも言われている。近年、日本のホラー映画(およびその外国でのリメイク作品)は国内のみならず海外においても好評を博しているが、それはアメリカ(特にハリウッド)などとは異なった、日本独自のホラー映画の文法を持っているからと言われている。一口にJホラーと言っても作品や作家(監督)ごとに特徴は異なるが、おおよそ下記のような特徴があると言われる。
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- Jホラーでは「怖い」と感じさせる部分では沈黙をあえて長くとり、登場人物が絶叫するシーンが少ない。この沈黙のために、急な効果音を挿入することで観客を驚かすことが出来る。
- 水を使ったシーンが多い。これは例えば、床にびしょぬれの足跡があっただけで、日本人は恐怖を感じるという民族性(?)からくる演出であると言える。
- 日常生活に欠かせないものを利用する頻度が高い。例えば、電話やテレビ、ビデオ、旧家など。そうすることで、観客に「もう使いたくない。」「映画の様な怖い事が、実際に起るかも知れない。」と言う心境を与える。
- 幽霊のデザインは海外のようなグロテスクなものではなく、女性や手だけのものが多い。特に「長い髪を前にたらした女の幽霊」はJホラーの代名詞として親しまれている。
- 残虐なシーンを避ける傾向にあり、電車に轢かれる・投身自殺するなどといったシーンで、直接的な描写は描かれないことが多い。
- 舞台の規模が非常に狭く、町ひとつ・家一軒だけを舞台にしているものが多い。展開が全国規模や世界規模にまで及ぶような作品は少ない。
元々日本映画においては『四谷怪談』や『化け猫』などに代表される「怪談」もののホラーの伝統はあったが、これらは総じて怨恨を理由とした復讐物であり、表現手法におどろおどろしさなどのホラー的な要素はあっても起承転結がはっきりしたハッピーエンドで終わるものが多かった。しかし、Jホラーはハリウッドのホラー映画と相違があるのと同様、このような日本の怪談・怪奇映画の伝統とも距離を置いており、独自のカテゴリーを形成している。
黒沢清監督の『スウィートホーム』(1988年)において、この日本的な伝統やハリウッド流ホラーとは異なった独自のホラー指向が伺えるが、今日のJホラーに至る流れの起点はOVAととして製作・公開された『ほんとにあった怖い話』シリーズ(1991年~1992年)と言えるだろう。これは、読者からの投稿を元にした「実話」を映像化したオムニバス作品であったが、中でも小中千昭脚本・鶴田法男監督の諸作品はJホラーの原点として参照、言及されることが多い。これらで提示された「本当に怖いものを見たとき、人間は即座に悲鳴を上げられない」「ありえない場所に人の姿が撮されている恐ろしさ」などの特徴は、Jホラーの特質の一つを形作るようになる。
このオムニバス作品を皮切りに高橋洋脚本・中田秀夫監督の『女優霊』(1995年)、黒沢清監督の『地獄の警備員』(1991年)、『CURE』(1997年)等のJホラーの立役者とも言うべき人物達の作品が製作されJホラーブームは次第に盛り上がりを見せたが、この動向を決定づけたのは清水崇の『呪怨』(2000年)だった。オリジナルはOVAとして慎ましやかに製作された作品だったが、その怖さが人伝で伝わりレンタルすることが極めて困難になるほどの話題を呼んだ。この評判を背景に35mmフィルム作品としてリメイクされた劇場版の『呪怨』(2002年)も大ヒットし、遂には自身の監督によるハリウッド版のリメイク『呪怨(THE GRUDGE)』(2004年)が公開されるに至り、全米週間興業収益第一位という栄誉を勝ち取るまでに至った。また、同じく日本で大ヒットした『リング』『リング2』もハリウッドでリメイクされ、『呪怨』同様全米週間興業収益第一位を獲得した(『リング』こそヒットメーカーの一人であるゴア・ヴァービンスキーがメガホンを取ったが、『リング2』はオリジナル作の監督である中田秀夫が監督を務めている)。
こうしたムーブに乗りJホラー作品は少なからぬ本数が製作・公開され続けているものの、粗製濫造やこれに伴うブームの終焉を指摘する声もあるため今後の動向は窺い知れないが(2007年1月現在)、仮にブームが去ったとしても独自の作風を成し得たJホラーは映画史の記録に書き留められるとともに、今後もホラー作品に留まることのない様々な影響を残すと思われる。
[編集] 代表的なホラー映画
- 吸血鬼ドラキュラ (Dracula / Horror of Dracula) イギリス 1958
- ナイト・オブ・ザ・リビングデッド (Night of the Living Dead) アメリカ 1968
- エクソシスト (The Exorcist) アメリカ 1974
- 悪魔のいけにえ (The Texas Chansaw Massacre) アメリカ 1974
- サスペリア (Suspiria) イタリア 1977
- ゾンビ (Zombie Dawn of the Dead) アメリカ・イタリア 1978
- ハロウィンシリーズ (Halloween) アメリカ 1979
- エイリアンシリーズ (Alien) アメリカ 1979
- 13日の金曜日シリーズ (Friday the 13th) アメリカ 1980
- シャイニング (The Shining) アメリカ 1980
- 遊星からの物体X (The Thing) アメリカ 1982
- エルム街の悪夢シリーズ (A Nightmare on Elm Street) アメリカ 1984
- チャイルド・プレイシリーズ(Child's Play) アメリカ 1988
- ラストサマーシリーズ アメリカ 1997
- 花嫁吸血魔 日本 1960
- 呪いの館 血を吸う眼
- 血を吸う薔薇
- 幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形
- 学校の怪談シリーズ 日本
- パラサイト・イブ 日本
- リングシリーズ 日本
- らせん 日本
- 呪怨シリーズ 日本
- 着信アリシリーズ 日本
- 仄暗い水の底から 日本
- Jホラーシアターシリーズ 日本
- SIREN 日本
[編集] 関連項目
- 怪奇映画