中ノ鳥島
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中ノ鳥島(なかのとりしま)は、北緯30度05分、東経154度07分にあったとされる島。別名ガンジス島。また、近傍には「ガンジス礁」もあったとされる。
自然科学の面からみて実際には存在した可能性のない架空の島であるが、日本の領土として正式に認定されていた時期がある点で、世界各地の「幻の島」「伝説の島」とは一線を画する。
海図等では「中ノ鳥島」の表記が用いられたが、日本政府の発する命令(政令・省令等)では「中鳥島」の表記が多く用いられた。(日本国憲法下での官報掲載例は前者2件、後者27件)
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[編集] 30年以上も「存在」し続けた幻の島
1907年(明治40)に山田禎三郎が発見、上陸して探検、測量まで試みた。この報告からすれば、島は外周7.6km、面積1.53km2、サンゴ礁と思われ植生もあった。また、島は鳥の糞が積もってできた燐鉱石で覆われており、これは当時、火薬原料や肥料として重要視されていた。山田はこの島を開発するため、日本による領有を訴え、翌年に政府によって日本領とされて海図に記載された。
しかし、それ以来再び中ノ鳥島を発見することが出来ず、特に大正時代には周辺海域を大規模に探索したが、全く発見できなかった。こうして暗黙のうちに実在しないということでガンジス礁とともに1943年(昭和18)に海図から削除された。しかし、時は太平洋戦争(大東亜戦争)の最盛期で、敵国にわざわざ知らせることも無いとして、終戦後の1946年(昭和21)まで地図に記載されていた。
実際に島があったものが水没したのか、元々存在せずに山田禎三郎が他の島と勘違いし、あるいはでっち上げたのかは不明である。また、山田が本当に探検したかも疑う余地が大いにあるが、なぜ山田がこれほどまでに壮大な大嘘をでっち上げなければならなかったのかも謎である(本件についてはいくつか仮説があるが詳しくは以下に記す)。
[編集] 島は存在できたのか
中ノ鳥島のあったとされる海域は水深5000メートルであり、火山帯からも外れており、島があったとしても、それがすぐに消えてしまうとは考えにくい。しかし、近くには富士山よりも大きい4000メートル級の海山が存在し(それでも500kmも離れている)、水深1400メートルの高さに頂上があるそうで、本当に存在していた、という可能性がないわけでもない。しかし、数年の間に1400メートルも水没するためには、大規模な地殻変動が起こるか、火山の山体崩壊が起こらなければならない。その場合は絶対に大津波が発生し、日本沿岸に到達するはずで、このような記録は無く、実在したと言うには苦しいいいわけである。
[編集] なぜ「発見」されたのか
小笠原諸島には「山田禎三郎がこの島と勘違いしたのではないか」という島もいくつか存在し、ひとつは最東端の南鳥島(ただし、当時は人が住んでいた)がその例である。ほかには、当時火山活動によって、島ができては海没を繰り返していた、新硫黄島というのもあるが、結局勘違いなのか、でっち上げなのか、今となってはわかることはないであろうと思われる(だが、実際に上陸し、測量までした、と言っているのは、なかなかの周到さを感じさせる)。
ちなみに、日本近海の太平洋海域はこの手の幽霊島の宝庫で、南鳥島の南西約400kmに存在したとされるロス=ジャルディン諸島などが典型的な例である。16世紀に発見報告があって以来海図に載り続け、最終的に不存在とされたのは中ノ鳥島が不存在と確定したさらにあと、何と1972年のことであった。
[編集] その後も「亡霊のごとく」
終戦後、「日本」の範囲について指令が出るのだが、その文章の中に中ノ鳥島が出ている。
日本領域として特に指定せられる島嶼には(略)次の島嶼は除かれてゐる。 (略) 北緯30度以南の琉球(南西)諸島(但し口ノ島を含む)伊豆、南方、小笠原および火山(硫黄)列島(但し伊豆諸島は21年3月26日連合軍総司令部より日本行政権行使範囲に包含せしめる旨の通達があつた)その他外辺の太平洋諸島(大東島、沖ノ鳥島、南鳥島、中ノ鳥島を含む) (後略)
その10年後にも、『高等新地図』に描かれていたりと、ちょくちょく現れたようだが、当然のごとく今は存在を否定されているのは書くまでもない。
[編集] 幻の島が出現したのはなぜか
なぜこのような「幻の島」がでっち上げられたのか興味が尽きないところであるが、本件については研究者もおらず、文献も乏しく真相ははっきりしない。しかしながら、有力な説として「詐欺話ででっち上げられた」という説がある。その概要は以下の通りである。
中ノ鳥島の発見報告書には「高純度の燐鉱石が大量に埋蔵されている」「(羽毛を取ることのできる)アホウドリが多数生息している」という記述がある。これらは当時商品価値の高いものであったし、実際に山田の名義でこれらの事業を実行する許可を求めている。当時沖大東島(ラサ島)においても燐鉱石が採掘され、開発者に莫大な利益をもたらしていることと照らし合わせても、中ノ鳥島はあまりに都合のよい「儲かる島」だといえる。
ところが、この絶海の孤島を開発するためには多額の初期投資が必要なことも確かである。従って「島の開発資金を集めるという名目で詐欺話を企てた」と考えれば辻褄が合ってくるのである。もちろん話に信憑性を持たせないと投資家が資金を出すことはないので、わざわざ国に申し出て国土として認めてもらったと考えることができる。また、山田自身も過去の経歴や記録を見れば探検航海に出たとは考えにくく、「詐欺話に信憑性を持たせるためそれなり信頼のおける者」として詐欺師が担ぎ出したと考えると辻褄が合うのである(それなり信頼性のありそうな者を担ぎ出すのは詐欺師の常套手段である)。
仮に本説が「幻の島」の真相であったとすると国やマスコミも騙されるほど巧妙な詐欺話であったが、肝心の出資話は大きく展開できなかったのか、確たる記録が残っておらず最終的な確認が取れないのもまた事実である。