係数
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係数(けいすう、coefficient)は変数と定数とが積によって結合されている項の定数因子。乗法的定因子、定数乗法的因子。
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[編集] 導入
項 2x のように、変数(x)と定数(2)とが積によって結合されている項を考えるとき、定数にあたるものを、その項の係数という。したがってこの例で、係数は 2 である。
もう少し一般に、文字列を積によって結合された単項文字式とみなす。例えば文字列
- abcxyz
は 6 つの文字の積によって構成される単項文字式であるとする。ここでいくつかの文字、例えば x, y, z に注目してこれを変数として扱うことにすると、変数ではない部分である abc は "定数" 因子 と見なされる。この定数部分をこの文字式の係数という。
- このような文字式の場合、注目する文字を変えれば係数も変わるので、何を変数とするのかということには注意を払う必要がある。以下しばらくは a, b, c を定数、x, y, z を変数を表す文字として固定して扱う。
単項文字式の間に和が定義されると多項文字式が考えられる。このようなとき、与えられた多項文字式を分解して、各項を単独の単項文字式と思うことによりそれぞれの項の係数が考えられるから、そのような係数を総じて与えられた多項文字式の係数と呼ぶ。たとえば、
- ax + bcy + a2byz
(a2 は aa の略記)の係数とは 3 つの単項文字式 ax, bcy, a2byz のそれぞれの係数である a, bc, a2b のことである。
[編集] 例
x を変数、c0, c1, c2, ..., cn を実数の定数として、一変数多項式
を考える。(定数項は x0 = 1 が変数部分だと考えて)この多項式の係数は c0, c1, c2, ..., cn という数列である。また、ふたつの変数 a, b に対して、二項式 a + b の羃乗を展開して得られる多項式
の係数として二項係数が定義される。逆に、与えられた数列から、それを係数に持つ多項式や羃級数を作ることができる(母関数と呼ばれる)。たとえば、x = 0 で無限回微分可能な関数 f(x) に対して
で与えられる無限数列から、それを係数とする級数
を作ることができる。この級数はテイラー級数と呼ばれ、その係数はテイラー係数と呼ばれる。
文字式の "変数" 部分は本当に変数でなくてもよい。変数に定数や関数を「代入」したものとみなせれば、その係数というものを考えてもよいのである。たとえば、34 の 3 進展開
を考えると、33 の係数は 1, 32 の係数は 0 などということができる。またたとえば、フーリエ級数と呼ばれる式では三角関数 sin(nx), cos(nx) (n は自然数)を変数として
のような形の級数を考える。フーリエ級数の係数となる {an}, {bn} は積分で決定され、フーリエ係数と呼ばれる。
方程式や不等式のように等号や不等号で式がつながれていた場合にも、各辺が多項文字式となっていれば、それぞれの辺の係数を合わせて、式全体の係数と考える。例えば比例関係 A = kB からは k を係数とみなすことができて、k は比例係数と呼ばれる。
[編集] 抽象化
ある集合 A に和が定義されて、a1, a2, ..., an を A から取り出すとき常に
という形の元がまた A に属す(これを A が和について閉じているという)とき、さらに A 上の変換の族 ri: A → A (i = 1, 2, .., n) が与えられるなら
という式(線型結合)は意味を持ち、やはり A に属す(このとき A に作用が定まっているという)。このような状況で、変換 ri を ai の係数と呼ぶ。これは既に述べた「多項式の係数」とは異なるのであるが、制限を設けて変数の冪和の形の線型結合に考察を限れば同じものとなるのであり、したがってここで述べた意味の「係数」は多項式の係数の一般化を与えている。このような例として、環上の加群や群環を挙げることができるが、後者においては和は非常に形式的なものであって、環 R に係数をとる(半)群 G 上の(半)群環 R[G] で
と記される元というものの実体は
となる写像 f: G → R のことであり、係数 ri はこの写像の像である。このことは例えば多項式の場合にも通用する。実際、x が乗法的に生成する巡回半群上の関数として多項式を捉えることができる。つまり、N は自然数全体の成す集合で 0 を含むものとし、x0 = 1 として、変数 x の自然数冪全体の成す集合 X = {xk | k ∈ N} を考えるとき、X から実数全体の成す集合 R への写像 f: X → R として
を考えることと、実数係数多項式
を考えることとは等価である。そして、この写像と多項式とを同一視するならば、写像の像としての係数は導入で述べた意味での多項式の係数そのものに一致する。このような方向で一般化を推し進めるならば、作用などの構造を度外視してみれば、写像
が与えられたとき、この c を
と形式的な和の形で書いて、c による x の像 cx を x の係数と呼ぶということになる。もちろん、このような形式和が何らかの実質的あるいは論理的な意味を持つかどうかは、ここでいう集合 X や C あるいは写像 c のもつ構造に依存するものである。