冬のライオン
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『冬のライオン』 (The Lion in Winter) は、1966年初演のブロードウェイの演劇、1999年にはリバイバル上演されている。また1968年にハリウッドで映画化され、2003年にはテレビ映画としてリメイクもされた。
1183年クリスマスのシノン城を舞台に、中世のイングランド国王ヘンリー2世と王后エレノア、その三人の息子と若きフランス王フィリップを絡め、権力と人間関係を巡る愛憎を描く。
歴代のエレノア役を演じた女優が常に絶賛されさまざまな賞に輝く一方で、フィリップ役には将来が有望な美男の新鋭俳優が起用されることでも話題になる作品である。
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[編集] 設定
登場人物はすべて歴史上の実在の人物であり、背景も史実に基づいている。しかし登場人物の性格や彼らに関する逸話は、史実というよりも、むしろ英米で広く一般に知られている伝説的な人物像をもとに描かれている。また1183年のクリスマスにシノン城に一家が集まったというのも、前年の1182年のクリスマスにノルマンディのカンに一家が集まったことを下敷きにした創作である。
[編集] 登場人物
- ヘンリー(イングランド王 ヘンリー2世、50歳)
- アンジュー伯・ノルマンディー公という地方領主に過ぎなかったヘンリーが西ヨーロッパ全土に覇を称えるアンジュー帝国を打ち立てることができたのも、そもそもは10歳ちかく年上のエレノアが広大な所領を持参金に妻になってくれたおかげだった。しかしロザムンドという愛人を寵愛するあまり、エレノアとの別居、ひいては息子たちの反乱を招いてしまう。その後息子たちとはうわべでは和解したが、しこりは残る。それから10年、エレノアを軟禁状態におくなか、現在では養女同然に育てていたフランス王女アリースと事実上の夫婦関係にある。絶頂期にあって体力的にはまだまだ壮健ながら、後継者のことを考えると不安は尽きない。「冬のライオン」とは、このヘンリーのことをさす。
- エレノア(アリエノール・ダキテーヌ、59歳)
- フランス全土の3分の1にも及ぶ広大なアキテーヌ、ガスコーニュ、ポワチエ領の女公で、かつては自領の軍勢を率いて十字軍に参加したこともある女傑。恋多き女で、フランス王ルイ7世の后でありながら不貞を理由に離婚されたほど。その腹いせにアンジュー伯・ノルマン公のヘンリーと結婚、ヘンリーがイングランド王を継承するに及んでフランス国土の大半がイングランド領に帰してしまったという背景がある。ヘンリーに愛人ができると愛想を尽かし単身アキテーヌに帰ってしまうが、息子たちを煽ってヘンリーに対して反乱を起こさせこれに加わる。しかし捕らえられ、かれこれ10年近く軟禁状態におかれているが、その存在は依然として陰ることがない。
- リチャード(後のイングランド王 リチャード1世、26歳)
- 血のあるところリチャードありと言われた勇猛果敢な騎士。それでありながら母エレノア公認の同性愛者で、数年前にはフィリップと恋愛関係にあった。エレノアの愛情を一身に集めながらも、母の偉大な存在は常にコンプレックスとなって彼を苦しめる。
- ジェフリー(後のブルターニュ公 ジョフロワ2世、25歳)
- 子供のときからリチャードを偏愛する母とジョンを偏愛する父を見て育ったジェフリーは、愛情の欠如を己の権謀術数の才で補っていた。家庭崩壊の機に漁父の利を得て、自らが王権の継承者たらんと画策する。
- ジョン (後のイングランド王 ジョン、16歳)
- 甘えん坊で愚鈍な末っ子。母エレノアの軟禁後ヘンリーの愛情を一身に受けて育ったが、父が最も愛する息子であることを過信するあまり、プライドばかりが高い性格に。
- フィリップ (フランス王 フィリップ2世、19歳)
- 沈着冷静で気品ある若きフランス王。エレノアの前夫でヘンリーが事実上責め滅ぼしたルイ7世の子だが、ヘンリーとエレノアというあまりにも偉大な夫妻に養子同然に育てられたフィリップは、いつしかあまりにも弱かった実の父をも憎むようになっていた。そんな歪んだ性格のフィリップはリチャードと関係をもつが、果たしてそれは真実の愛だったか、復讐の手段だったのか。
- アリース(フランス王女、23歳)
- フィリップの異母姉で、やはりヘンリーとエレノアに養女同然に育てられる。エレノアの軟禁後、ヘンリーは成長したアリースを一人の女性として愛するようになっていた。しかしアリースを妻とすることは将来のフランス王位継承権を左右することにつながりかねないことから、リチャードとジョンもアリースをわが妻にとうったえる。
[編集] プロット
1183年のクリスマス。イングランド国王ヘンリーは、自分への反乱が絶えない家族や、領土を巡るフランス王との長年の争いを解決するため、軟禁中の后エレノア、息子のリチャード、ジェフリー、フランス王のフィリップをシノン城に呼び集めた。これに、ヘンリーの愛する末子のジョンと、愛人のフランス王女アリースが絡んで、さまざまな駆け引きが繰り広げられる中、崩壊した家庭の人間模様が改めて浮き彫りにされてゆく。息子たちの相変わらずの裏切りに愛想が尽きたヘンリーは、かれらを幽閉し、エレノアとの結婚を無効として、アリースと結婚して新たな子を得ようと、ローマの教皇のもとへ赴こうとするが…
[編集] 1966年舞台版
ブロードウェイのアンバサダー劇場で1966年3月3日本演初日。
[編集] キャスト
- ヘンリー: ロバート・プレストン (Robert Preston)
- エレノア: ローズマリー・ハリス (Rosemary Harris)
- リチャード: ジェームズ・ラドー (James Rado)
- フィリップ: クリストファー・ウォーケン (Christopher Walken)
[編集] スタッフ
- 原作・台本: ジェームズ・ゴールドマン
- 監督: ノエル・ウィルマン
- 音楽: トーマス・ワグナー
[編集] 賞
- トニー賞
- 主演女優賞: ローズマリー・ハリス 受賞
- 監督賞: ノエル・ウィルマン ノミネート
[編集] 1968年映画版
エンバシーピクチャーズ製作、137分、1968年10月30日アメリカで初公開。
[編集] キャスト
- ヘンリー: ピーター・オトゥール (Peter O’Toole)
- エレノア: キャサリン・ヘプバーン (Katharine Hepburn)
- リチャード: アンソニー・ホプキンス (Anthony Hopkins)
- フィリップ: ティモシー・ダルトン (Timothy Dalton)
[編集] スタッフ
- 原作・脚本: ジェームズ・ゴールドマン
- 監督: アンソニー・ハーヴェイ
- 音楽: ジョン・バリー
- 撮影: ダグラス・スロコーム
[編集] 賞
- アカデミー賞
- 作品賞 ノミネート
- 主演男優賞: ピーター・オトゥール ノミネート
- 主演女優賞: キャサリン・ヘプバーン 受賞
- 監督賞: アンソニー・ハーヴェイ ノミネート
- 作曲賞: ジョン・バリー 受賞
- 衣装デザイン賞 ノミネート
[編集] 1999年舞台版
ブロードウェイのクライテリオンセンター・ステージライト劇場で1999年2月17日プレビュー初日、3月11日本演初日。
[編集] キャスト
- ヘンリー: ローレンス・フィッシュボーン (Laurence Fishburne)
- エレノア: ストッカード・チャニング (Stockard Channing)
- リチャード: シューマ・ハンター=ゴールト
- フィリップ: ロジャー・ハワース (Roger Howarth)
[編集] スタッフ
- 原作・脚本: ジェ−ムズ・ゴールドマン
- 監督: マイケル・マイヤー
[編集] 賞
- トニー賞
- 主演女優賞: ストッカード・チャニング ノミネート
[編集] 2003年テレビ版
エンバシーピクチャーズ製作、167分。2003年12月26日イギリスで初公開。1968年の映画版よりも30分長くなっているのは、68年版ではカットされたいくつかの台詞を元に戻して舞台版に近い仕上げにしているほか、時代背景を表わすシーンを多く織り交ぜて臨場感を出しているため。
[編集] キャスト
- ヘンリー: パトリック・スチュワート (Patrick Stewart)
- エレノア: グレン・クロース (Glenn Close)
- リチャード: アンドリュー・ハワード
- フィリップ: ジョナサン・リース=マイヤーズ (Jonathan Rhys-Meyers)
[編集] スタッフ
- 監督: アンドレイ・コンチャロフスキー
- 音楽: リチャード・ハートレー
- 撮影: セルゲイ・コズロフ
[編集] 賞
- ゴールデングローブ賞・ミニシリーズ部門
- 作品賞 ノミネート
- 主演男優賞: パトリック・スチュワート ノミネート
- 主演女優賞: グレン・クロース 受賞
- エミー賞・テレビ映画部門
- 作品賞 ノミネート
- 主演女優賞: グレン・クロース ノミネート
- 監督賞: アンドレイ・コンチャロフスキー ノミネート
- 衣装デザイン賞 受賞
- 美術賞 ノミネート
- ヘアメイク賞 ノミネート
[編集] 名セリフ
『冬のライオン』はシェークスピア調の荘重な言い回しに現代的なジョークを織り交ぜ、深刻なシーンにも常に一抹のおかしさを残した絶妙な台詞が特徴的である。以下にはそうした名台詞のいくつかを紹介する。
- (イエス・キリストの生業が大工だったことから)
- エレノア: 死んだ大工が生き返るような世の中ですからね、なんだって起りますよ。
- Eleanor: In a world where carpenters get resurrected, everything is possible.
- (フィリップに向かって、地図を見せながら)
- ヘンリー: 坊主、ここを見てくれ…
- フィリップ: わたしは王だ。誰の坊主でもない!
- ヘンリー: (笑いながら) 王だと? 紫のクッションにそのケツを乗せているからか?
- Henry: Now see here, boy...
- Philip: I am a king. I am no man’s "boy"!
- Henry: A king? Because you put your ass on purple cushions?
- (フィリップに向かって)
- ヘンリー: ここらで調停にしたいと思ってな。前回お前さんに残した分はちょっと少なすぎたわい。
- フィリップ: いかにも。何もなしというのは確かに少なすぎだ。
- Henry: I want to reach a settlement. I left you with too little earlier.
- Philip: Yes, nothing is too little.
- (弟ジョンに向かって)
- ジェフリー: おまえでも「王子」なら、アフリカの猿一匹々々にもまだ望みがある。
- Geoffrey: If you’re a prince, there’s hope for every ape in Africa.
- (リチャードに向かって)
- エレノア: 元気そうね。やはり戦争が性に合うのね。いつも話には聞いていますよ、あなたの殺戮のあれやこれやはちゃんと。まあおかけなさいな。
- リチャード: これは拝謁ですか? おやすみなさいの抱擁と接吻? それとも待ち伏せの不意打ち?
- エレノア: 再会であることを祈りましょう。
- Eleanor: You look fit. War agrees with you. I keep informed; I follow all your slaughters from a distance. Do sit down.
- Richard: Is this an audience... a good night hug with kisses... or an ambush?
- Eleanor: Let’s hope it’s a reunion.
- (ヘンリーに向かって)
- エレノア: ヘンリー?
- ヘンリー: む?
- エレノア: 白状するわ。
- ヘンリー: 何だね?
- エレノア: 子供たちのこと、わたしもあまり好かないのよ。
- Eleanor: Henry?
- Henry: Hmmm?
- Eleanor: I have a confession.
- Henry: Yes?
- Eleanor: I don’t much like our children.
- (国王と王后として正装でクリスマスディナーの席へ向かう途上で)
- エレノア: わたしに何をして欲しいというの? (アキテーヌを) 手放す? (リチャードの王位継承を) 諦める? (あなたに) 屈服する?
- ヘンリー: 少しばかりの安らぎが欲しいだけだ。
- エレノア: 少しばかり? 遠慮しないでよ。永遠の安らぎなんていかが? (笑いながら) あらこれいい考えね。
- Eleanor: What would you have me do? Give out? Give up? Give in?
- Henry: Give me a little peace.
- Eleanor: A little? Why so modest? How about eternal peace? Now there’s a thought.
- (短剣をかざしてジョンを追いかけ回す兄リチャードから逃げまわりながら、母エレノアに助けを求めて)
- ジョン: ナイフだ! ナイフを持ってるんだよ!
- エレノア: (呆れながら) そりゃナイフぐらい持ってるわよ。リチャードはいつもナイフを持ってるわ。われわれはみんな持ってるでしょうが。蛮族の末裔なんだから、しかも1183年よ、今どき誰だってナイフぐらい持ってるわよ。
- John: A knife! He’s got a knife!
- Eleanor: Of course he has a knife, he always has a knife, we all have knives! It’s 1183 and we’re barbarians! How clear we make it.
- (ヘンリーに向かって)
- エレノア: あなたのことを心から愛したわ。そして今でも。
- ヘンリー: 今までわしについてきた嘘のなかでもそれが最悪だ。
- エレノア: そう。だから今までとっておいたの。
- Eleanor: I adored you. I still do.
- Henry: Of all the lies you’ve told, that is the most terrible.
- Eleanor: I know. That’s why I’ve saved it up until now.
- (ジョンに向かって)
- エレノア: 静かになさい、母さんは喧嘩してるんだから!
- Eleanor: Hush dear, mother’s fighting.
- (ヘンリーから結婚を無効にしたいということを打ち明けられて)
- エレノア: エレノアは外、アリースは内... なぜ?
- ヘンリー: 新しい妻、わしに息子を生んでくれる妻だ。
- エレノア: 息子ってあなた、それだけはもうこりごりだと思っていたわ。
- Eleanor: Out Eleanor... in Alais. Why?
- Henry: A new wife, wife, will bear me sons.
- Eleanor: That is the single thing of which I would have thought you had enough.
- (アリースに向かって)
- ヘンリー: ローマへ行くぞ、教皇に会う。
- アリース: また破門でもされたの?
- Henry: We’re off to Rome to see the Pope.
- Alais: He’s excommunicated you again.
[編集] 関連項目
- プランタジネット朝
- イングランド王 ヘンリー2世
- アリエノール・ダキテーヌ
- イングランド王 リチャード1世(獅子心王)
- イングランド王 ジョン(欠地王)
- フランス王 フィリップ2世(尊厳王)
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