旅客機のコックピット
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旅客機のコックピットとは、運行乗務員が旅客機の操縦をおこなう操縦室のことである。現在ではディスプレイを多用したグラスコックピット化されているため、以前よりも計器が統合され総計器数が減少したことと、高度なコンピュータ化により運行乗務員を減らすことに成功している。
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[編集] コックピットクルー
操縦席で運行を行う乗務員のことをコックピットクルーという。現在は航空通信士、航空機関士などの乗務員が必要な旅客機が減少しているので通常2人であることが多いが、いまだに3人や4人以上いる場合もある。
現在は多くの旅客機で機長(キャプテン)、副操縦士(コ・パイ)だけでの運行が可能となっている。
操縦士による座る席の指定はないが、機長が左席、副操縦士が右席に座るのが一般的となっている。これは、船舶に倣って乗客の搭乗は左側から行われるため、機長がそれを確認するためには左側に座った方が都合がいいためである。コックピットクルーの服装は法律などで定められた制服で、両肩についている金色の線の数が機長のほうが副操縦士よりも多い(一般には4本線が機長、3本線なら副操縦士)。
役割分担は、グラスコックピット化される以前は航空通信士が通信、航空機関士がエンジンや飛行システム関係の操作、機長が操縦と指揮、副操縦士が速度、高度、方位などの操作をおこなっていたが、グラスコックピット化され1機あたりのコックピットクルーが減った今は、主に、機長が操縦と指揮、副操縦士が通信とそのほかの操作をおこなっている。
また、大型機や長距離線には予備のコックピットクルーであるデッドヘッドと呼ばれる乗務員が同乗していることがある。
[編集] 計器と操作
以下では、グラスコックピット化された旅客機の計器と操作の概要を述べる。
[編集] MCP
MCP とはモード・コントロール・パネルの略で、コックピットの計器の中でも最も上方にあり、横に細長い。このパネルは、グラスコックピット化される以前から現在まで、形態、機能、操作方法等ほとんど変わっていない。
このパネルでは速度、高度、方位の指定がおこなわれる。また、オートパイロットの操作(自動操縦と手動操縦の操作)もおこなわれることから、オートパイロット・パネルなどとも呼ばれる。
[編集] PFD
PFDとはプライマリ・フライト・ディスプレイの略で、このディスプレイは右席と左席に1つずつある。
水平姿勢、気圧補正値、速度、高度、昇降率、ILS(着陸装置)の状況などが表示される。ボーイング767では、このパネルをEADIと呼んでいる。また、後で述べるNDとこのPFDを切り替えて表示させることも可能である。
[編集] ND
NDとはナビゲーション・ディスプレイの略で、このディスプレイでは操縦している旅客機のナビゲーターやフライトプラン(運行路線)、風向、風速に関する情報が表示される。このディスプレイも、PFDと同様で左右に1つずつある。車で言えば、カーナビゲーションに当たる。また、切り替えて気象情報を表示させることも可能である。
[編集] EICAS
EICAS(アイキャス)はNDにはさまれる形で中央に上と下で2つある。上方のディスプレイにはエンジン情報、燃料、油圧、客室温度、電気、フラップ情報、システム関連などが表示される。また、緊急事態の時の警告やメッセージもこのディスプレイに表示される。
下方のディスプレイは、このディスプレイの操作などがおこなわれるが、必要がないときは何も表示されないように設定出来る。
[編集] FMS/CDU
FMS/CDUとはフライト・マネージメント・システム/コントロール・ディスプレイ・ユニットの略で、コックピットのやや下方にあり、左右に2つずつある。乗務員はこのユニットを操作し FMS に対し必要な情報の入力(燃料の搭載量や機体重量)及び航法データの入手(目的地までの時間、距離、自機の位置)を行い、それらを元に航路の設定に用いる。
[編集] 操縦桿とサイドスティック
操縦桿とは、旅客機の操作をするもののひとつで、ハンドル状になっている。ピッチ(上昇と降下)とロール(左右の傾き、横滑り)などの操作をするための装置で、ハンドルにも無線の送信用・自動操縦解除などいくつかのボタンがついていることがある。また、エアバスが製造する旅客機ではサイドスティックと呼ばれる、より小型で片手でにぎれる程度のものが左右、端に取り付けられている。
[編集] スラストレバーとリバースレバー
スラストレバーとリバースレバーは、中央の下方にある。
スラストレバーはエンジンの噴射力を調節するためのレバーである。レバーは、エンジンひとつにつきひとつずつある。リバースレバーは、エンジンの逆噴射(ブレーキ)をかけるためのレバーである。このレバーもエンジンの数だけあるのが普通だが、エアバスA380の場合、エンジン4つに対し2本しかない。これは、エンジンの取り付け間隔が広く、万が一故障した際に直進が困難になることから個々のエンジン出力をコンピュータ制御としたため、2本に集約されたものである。
[編集] 予備計器
停電や故障したときなど、緊急事態に備えた予備計器も用意されている。水平・定針儀、速度計、高度計の3つはグラスコックピット化された当初、アナログ式が取り付けられた。ボーイング777以降は、ボーイング他社を含めて LCD タイプの予備計器物が搭載される傾向にあるが、アナログ式予備計器と同様に、常用計器とは別の情報源から表示を行なっており、主用計器の多重化が計られている。
[編集] コックピットの出入り口
コックピットにはハイジャックなどの、関係者以外の進入防止のため、よほど小型ではない限りドアが取り付けられている。多くの場合ドアは頑丈で、ロックがかけられる。しかし、ハイジャッカーにより客室乗務員を人質に取られてしまう場合に関しては、未だに頭を悩まされている。
ボーイング747などの大型機では、客室から入ろうとしているのが誰かを確認するための丸い小窓が取り付けられている。また、この小さな窓はコックピットクルーがトイレに入るタイミング(いつ空いているかが確認できる)も計れる事から、非常に役立っている。