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西洋の命数法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

西洋の命数法(せいようのめいすうほう)では西洋の諸言語における命数法について述べる。

西洋の諸言語の命数法には、long scaleshort scaleと呼ばれる2種類がある。これは漢字文化圏でいう万万進万進の関係に似たものである(命数法#漢字文化圏を参照)。 long scaleやshort scaleは標準的な用語ではないが、意味するところが明確なので、百科事典や科学的な文章でしばしば使われる。

19世紀から20世紀の大部分では、イギリスでは前者のみ、アメリカでは後者のみが使われていた。それ故、それぞれ「イギリス式」「アメリカ式」とも呼ばれる。しかし今日ではイギリスでも後者が使われるため、「イギリス式」というのはあまり適切ではない。

歴史上フランスでは双方共に用いられてきたが、現在では他のヨーロッパ諸国に合わせてlong scaleに落ちついた。

目次

[編集] long scaleとshort scaleの比較

英語の場合は、以下のようになる。

short scale short scaleの理屈 long scale long scaleの理屈
100 one 1 one 1
103 thousand (103)1 + 0 thousand (106)0.5
106 (百 million (103)1 + 1 million (106)1.0
109 (十 billion (103)1 + 2 thousand million / milliard (106)1.5
1012 (一 trillion (103)1 + 3 billion (106)2.0
1015 (千兆) quadrillion (103)1 + 4 thousand billion / billiard (106)2.5
1018 (百 quintillion (103)1 + 5 trillion (106)3.0
  • biは2を、triは3を表すギリシア語に由来する。
    • short scaleでは、1,000倍される毎に新しい名前がつく。
    • long scaleでは、1,000,000倍される毎に新しい名前がつく。
  • 古語に十億を表すmilliardがあるが、英語では使われることはない(言語によっては使われる)。だが金融市場においては誤解を避けるために十億を"yard"(milliardに由来)と言うことがある。
  • より大きな数の表し方についてはen:Names of large numbersを参照。

[編集] 歴史

年代 出来事
1475年 Jehan Adamが1012(一兆)、1018(百京)を表す言葉としてbymillion, trimillionを用いた。
1484年 フランス数学者Nicolas Chuquetが著書『Triparty en la science des nombres』の中で、1012(一兆)、1018(百京)、1024(一)、1030(百)、1036(一澗)、1042(百)、1048(一)、1054(百恒河沙; 万進法による)をそれぞれbyllion tryllion, quadrillion, quyllion, sixlion, septyllion, ottyllion, nonyllionと表した。

この本は1870年代に初めて発行されたものであったが、この大部分はEstienne de la Rocheの著書『L'arismetique』(1520) からとったものであった。

1549年 ジャック・ペルチエがmilliard (milliart) を "Million de Millions" (millionのmillion) すなわち 1012 (一兆) として用いた。彼はこの用法をフランス人の学者Guillaume Budé (1467-1540) によるものだとした。
17世紀 6桁(百万)毎に名前の変わる伝統的な方式(後のlong scale)から、3桁(千)毎に名前の変わる新しい方式(後のshort scale)が分かれ、フランスやイタリアでbillionを109 (十億)の意味で使う科学者が現れた。

それでもthousand millionやmilliard(ペルチエの用語)を用いる方が多数派であった。こちらの用法がイギリスやドイツその他ヨーロッパ全域で採用され、Chuquetのlong scaleのbillion(一兆)が使われ続けることとなった。

18世紀半ば Short scaleの意味でのbillionがアメリカのイギリス植民地にもたらされる。
19世紀はじめ フランスが広くshort scaleに移行し、アメリカ合衆国がそれに続き、学校でも教えられるようになった。19世紀のフランスの百科事典の多くではlong scaleは省かれたり、「今やもう古い方式である」と書かれたりしていた。
1926年 H. W. Fowlerの『Modern English Usage』に、「アメリカ(フランスに従った)では"billion"はイギリスと同じ意味ではないことを覚えておくべきだ。billionは我々(イギリス人)にとってはmillionの2乗すなわちmillion millions(一兆)を意味するものだが、アメリカ人にとってはthousandの3乗すなわちthousand millions(十億)を表す。これは我々がmilliardと呼んでいるものである。我々の意味におけるbillionが天文学者以外には使い勝手が悪いからといって従わないのは残念なことである。」と記された。
1948年 国際度量衡総会はlong scaleの普遍的な使用を提案し、short scaleを使っている国々にlong scaleに戻すよう呼びかけた。
1961年 Journal Officiel(フランスの官報)は、フランスで公式にlong scaleが用いられていることを確認した。(Décret 61-501, page 4587, note 3 and erratum on page 7572).
1974年 イギリス首相ハロルド・ウィルソンは、これからは政府の統計でshort scaleを用いると述べた。[1]

20世紀の最後の四半期には、他の多くの英語圏の国々もこれに続いてshort scaleに切り替えた。 しかしながら、これらの全ての国において、僅かながらlong scaleの使用は続いており、また公式にshort scaleが使われていることも明確ではない。

1994年 イタリア政府は公式にlong scaleが用いられていることを確認した。(Direttiva CE 1994 n. 55, page 12).

[編集] 現在の使用状況

[編集] short scaleもlong scaleも用いない国

以下の国では独自の命数法を使っている。

命数法#漢字文化圏を参照。

[編集] short scaleを用いる国

[編集] 英語圏

現在英語圏の多くの国でshort scaleが用いられている。以下はその一部である。

[編集] 英語圏以外

[編集] milliardを使う国

[編集] milliardを使わない国
  • ブラジル - ポルトガル語の異形を話すのであるが、109はbilhão、1012はtrilhãoといった言い方をする。
  • プエルトリコ - スペイン語の話されるアメリカ領で、一般に経済・技術に関することではshort scaleが用いられる(109はbillón、1012はtrillón)。一方、プエルトリコ外のラテンアメリカの人に向けた刊行物ではlong scaleが用いられる。

[編集] long scaleを用いる国

[編集] 上記以外のほとんどの国

例:

Milliard: フランス語デンマーク語ノルウェー語: milliard、ドイツ語: Milliarde、オランダ語: miljard、ハンガリー語: milliárd、ヘブライ語: milliard、スペイン語: millardo(mil millonesの方が頻繁に用いられる)、イタリア語: miliardo、ポーランド語: miliard、スウェーデン語: miljard (milliardということもある)、フィンランド語: miljardi、リトアニア語: milijardas、ラトビア語: miljards、チェコ語: miliarda、ルーマニア語: miliard、スロベニア語クロアチア語セルビア語: milijarda、アイスランド語: milljarður - 皆109を表す。
Billion: フランス語、デンマーク語、ノルウェー語: billion、ドイツ語: Billion、オランダ語: biljoen、ハンガリー語: billió、スペイン語: billón、ポーランド語、セルビア語: bilion、スウェーデン語: biljon(billionということもある)、フィンランド語: biljoona、クロアチア語: bilijun、ポルトガル語 (ポルトガル): bilião、スロベニア語: bilijon、アイスランド語: billjón - 皆1012を表す。

[編集] 注記

[編集] "thousand milliard" の使用

Milliardを用いるこれらの国々において "thousand milliard" という用語が時折使われるが、これは予算についての文脈でのみである。「ドイツの国債2004年末の時点で約1418 milliard ユーロであった」というように、milliardは予算の単位としては主要なものとなっている。予算以外については、1012はthousand milliardではなくbillionという。

[編集] イタリアでの用法

19世紀にはshort scaleを用いていたが20世紀になってlong scaleに戻したヨーロッパの国は2つあるが、イタリアはその1つである。(もう1つはフランス)

イタリア語では、bilioneという単語は公式には1012を意味するが、口語では109と1012のいずれをも意味し得る。またtrilioneも、1012と(稀に)1018のいずれをも意味する。それ以上も同様である。[要出典] それ故、曖昧さを避けるために、こうした単語を使う人はほとんどいない。一般には1012はmille miliardi (a thousand milliards)、1015はun milione di miliardi、1018はun miliardo di miliardi、1021はmille miliardi di miliardiという方が多い。

[編集] 英語圏での用法

[編集] アメリカでの用法

アメリカ合衆国では、19世紀初頭から学校でshort scaleが教えられてきた。それ故、専らshort scaleのみが用いられている。

[編集] 他の国々

合衆国以外の国では何世紀にも亘ってlong scaleが用いられてきた。だから、long scaleの使用もいまだ続いており、それ故short scaleの公式の立場がはっきりしていない。

[編集] イギリスでの用法

イギリス英語においてmilliardという用語は今や時代遅れであり(派生語のyardは使われる。#long scaleとshort scaleの比較を参照)、現在では刊行物でも筆記物でもbillionが109以外を意味することはない。イギリス政府もBBCも専らshort scaleを用いている。イギリス英語で1012の意味でbillionを用いた場合、誤解される可能性が高い。

[編集] オーストラリアでの用法

オーストラリアでは、2つの物を同じmillionの単位で比較するときなど、109をthousand millionと表すこともある。1999年現在、オーストラリア政府の財務省はshort scaleが標準であるとは見做していないが、時折short scaleを使っている[2]。Australian Department of Finance and Administration (AusInfoとして知られる)は現在、short scaleを推奨しており、法的定義もshort scaleである。教育、放送局、文学においても、他の英語圏と同様にshort scaleを用いている。

[編集] インドでの用法

他の英語圏の国と同様、現在、インドもアメリカのshort scaleの影響を強く受けている。しかし経済関連のメディア以外ではまちまちであり、話者の教育環境や学歴によるため、イギリスの影響下であったこともあり、多くが伝統的なlong scaleを使い続けると思われる。また、日常生活では、現在でもインド独自の命数法を用いている。(#short scaleもlong scaleも用いない国参照)

[編集] エスペラントでの用法

エスペラントの公式の単語であるbilionoやtriliono等の意味するところは曖昧であり、long scaleとshort scaleのどちらを支持するかを国家が推定するのを妨げることによって国際的なエスペラントのコミュニケーションの本質は問題を複雑化させている。 非公式だが一般に用いられている-ilionoという接尾辞を用いることで曖昧さは避け得る。これは106冪乗を表すために追加されたもので、例えばduiliono (duは「二」)は (106)2 = 1012、triiliono(triは「三」)は (106)3 = 1018 を表す。 "Miliardo"は明確に109を表す単語である。

[編集] 代替的な記法

大きな数を明確に表す方法には、以下のようなものがある。

  • 明確に106を表すmillionと他の単語を組み合わせる。
    • 109はone thousand million、1012はone million millionと表せる。だが、これを超える数については難しい。
  • 15,300 millionのように、millionに3桁を超える数をつける。
  • 指数表記を用いて m×10n などと表す。コンピュータプログラミング等においては、仮数部と指数部の間にeを挟みmenと表すこともある。こうした記法は科学者や数学者の間では一般的であり、また便利である。
  • ギガ(109)やテラ(1012)といったSI接頭辞を用いる。
    • 接頭辞は通常103 (1000)の冪乗を表すが、情報技術の分野では210 (1024)の冪乗を表すことも多い。この曖昧さを避けるために2進接頭辞が制定されたが、実際はあまり用いられていない。
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