送信機
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送信機(そうしんき)は無線通信機のうち、信号を変調して情報を送出する装置のことである。信号の受け側は受信機である。トランスミッターとも呼ばれる。電信では英語表記transmitterを略してTXと呼ぶ。
電波法では『送信設備に使用する電波の周波数の偏差および幅、高調波の強度等電波の質は、総務省令に定めるところに適合するものでなければならない』とされている。(ただし、出力が極めて微弱な無線局(電波法第4条第1項で規定される無線局)については除外される。もっとも、この場合も他の無線設備に障害を与えた場合は、運用することが出来ない(電波法第82条)ので、実際は自主的に管理する必要がある。)従って、送信機を使用する際には原則として法令に基づく免許の交付や検査を受ける。また出力の大きな送信機(一般に定格出力100W以上。「移動しない局」の設備)は火災、感電などの危険を伴うため、警報装置や電源回路などの保安上の規定が定められている。
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[編集] 変調回路
送信機は、使用する電波型式に応じて各種の変調回路が用いられる。基本的に、信号を変調回路に通して搬送波の振幅(場合によっては周波数、位相)を変化させ、増幅を行うことによって出力を得る。
[編集] 音声信号
- 終段コレクタ変調
- 低電力のAM送信機に多く用いられる方式。アマチュア無線で現在でもAMが運用されている50MHz帯のアマチュア無線機の自作では多くがこの方式である。終段増幅素子(トランジスタ、真空管)に搬送波信号を入力し、その電源回路と直列に変圧器(変調トランス)の2次巻線を接続し、1次巻線に信号を入力することにより、終段増幅素子に流れる電流を制御して変調出力を得る。なお終段増幅回路以前で変調を行い、それ以降は電力増幅のみを行う方式は低電力変調と呼ばれる。
- 平衡変調
- SSB・DSBに用いられる方式。上下どちらかの側波帯をフィルタリング、バランスド・モジュレーター(平衡変調器)と呼ばれる回路によって搬送波を信号波で変調する。搬送波をどのように処理するかによっていくつかの形式(全搬送・低減搬送・抑圧搬送)がある。
- リアクタンス変調
- FMに多く用いられる方式。発振回路に接続した可変容量ダイオードなどに逆バイアス電圧を加え、電極間容量を変化させて周波数を変調する。
[編集] 地上波テレビジョン放送
NTSC方式の地上波テレビジョン放送の映像信号を送信する送信機には次の方式がある。
- 中電力段変調方式
- 映像送信機の終段増幅回路で変調を行い、VSB(残留側波帯)フィルタによって下側波帯の一部(搬送波の周波数-0.75MHz)を除去する方式
- 低電力段変調方式
- 15~40MHzの中間周波数においてVSBフィルタを通して、VHF帯やUHF帯に周波数変換を行い、電力増幅を行う方式
隣接する送信所において同一チャンネルを用いる場合、混信を軽減するため映像搬送周波数をわずかに(±10.5kHz)ずらしている(オフセットキャリア方式)。
[編集] レーダー
レーダー送信機の多くは線路形パルス変調器を用いてる。その他、ハードチューブ型変調器、磁気パルス変調器がある。
[編集] PA(リニアアンプ・ブースター)
送信機の最終増幅段に用いられる電力増幅回路をPA(Power Amplifier)と呼ぶ。アマチュア無線家は、ファイナルと呼ぶが、一般的ではないため、無線技術者でもアマチュア無線経験の無い人には通じない。
送信機の出力を増大させるため主に外付けで用いる増幅回路をリニアアンプ、またはリニアと呼ぶ。名称は入力と出力の関係が直線的に比例することに由来する。と言ってもFM、CWなどの場合は必ずしも直線的な特性である必要はなく、電力効率の良いC級増幅回路が一般に用いられる。その場合は、ブースターと呼ぶ。
アマチュア無線では、俗に「下駄を履かせる」などと言う(背を高くする意味の他、送受信の切り替えに用いるリレーが『カタッ』と音を立てることとも掛けている)。
[編集] 免許の手続き
送信機を設置して無線局を開設する場合の免許(無線局免許状)の手続きは次のようになっている。およそ免許を必要とする無線局について、基本は全て同じ。
- 申請書(書類の提出先、申請者の住所氏名などを記入)、無線局事項書(免許状の記載事項を記入)、工事設計書(送信機の回路構成、電波の型式、空中線の型式などを記入)を総務省総合通信局に提出、手数料を納付する。
- 申請書類が電波法令に適合することが確認されれば、予備免許が与えられる。
- 予備免許に記載された事項に基づき、落成検査を受ける。
- 落成検査に合格、または免許申請の段階で“検査省略が適当”と認められ書類審査を通過した場合に、無線局免許状の交付を受ける。
電波法に定める無線局(主に空中線電力の小さい局)の場合や、証明取得設備を用いて製造された機器については、技術基準適合証明や特定無線設備の工事設計についての認証を受けることにより落成検査(変更時は変更検査)が省略される(簡易な免許手続き)。
[編集] 出力の表記
送信機の出力の表記方法には平均電力、尖頭電力などいくつかの種類があり、電波の型式によって定められている。また、無線局免許状には送信機の最大空中線電力が記載されている。
工事設計書には送信機に用いられている能動素子(半導体、電子管)のうち、電波の発射に直接関係する部分について素子の型番およびブロックダイヤグラムを記載する。以前は終段管の電圧、入力を記入していたが、素子の性能が向上したり、様々な変調方式が用いられたりするようになり空中線電力との関係が分かりにくくなったためか、現在は定格出力を記入するようになっている。
[編集] 試験項目
試験項目は送信機の種類により異なるが、下記の項目は殆どの場合に適用される。なお、項目名は総務省の呼称である。
- 周波数の偏差
- 占有周波数帯幅
- 空中線電力の偏差
- 隣接チャネル漏洩電力
- スプリアス発射又は不要発射の強度