音色
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音色(おんしょく、ねいろ)とは、さまざまな音の聞こえ方のことである。楽器毎にそれぞれ異なった音色を持ち、例えばトランペットは「プー」などといった音色の音を出し、ピアノは「ポロロン」などといった音色の音が出る。
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[編集] 音響学的な意味
音響学的には、音は時間および空間上の波動である。その波動の波形の違いによるさまざまな音の聞こえ方の違いが音色である。
時間および空間上の音をフーリエ変換すると、周波数軸上の信号へと変換できる。これを音のスペクトルと呼び、スペクトル(すなわち音を構成する周波数とその強度の分布)の違いが、様々な音色の違いとして聞かれる。各周波数成分のうち、最も周波数の低いものを基音、それ以外を上音と呼ぶ。すなわち、上音の構成の違いが、音色の違いである。
上音の周波数が基音の周波数の倍数であればそれを倍音と呼ぶ。音楽に多く使われる人声や弦楽器、管楽器の音は主に基音と倍音から成り立っている(このような音を楽音と呼ぶ)ので、そのような場合には、倍音のそれぞれの強度の比が音色を決定すると言うことができる。
逆に、意図的に人声や弦楽器、管楽器の音に倍音以外の上音を混ぜ込むことによって、独特の音色を出すこともある。日本人にとって身近な例としては、三味線のサワリといわれる仕組みを挙げることができる。
[編集] 認知科学的な意味
クオリア stub
[編集] 実際の聞こえにおける音色
実際の音にあっては、同じ音の高さ、同じ音の強さ、同じ(音響学的な意味での)音色が持続するということはあまりない。打ったりはじいたりして音を出した場合(楽器であってもそうでなくても)、音の出た瞬間が強くてそのあとは減衰する。実際にはそれだけでなく、音の高さや音色も特に音の出た直後に急激に変化することがわかっている。擦弦楽器や管楽器のように音を持続させるように作られた楽器であっても、音の出た瞬間には音が安定しないし、そもそも音が急速に強くなるという変化がある。
人間の耳は実際にはこういった変化も、音色の一部として聞き取っている。このような変化、特に音の強さの変化をエンベロープと呼び、電子楽器で音色を作るときの、重要な要素となっている。
また、ビブラートや、トレモロ、装飾音などは、このことを実際の演奏に古くから応用させたものと言うことができるだろう。
[編集] 音色と音楽表現
楽器はおおむね、その楽器を使用する人々の集団(民族など)の嗜好に即して、一つか二つの音色を目指して作られることが多い。よって、ひとつの楽器で多くの音色を出すことは困難であり、奏法の違いによっていくつかの音色を出すことができるにとどまる。よって、器楽にあっては、音色の大きな変化は、奏法の変化ないし楽器の相違によってもたらされるに留まる。 一方、声楽にあっては、歌詞による発音の違いが音色の違いになる。ところが、歌詞を翻訳したりすると、歌詞による音色の変化を作曲者が利用しようとしたとしてもその意図が十分に伝わらないことになる。
このような条件により、音楽表現にあって音色が重要ではあるが、音色の変化を音高や音強と同じレベルまで前面に出した音楽はほとんど存在しない。しかし音高や強弱、リズムは客観的に数値化、体系化しやすいのに対し、音色は非常に複雑でしかも主観に左右されることも大きく、単純に比較するのは危険である。たとえば民族によりその程度の差は大きく、たとえば西洋楽器では噪音をなるべく排除するが、和楽器では逆に噪音を様々に利用、強調した音色奏法がきわめて多彩である。三味線もそのように多彩な音色技法を発展させている例であるが、更に、特に地唄三味線においては、一人の演奏家が多数の駒を常備し、曲調や楽器のコンディションなどに応じてそれらを使い分ける。場合によっては撥や弦まで変える。これもデリケートな音色調整である。従って、特に近世邦楽は音色のレベルで相当に発展した音楽であるといえる。