R-K戦略説
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r-K戦略説とは、生物の種が、どのように子孫を残そうとするかについて、2つの戦略の間で選択を迫られているとする説である。rとKはロジスティック式に基づく。
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[編集] 発端
この部分を初めて問題として取り上げたのは、マッカーサーとウィルソンである。彼らは島嶼生物学の分野において、画期的な展開を成し遂げた。彼らによれば、島嶼においては、絶滅というのは、これまで考えられてきたような特殊な事件ではない。島外からの生物種の入植と、島内における生物種の絶滅とは、絶えず起きている当たり前の現象に過ぎない。それを前提に、彼らは島における生物の種数と、島の大きさや大陸からの距離との関係を説明することに成功した。
その中で、島における生物種の入植の成功について論じた。それによると、島への新しい種の侵入は、偶発的なものであるが、侵入した種が定着できるかどうかには、その種の性質が関係すると考えられる。具体的に言えば、たまたま複数個体が侵入する機会があったとして(単独個体では定着は困難であろう)、また、その種が入れるニッチが空いていたとして、その際に、その個体群が定着できるかどうかには、その種が素早く個体数を増加できるかどうかが重要だというのである。個体数の少なさは、それだけ絶滅の確率を上げるものと考えられるからである。この、(可能であれば)どれだけ素早く個体数を増加させられるかを表す要素を、個体群成長の数学的モデルであるロジスティック式では、内的増加率と言い、rで表す。そこで彼らは、島嶼での定着において、また既に定着した種の場合でも、何等かの理由で急激に個体数が減った場合の個体数の復旧の場合などにおいて、rを大きくするような選択(自然選択による、進化の方向づけ)が起きるものと考え、これをr選択(r淘汰)と呼んだ。
他方、絶滅にかかわる要素についても議論を行い。この場合、何より個体数が問題であると判断した。島嶼における生物個体群は、もとより狭い面積しか持ち得ず、しかも外の個体群とは隔離されている。したがって、その島での個体数の減少は、その個体群の絶滅に直結する。そこで、同一面積で、できるだけ多くの個体が生息し、それを維持し続けるような方向の選択が生じるものと考えた。彼らはこれを、ロジスティック式で環境収容力を意味するKを取って、K選択と名付けた。
[編集] 展開
このr選択、K選択という言葉は、多くの生態学者の興味を引いた。 マッカーサーとウィルソンは、この2つの選択について、必ずしも対立するものとは捉えていなかった。しかし、さまざまな手で分析が進められるうちに、次第に内容を変じ、この両者が対立するものとして考えられるようになった。
r選択とは、r、すなわち内的増加率を高くする方向への進化である。では、内的増加率を高くするにはどうすればいいか。簡単に言えば、同一時間内で、よりたくさん子供を作れるようになればよい。ロジスティック式に従えば、実際に実現される子孫の個体数は、その前の世代の個体数によって決まり、例えばすでに定員が満員の場合、どれだけ子を産もうが、両親からは2個体の子が得られるだけである。しかし、個体数が少ない状態では、より多くの子がえられる可能性がある。その時、どれだけ多くの子ができるかは、極論すればどれだけたくさんの子供を生めるかにかかっている。つまり、無駄になるかもしれないのを承知で、どれだけの数の子を作れるか、それが多い方がrは大きくなる。具体的には、一腹卵数を増やす、産卵回数を増やす、あるいは、より早い時期から繁殖を始めることなどによって、rを大きくすることができる。
K選択は、環境収容力を増やすことであるが、面積当たりの生産量が同じであれば、個体数を増加させるのは難しい。一つの方法は、個体を小さくすることで、それによって個体数そのものを増やすことは可能になる。しかし、多くの研究者は、繁殖方法において、個体数を維持する方向の進化を考えた。すなわち、確実に一定数の子を得るための方法への進化がK選択であると考えたのである。先に述べたように、定常状態では、親はさほど多くの子を作る必要はない。定常状態では、生物個体数はその種の環境収容力の限界前後であると考えられ、その場合、両親からはせいぜい2個体しか子は育たないはずだからである。したがって、この状態で、個体数を維持するためには、育たない沢山の子をなすより、少数でいいから、確実に子育てを行う方が理にかなっている。つまり、少数精鋭的に、確実に育つ子を産むのがK選択の方向性ということになる。
[編集] 選択から戦略へ
このようにして、r選択とK選択を分析して行くうちに、r選択とK選択が相反する性質を持つように理解されるようになった。rを増加させるために、たとえば産卵数を増やすとすれば、そのためには卵を小さくしなければならない。そうすれば個々の卵の生存率は低下する。逆に、生まれた子の成長の確実性を高めるには、多くの栄養を与えた方がよいから、多数を作ることができなくなる。そうすると、生物は進化の方向として、このどちらかを選んで、それぞれ選んだ方向に進化する傾向があるのではないかと言うふうに考えることができる。つまり、それぞれの生物は、どちらかの方向を、戦略として選び、それに向けて進化すると考えるわけである。もちろん、ここでは生物がそれぞれに選ぶという表現を取っているが、実際には、環境条件と系統的制約のもとで自然選択によってどちらかの戦略をとる形になる、という意味である。
このような観点から、r選択とK選択は、それぞれr戦略とK戦略と呼ばれるようになり、そのような戦略を持つ種は、それぞれにr戦略者(r-strategist)とK戦略者(K-strategist)と呼ばれるようになった。
この2つの戦略は、それぞれに有効なものであり、どちらを選んでもいいようなものであるが、それぞれに有効な状況があると考えられる。たとえば、2種の生物が競争関係にある場合を設定し、r戦略者の種が高いrと低いKを、もう一方のK戦略者が低いrと高いKを持つとして、シミュレーションを行えば、当初はr戦略者が個体数を増やすが、時間が経てばK戦略者が盛り返してr戦略者を圧倒する。これは、安定した環境ではK戦略者が優位になることを意味し、逆に見れば、撹乱の多い環境では、r戦略者が優位であるとも読める。
- 一般に、物理化学的環境が厳しい場所では、r戦略が採用されがちである。例えば極地付近では、寒さと、それに伴う食糧不足のために死亡することが多い。特に、気候変動によって寒さが厳しい年には、多くの個体が命を落とす。このような場合、個体群そのものの規模が大きく変動するような死に方をする場合がある。そのような条件下では、素早く個体数を回復できるかどうかは、絶滅を回避するためには極めて重要である。実際、トナカイは、一般のシカが2年目から毎年2頭を出産するのに対し、1年目に1頭を出産するが、これは繁殖にかかる時間を短縮することとなるので、rを高くする効果がある。
- また、子の生存が、偶然に左右される場合も、この戦略を取らねばならない。たとえば、生息区域が一定せず、毎年生息可能な場所が変わるような場合がそれである。安定した植生が撹乱されたところにのみ出現する雑草など、撹乱がなくなり、植生が安定した遷移をたどるところには生育できない。子孫が確実に撹乱された場所にたどり着くためには、多数の種子を、広くばらまく必要がある。あるいは、寄生生物などは、新しい宿主にたどり着けるかどうかに偶然の要素が大きく、どうしても多数の子を作っておかねばならない。
- 他方、熱帯雨林のように物理化学的には生息に適した環境では、生存に影響を与えるのは、種として生物間の競争である。このような条件下では、少数の子を確実に育てることが重要になると考えられる。つまり、K戦略を取るものが多いと言われる。
- 他に、子供が小さい形では、生存率がない環境下でも、必然的にK戦略を取らざるを得なくなる。例えば、サワガニやザリガニなど、淡水で生活史を完了する甲殻類は、幼生をプランクトンにして放出したのでは、生存できる見込みがない。どうしても大きな卵を産まねばならない。
ただし、注意すべきなのは、ここでは、rとKは、既に本来の意味からは離れてしまっている部分があることである。本来のrは、最大産卵数を意味するものではない。野外個体群において、個体群密度と増加率を求め、そこからrを算定すれば、それは最大産卵数よりはるかに小さくなる。個体群密度が0に近くても、子の生存率は100%ではないからである。また、rが大きければ必ずしもKが小さくなるというものでもない。
[編集] 繁殖戦略論へ
rとKは、もともと個体群成長にかかわる要因であり、それが示すものは、具体的に特定できるとは限らない。上記のような議論の中で、それならばむしろ、繁殖に限って話を絞った方が分かりやすいという方向性が出てくるようになった。つまり、r戦略とK戦略とを、産卵数や卵の大きさ(卵でなく、子供や種子であってもよいが)の話に絞って行うものである。
そのような観点からは、r戦略とは、卵をできるだけ沢山産む方向と見なせる。数を増やすためには、ここの大きさは減らさねばならないので、この戦略を小卵多産戦略という。これに対して、K戦略は、卵を大きくするので、数は減ることになる。つまり、大卵少産戦略である。また、大卵少産戦略を取る場合、子の数が少ないので、子を1頭失った場合の損失が相対的に大きくなる。そのため、子を失う数を更に減らせるよう、親による子の保護が発達する傾向がある。