U-2 (偵察機)
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U-2はロッキード社の開発チーム・スカンクワークスが同社のF-104をベースに開発し、アメリカ空軍とCIAに採用された高高度偵察機。初飛行は1955年。公式ではないが、ドラゴンレディ(Dragon Lady)という愛称がある。また、その塗装から「黒いジェット機」の異名もある。
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[編集] 概要
オリジナルのU-2はCIA資金により、ロッキードが開発した高高度スパイ偵察機であり、1955年8月4日1号機が進空したのに続いて計55機生産され、冷戦時代のアメリカにとって貴重な情報源となった。
U-2は細長い直線翼を備え高高度を飛行し、偵察用の特殊なカメラを積み、ソ連など共産圏の弾道ミサイル配備状況をはじめとする機密情報を撮影した。敵に撃墜されないよう高高度飛行を選択していたが、後に撃墜されるようになり、より高速な偵察機の必要性が出た。このため、この機体と同じく、ロッキード社のスカンクワークスによりSR-71が造られるようになる。
U-2はその長大な主翼と機首形状の違いから受ける印象が強烈で、原型がF-104であるとは想像し辛いが、胴体形状はほぼ同一である。これは両機の線図を比較してみれば一目瞭然であろう。
当初、U-2はCIAとアメリカ空軍で使用されていたが、1970年代にCIAはU-2の運用を取りやめたため現在ではアメリカ空軍のみで運用されている。
戦闘機や地対空ミサイルが高性能強化された現在高危険度地域の強行偵察は不可能といっていいが、電子/光学センサー(搭載量約1.36トン)の進歩は著しいものがあり、今日も湾岸地域やボスニアでは有力な情報収集手段となっている。このためアメリカ空軍はエンジンをF118-GE-101(推力8390kg)に換装した性能向上型U-2Sへの改修計画を進めている。
[編集] 特徴
U-2は軽量化を徹底した末、車輪が胴体前部と後部の2箇所にしかなく、離陸時には翼の両端に地上から離れるときに取れる補助輪をつけ滑走し、着陸時には車がU-2と並走し翼が地面につかないよう指示を出し十分に低速になったところで翼端を地面にすりつけ着陸し、その後補助輪を装着され滑走路から移動を行う。
またその徹底した軽量化は、同時にU-2の弱点も生み出している。後述のU-2撃墜事件では、ソ連軍の放った地対空ミサイルが付近で爆発した際の爆風で機体が破壊され、墜落した。これは地対空ミサイルの威力が強かったのではなく機体外壁がとても薄く作られていたため、衝撃波に耐えられなかったためである。
またそれを証明するように、高高度から墜落したにも関わらず、機体は、大破と言うよりは潰されたような形で発見された。軽量で大柄な機体のために空気抵抗が大きくなり、落下速度があまり速くならなかったためである。
[編集] U-2撃墜事件
U-2を語る上でよく出てくる話としてU-2撃墜事件が上げられる。1956年6月からソ連領空を飛んで偵察を行うようになった。U-2はソ連防空軍のMiG-19Pなどの迎撃戦闘機による邀撃をたびたび受けていたが、1950年代末にSu-9迎撃戦闘機が配備されるまでは、ソ連にはU-2に有効な攻撃を与え得る高度に達することのできる戦闘機は存在しなかった。その一方、ソ連ではU-2を撃墜するために新型の地対空ミサイルも開発していた。1960年5月1日にはソ連領空内にCIA所属のU-2偵察機が領空侵犯をし偵察飛行をしていたところ、S-75地対空ミサイルによる迎撃を受け、U-2はついに撃墜された。パイロットのパワーズは脱出し無事であったがソ連に捕虜として捕らえられ公開裁判にかけられた。パワーズはスパイ飛行を認め有罪となるが、その後アメリカで逮捕されたKGBのスパイとの身柄交換により釈放された。
さらに、U-2偵察機は1962年10月14日にキューバに偵察飛行を行いソ連軍のミサイル発射基地の建設を発見した。(キューバ危機)
[編集] エピソード
当初、空軍は高高度偵察機を各メーカに競争発注する予定だったが、これを察知したロッキード社のスカンクワークス主任、クラレンス・ケリー・ジョンソンが秘密裏に空軍にF-104を改造した偵察機型を提案し、結果として空軍はこの提案に合致するような要求を各メーカに提示した。当然ながらこうした状況ではロッキード社の案が採用となり、これがU-2となった。当時は、ベル社などがX-16などを作成していたが、こうした他社の案は全て不採用となった。
[編集] スペック(U-2S)
- 全長:19.13m
- 全幅:31.39m
- 全高:4.88m
- 最高速度:M0.8
- エンジン:GE社製 F118-GE-101 ×1基
- 推力:8600kg
- 空虚重量:7250kg
- 最大離陸重量:18598kg
- 航続距離:7400km
- 最高高度:27000m (90000ft)
- 定員:1人