アデノシン三リン酸
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アデノシン 5'-三リン酸 | |
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一般情報 | |
IUPAC名 | アデノシン 5'-三リン酸 |
別名 | アデノシン三リン酸、ATP |
分子式 | C10H16N5O13P3 |
分子量 | 507.181 g/mol |
組成式 | |
式量 | g/mol |
形状 | 無色固体(ナトリウム塩水和物) |
CAS登録番号 | [56-65-5] |
SMILES | |
性質 | |
密度と相 | g/cm3, |
相対蒸気密度 | (空気 = 1) |
水への溶解度 | |
への溶解度 | |
への溶解度 | |
融点 | ℃ |
沸点 | ℃(分解点) |
昇華点 | ℃ |
pKa | |
pKb | |
比旋光度 [α]D | |
比旋光度 [α]D | |
粘度 | |
屈折率 | |
出典 |
アデノシン三リン酸(アデノシンさんリンさん)とは生物体で用いられるエネルギー保存および利用に関与するヌクレオチドであり、すべての真核生物がこれを直接利用する。生物体内の存在量や物質代謝における重要性から『生体のエネルギー通貨』とされている。IUPAC名はアデノシン 5'-三リン酸。略記としてATP (Adenosine TriPhosphate)。 化学式 C10H16N5O13P3、分子量 507.181。 しかしながら、論文、教科書などではアデノシン三リン酸という表記は、本体の説明文以外には用いられず『ATP』(エーティーピー)の表記が一般的である。
目次 |
[編集] 構造とエネルギー
プリン塩基であるアデニンに糖のリボースがN-グリコシド結合により結合したアデノシンを基本構造として、リボースの 5'-ヒドロキシ基にリン酸エステル結合によりリン酸基が結合し、さらにリン酸がもう2分子連続してリン酸無水結合により結合した構造を取る。この、リン酸基同士の結合(リン酸無水結合)は、エネルギー的に不安定であり、このリン酸基の加水分解による切断反応や、他の分子にリン酸基が転移する反応は(切断した両リン酸基の端に、反応により新たに生成する、より安定な化学結合の生成に伴って)エネルギーを放出する。ATPのリン酸基の加水分解や転位反応は、ネットでの自由エネルギーの減少を伴うエネルギー放出反応となり、あたかもATPのリン酸基同士の結合の切断が生体内の化学反応の実質的な推進力となっているように見えるため、この意味において、この結合は『高エネルギーリン酸結合』と呼ばれている。(結合自体がエネルギーを持つわけではない:この化学結合の切断は、吸エネルギー反応である。)
エネルギーの収支式を以下に示す。
- ATP+H2O → ADP(アデノシン二リン酸)+Pi(リン酸) ΔG°’(標準自由エネルギー変化)= -7.3kcal/mol
- ATP+H2O → AMP(アデノシン一リン酸)+PPi(ピロリン酸) ΔG°’ = -10.9kcal/mol
この標準自由エネルギー変化は、一般的なリン酸エステル化合物のリン酸エステル結合の加水分解の標準自由エネルギー変化(ΔG°’ = −3~4 kcal/mol)などに比べ非常に大きいので、このようなリン酸エステル化合物が、ATPからのリン酸基の転移により生成する反応の標準自由エネルギー変化は、全体として負の値となり、この反応はATPからリン酸エステル化合物へのリン酸転移の方向に自発的に進む。 さらに細胞内では、ATP濃度はADPの10倍程高く、リン酸濃度も標準状態(1.0 M)より、はるかに低い (1~10 mM程度) ため、細胞内の環境ではATPの高エネルギーリン酸結合の加水分解に伴って実際に放出されるエネルギー(自由エネルギー変化ΔG)は、より大きくなり、-10~11 kcal/mol にも達する。
[編集] ATPの生合成
ATPは主にATP合成酵素において酸化的リン酸化、光リン酸化によって生じる。
- ADP + Pi → ATP
また、解糖系やクエン酸回路などでもATPは生じる。好気呼吸によるATPの収支式については『好気呼吸』を参照。
GTP(グアノシン三リン酸)については、以下の反応式でATPと相互変換する。
- GTP + ADP ⇔ GDP + ATP (ΔG°’ ~0)
また、細胞内では、酵素(アデニル酸キナーゼ)の働きにより、ATP, ADP, AMPが次の反応による平衡混合物となっており、ATPはADPからも一部再生される。
- 2ADP ⇔ ATP + AMP (ΔG°’ ~0)
[編集] ATPの役割
ATPはエネルギーを要する生物体の反応素過程には必ず使用されている。ATPは哺乳類の骨格筋100gあたり 0.4 g 程度存在する。反応・役割については以下のものがある。
- 解糖系…グルコースのリン酸化など
- 筋収縮…アクチン・ミオシンの収縮
- 能動輸送…イオンポンプなど
- 生合成…糖新生、還元的クエン酸回路など
- 発光タンパク質…GFPなど
- 発電…電気ウナギに見られる筋肉性発電装置
- 発熱…反応の余剰エネルギーなど
リン酸基の付加はリン酸基転移酵素(キナーゼ)によって行われる。また、ATP そのものも RNA合成の前駆体として利用されている。
[編集] 歴史
1929年 Fiske、Subbarowら、そしてLoehmannによって独自に、不安定なリン酸結合を持つヌクレオチドとして発見された。当初、ATPはエネルギー通貨ではなく、リン酸供与体の一部として認識されていた。
1931年 Loehmann、Meyerhofによって解糖系にATPが用いられることが明らかになった。
1939年 Engelhardtらによって、筋収縮のタンパク質であるミオシンがATPを加水分解することが明らかになった。同年、LipmannによってATPは代謝に中心的な役割を果たしていることが提唱された。
1941年 Szent-GyoergyiによってミオシンがATPによって収縮することが明らかになった。
1942年 Szent-Gyoergyiによってアクチン、ミオシン、ATPが筋収縮の基本的な構成単位であることが明らかになった。
これらのハンガリー学派の筋収縮に関する一連の研究が『ATPは生体のエネルギー通貨』であると言う認識を構築して行った。また、ATPが能動輸送に関係することが1957年、Skouらによって明らかになり(Na+,K+-ATPaseの発見)、ATP利用系のフォーマットが現在に至るまで構築されている。
ATP合成系の歴史については、以下の通りである。
1951年 Lehningerによって呼吸鎖複合体の電子伝達およびATPの合成は共役しているという『酸化的リン酸化』が提唱された。
1961年 Mitchellによってプロトンの電気化学的ポテンシャルがATPの合成に寄与していると言う『化学浸透圧仮説』が提唱された。
1963年 Avronによって葉緑体のチラコイド膜上に球状突起が見出され、この構造体がATP合成に関係した酵素であると推定された。
1966年 Jagendorfらによって葉緑体でのpHジャンプによるATP合成系のモデルが提唱された。
1975年 RackerとStoeckeniusによって、脂質二重層を用いたATP合成酵素およびバクテリオロドプシンの実験によってATP合成が電気化学的ポテンシャルによって行われることを明らかにした。
1978年 化学浸透圧説を唱えたMitchellがノーベル化学賞を受賞した。
1981年 BoyerがATP合成酵素の『回転触媒仮説』を提唱した。
1994年 WalkerらによってウシATP合成酵素のF1サブユニットのX線結晶構造が明らかになった。
1997年 Boyer、WalkerらがATP合成酵素の反応素過程を解明したことによりノーベル化学賞を受賞した。