オクトパス
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『オクトパス』とは、香港(中華人民共和国・香港特別行政区)で使用できる公共交通機関における非接触型プリペイドカードの総称である。英語では『Octopus』、中国語では『八達通』と表記される。
オクトパスカードは香港で1997年9月に正式導入された。公共交通機関のプリペイドカードの中では世界で最も早く、日本のソニーが開発した非接触型ICカード規格『FeliCa』(フェリカ)を採用したものである。
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[編集] 主な特徴
プリペイドカードの最も大きな特徴は現金を手にすることなく、あらかじめチャージされた金額から使用料が差し引きされる事にある。
香港の、特にバスでは終着地に近づくにつれて運賃が下がって行く『変動制運賃』になっている路線が多く、同じ区間を通るバスでも路線によって運賃が違う場合が多い。また、車種や冷房の有無によっても運賃が異なる。
香港ではダブルデッカーバスに代表される大手バス会社運営の路線に加えて、マイクロバス車両を使用した『小巴』(ミニバス)(区間乗降が自由な緑色のミニバスと、起終点のみ決定していて運転者が自由に路線を決定して良い赤色のミニバスとがある)と言った路線が無数に存在する。これらのバスに備えられている運賃箱では、原則的に釣銭は用意されていない(香港でのバスやトラムの運賃箱には両替や釣銭の機能は付随していない。ただし赤色のミニバスでは少額紙幣であれば運転手が直接釣銭を手渡してくれる)。
この為、小銭を常に持ち歩く必要があったのだが、オクトパスカードの導入により利便性が向上された。また、地下鉄や鉄道ではカード使用で1割程度通常運賃より割引になる。香港では鉄道関係の定期乗車券が存在しない事もあり、オクトパスカードは急速に普及した。
オクトパスカードは、香港にある『Octopus Cards Limited』(八達通卡有限公司)が発行を請け負う。現在では香港市内の人口を上回る1200万枚程が発行され、市中の鉄道(KCR)、地下鉄(MTR)、バス(巴士)、緑色のミニバス(赤色のミニバスは使用不可)(小巴)、トラム(電車)、LRT(輕便鐵路)、スターフェリーなどのフェリー路線(渡輪)、ケーブルカー(山頂纜車)など香港内でタクシーを除くほとんどの主要交通機関でのキャッシュレス決済を可能とする。また、交通機関の他に日本の『Edy』などと同じ要領で電子マネーとしてコンビニエンスストア(便利店)、コーヒーショップ、レストラン、自動販売機、証明写真撮影機、公衆電話などの様々な施設で使用出来る。
[編集] 券種・価格
オクトパスカードには、大人(150香港ドル)、子供(70香港ドル)、高齢者(70香港ドル)のカードと、パーソナライズド・カード(個人情報が入るカード、100香港ドル)があり、共通柄(メビウスの帯)のデザインでカード機能毎に色が異なる(有効期限は最終使用日より3年間)。パーソナライズド・カードには、所有者の名前、また必要ならば写真が印刷され、記録されている年齢の情報によって、大人、子供、高齢者の区別がされ、また学生カードにすることもできる(パーソナライズド・カードは30日以内に発行される)。これらのカードのデポジット額(保証額)は50香港ドルで購入時に含まれており、返却時に未使用額と共に返還される。パーソナライズド・カードの場合は、別途20香港ドルの返還されない手数料が購入額に含まれる。(なお、いずれも返却時には手数料が必要な場合がある。)販売は香港内の地下鉄と鉄道各駅の有人切符販売所や案内所、フェリー乗り場、市中のコンビニエンスストア等で行っている。
また、観光立国として著名な香港ならではのサービスとして旅行者向けオクトパスカードの用意があり、機場駅~香港駅間を結ぶエアポートエクスプレス(機場快線:Airport Express)に1回乗車できる220香港ドルのカード、また2回乗車できる300香港ドルのカードがある。これらのカードは特典として、3日間地下鉄線(MTR)に無料で乗車でき、また地下鉄線(MTR)以外の交通やその他に利用できる分が20香港ドル分入っている(共に有効期限は購入日から180日間で、滞在期間が14日間以内の旅行者のみ利用できる)。デポジット額はそれぞれ50香港ドル。
[編集] 使用方法
オクトパスカードはMTRやKCRの自動改札機では、設置されたセンサーにICチップが埋め込まれているカードをかざす事で通過できる。センサーの読み取りは、革のかばんやハンドバッグなどの厚めの干渉物を通しても作動する。入場(改札)時には入場記録が書き込まれ、出場(集札)時に運賃全額が差し引かれる。
バス利用時は乗車時に、トラム利用時は降車時に、運賃全額が差し引かれる。電子マネーとして使用する時もチャージされた金額から購入した商品、あるいはサービスの金額が差し引かれる。金額が使用中に不足する場合は1回に限りデポジットの金額から35香港ドルまで差し引かれ、次回のチャージ時に反映される。
チャージは香港内の地下鉄と鉄道各駅の乗車券売り場に設置されている『増値機』と書かれたオクトパスカードのチャージ専用機、または有人切符売り場、案内所、市中のコンビニエンスストア等で行える。増値機では現金およびキャッシュカードが使用できる。また、香港発行のクレジットカードとのリンクを登録することにより、自動でのチャージも可能で、オクトパス残高がゼロもしくはマイナスになった状態でオクトパスカードを利用すると250香港ドルが自動的にチャージされる。殆どのクレジットカード会社では、自動チャージによるカード利用に対しても通常のショッピング時と同様にクレジットカードポイントの付与が行われている。
残高等の確認は、入出場時に改札機の残高表示欄を確認するか、乗車券売り場に設置されている専用の残高確認機を利用することで可能である。残高確認機には、使用可能残高や利用履歴(最新の10~15件程度、機器により異なる)等が表示される。これらは英語または中国語で表示されるが、その選択言語はカードに設定されており、それは一部の窓口で変更可能である。
[編集] その他
オクトパスカードには、香港で最も使用されているGSM方式携帯電話に装着する為の、オクトパスICチップ付き着せ替えカバーが発売されている。これはノキア(Nokia)社製の携帯電話に装着可能である。型名『3310』、『3315』、『3330』用、型名『7210』用のものが用意されている。
[編集] 類似例
オクトパスカードに使用されている『FeliCa』タイプの公共交通機関の非接触型プリペイドカードは、シンガポール地下鉄・高架鉄道とシンガポール市内のバス路線(いずれもSMRTの経営)における『EZ-link』カード、中国の広東省・深圳市における深圳地下鉄での『深圳通』カード及び乗車券(トークン)、またインドのニューデリー地下鉄で導入されている。
日本では2001年にJR東日本が導入し、現在では東京を中心とする首都圏のJR東日本線、東京臨海高速鉄道、東京モノレール、及び仙台エリアや新潟エリアのJR東日本線で利用出来る非接触型プリペイドカードの『Suica』に導入済みである。また、2007年3月には磁気カードのパスネットとバス共通カードがIC化、『PASMO』となってSuicaとの相互利用も可能となる。
加えて、2003年11月にJR西日本が大阪近郊区間に導入した『ICOCA』、静岡県の静岡鉄道による『LuLuCa』、香川県の高松琴平電気鉄道による『IruCa』、愛媛県の伊予鉄道による『ICい~カード』、東京都・世田谷区の東急世田谷線における『せたまる』、宮崎県の宮崎交通による『宮交バスカ』など様々な公共交通機関での導入が実施、或いは予定されている。
[編集] 互換性
今の所、香港のオクトパスカードは、各国のカードとは同規格のFelica規格を使用しているが、互換性は持っていない。オクトパスカードと深圳地下鉄の深圳通とは、隣接する都市と言う事もあり共通化が検討されているものの、未だ実現には至っていない。(詳細は深圳通を参照。)
既にJR東日本は、香港とシンガポールの両都市に対してFeliCa規格を通しての乗降実験を行っている。もし都市間での共通化が計られれば、日本では首都圏と関西、香港特別行政区と深圳などの珠江デルタ都市圏、更にシンガポールのアジアの主要都市交通機関に1枚のカードで乗り降り出来る様になるだけでなく、世界初の国際的都市間の電子マネーとしての機能も期待され大きな経済効果を産み出す事だろう。しかし、実現に至るにはセキュリティや準備態勢の規格化、国間の通信品質の維持、規格の標準化、膨大な情報処理能力の増強維持など課題は大きい。 ちなみに、Suica、ICOCA、Edy等のFeliCa技術を利用したカードといっしょにタッチした場合、認証エラーが発生する。
[編集] 関連リンク
[編集] 外部リンク (香港)
- Octopus Cards Limited (八達通卡有限公司)
- MTR Corporation (地鐵公司)
- KCR Corporation (九廣鐵路公司)
- CityBus Limited (城巴有限公司)
- New First Bus Service Limited (新世界第一巴士)
- Kowloon Moter Bus (九龍巴士)
- HongKong Tramways Limited (香港電車有限公司)
- The Star Ferry Co Ltd (天星小輪有限公司)
- New World First Ferry Services Limited (新世界第一渡輪服務有限公司)
- 香港の交通機関
[編集] 外部リンク (その他)