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シトロエン・2CV - Wikipedia

シトロエン・2CV

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

シトロエン 2CV
Citroën 2CV
製造期間 1948年-1990年
ボディ 4ドア セダン
2ドア バン
前任 なし
後継 ディアーヌ
車台を共有する車 アミメアリ
ディアーヌFAF
同クラスの車 イセッタMini
フィアット 600
フィアット 500
ルノー 4
デザイナー フラミニオ・ベルトーニ

シトロエン2CV (Citroen 2CV) は、フランスシトロエン社が1948年に発表した、前輪駆動方式の乗用車である。きわめて独創的な設計の小型大衆車で、自動車の歴史に残る名車の一つと言われている。

目次

[編集] 概説

「2CV」とは「2馬力」を意味し、フランスにおける自動車課税基準である「課税出力」のカテゴリーのうち「2CV」に相当することに由来するが、実際のエンジン出力が2馬力であったわけではない。後年の改良によるパワーアップで税制上3CV相当にまで上がったが、車名は2CVのままだった。フランス本国では「ドゥシヴォ」(「ドゥー・シュ・ヴォー」)と発音される。

ユニークな着想を数多く盛り込んだ簡潔軽量な構造により、非力ではあったが、優れた走行性能と居住性、経済性を同時に成立させた。第二次世界大戦後のフランスにおけるモータリゼーションの主力を担い「国民車」として普及、さらにヨーロッパ各国で広く用いられた。

その無類にユーモラスなスタイルと相まって世界的に親しまれ、自動車という概念すら超越して、フランスという国とその文化を象徴するアイコンの一つにまでなった。

1948年から1990年までの42年間大きなモデルチェンジのないままに、387万2,583台の2CVが製造された(フランスでは1987年に生産終了、以降はポルトガルでの生産)ほか、並行して基本構造を踏襲した派生モデル数車種が合計124万6,306台製造された。単一モデルとしては、世界屈指のベストセラー車・ロングセラー車である。

[編集] 歴史

[編集] 開発以前

シトロエン社の自動車生産開始は第一次世界大戦後の1919年で、フランスでは後発メーカーであった。だが、アメリカのフォードに倣った大量生産システムの導入で中~小型の高品質な自動車を廉価に供給し、わずか数年間でフランス最大の自動車メーカーに急成長した。
この間、1921年に3人乗りの超小型乗用車「5CV」を開発したが、当時のベストセラー車となったにも関わらず、1926年に生産中止されてしまった。社主アンドレ・シトロエンがより大型のモデルに経営方針をシフトしたためである。この経営判断は競合メーカーのプジョールノーに小型車クラスの市場を奪われる結果となり、シトロエン社の経営基盤確立は遠のいた。

シトロエン社はヨーロッパでも早い時期から鋼鉄製ボディや油圧ブレーキを導入するなど先端技術の採用に熱心であった。
1933年には新たにに斬新なニューモデルの開発に乗り出し、翌1934年、同社最初の前輪駆動モデル「7CV」(いわゆる「トラクシオン・アバン」の最初のモデル)を発表したが、同年、この前輪駆動車開発に伴う膨大な設備投資によってついに経営破綻する。

これに伴いアンドレ・シトロエンは経営者の地位を退き、代わってフランス最大のタイヤメーカー、ミシュランが経営に参画することになった。
この際、ミシュラン社から派遣されてシトロエン副社長職に就任したのが、元建築技術者であったピエール・ブーランジェ(Pierre Jules Boulanger 1885-1950)であった。彼はミシュラン一族からシトロエン社長に就任したピエール・ミシュランと共にシトロエン社の経営立て直しに奔走し、1937年のピエール・ミシュランの事故死に伴って社長に就任、1950年の死去までその地位に在った。

[編集] 開発のきっかけ

1935年夏、ピエール・ブーランジェは別荘でのバカンスのため、南フランスのクレルモン=フェランの郊外へ赴いた(クレルモン=フェランはミシュラン社の本社工場所在地である)。
彼はそこで、農民たちが手押し車や牛馬の引く荷車に輸送を頼っている実態に気付いた。当時のフランスの農村は近代化が遅れ、日常の移動手段は19世紀以前と何ら変わらない状態だったのである。

ブーランジェは、シトロエン社のラインナップに小型大衆車が欠落していることを認識していた。そこで、農民の交通手段に供しうる廉価な車を作れば、新たな市場を開拓でき、シトロエンが手薄だった小型車分野再進出のチャンスともなる、という着想を得た。

ブーランジェは周到な市場調査によって、この種の小型車に対するニーズの高さをつかみ、将来性を確信した。そして1936年アンドレ・ルフェーヴル(Andre Lefebvre 1894-1964)らシトロエン社技術陣に対し、農民向けの小型自動車開発を命令する。この自動車は「Toute Petite Voiture(超小型車)」を略した「TPV」の略称で呼ばれた。

TPV、のちの「2CV」開発責任者となったルフェーヴル技師は、元航空技術者であった。航空機開発技術を学んで第一次大戦中に航空機メーカーのヴォアザン社に入社、芸術家肌の社主ガブリエル・ヴォアザンに師事して軍用機の設計を行った。
戦後ヴォアザンが高級車メーカーに業種転換すると高性能車の開発に携わっている。のちヴォアザンの業績悪化に伴い退社、ルノーを経て1933年にシトロエン入りし、「トラクシオン・アバン」の開発を発案して短期間のうちに完成させていた。
彼は天才型の優秀な技術者であり、第二次世界大戦後には「2CV」に続いて未来的な設計の傑作乗用車「シトロエンDS」の開発にも携わっている。

[編集] 「こうもり傘に4つの車輪」

ブーランジェの提示した農民車のテーマは、「こうもり傘に4つの車輪を付ける」という、簡潔さの極致を示唆するものであった。価格はアッパーミドルクラスであるトラクシオン・アバンの1/3以下、かつ自動車を初めて所有する人々でも容易に運転できることが求められた。

しかし、自ら自動車を運転もするブーランジェによって具体的に示された条件は、技術陣をして「不可能だ!」とまで言わしめた難題だった。それは以下のようなものであった。

  • 大人2人とジャガイモ50kgを載せて、田舎の悪路を50km/hで走れること
  • カゴ一杯の生を載せて、卵を割ることなく荒れ地を走れること
  • ガソリン5リッターで100km以上走れること

悪路踏破力、乗り心地、経済性のいずれにおいても厳しい条件である。それでもブーランジェは実現を厳命し、その後の技術陣の努力によって、無理難題はほぼ満たされることになった(後述)。

加えてブーランジェは、最低限に留まらない十二分な車内スペース確保も要求した。次のような主旨からである。

  • 「農民は、盛装して教会や祭りに行くにもこの車を使うであろう。彼らがシルクハットを被ったまま乗れるようにすべきである」

この条件を満たすため、身長2m近い大男であるブーランジェ自身が、シルクハットを被っては試作車に乗り込んだ。帽子が引っかかるような構造は失格となるこの「ハット・テスト」によって、最終的にこのクラスの大衆車としては望外と言ってよいほどゆとりある車内スペースが確保されることになった。


[編集] TPV試作車

1939年製プロトタイプ
1939年製プロトタイプ
プロトタイプの後ろ姿
プロトタイプの後ろ姿

既に「トラクシオン・アバン」で前輪駆動車の量産化を成功させていたアンドレ・ルフェーヴルは、TPVの駆動方式にも前輪駆動方式を採用した。プロペラシャフトを省略でき(軽量化や振動抑制、低重心化の効果がある)、更に操縦安定性にも優れていたからである。
開発作業はシトロエン社内でも特に機密事項として秘匿され、外部の眼に一切触れることなく進行した。

1939年には、TPVプロジェクトは相当に進行し、試作車が完成しつつあった。それらはアルミニウムを多用して軽量化され、外板には波板を使うことで強度を確保した。簡潔な造形によって、外観は屋根になだらかな曲線を持ったトタンの物置という風体だった。
屋根は幌による巻き取り式のキャンバストップで軽量化と騒音発散を図り、座席には通常の金属スプリングの代わりに、ゴムベルトを用いたハンモック構造を採用して軽量化した。ヘッドライトはコストダウンと軽量化のため、片側1個だった(当時のフランスの法律ではライト1個でも差し支えなかった。後の生産型では2個ライトになった)。パワーユニットは、トラクシオン・アバンの先進的なOHVエンジンを設計したモーリス・サンチュラの手になる、水冷式エンジンを搭載していた。

[編集] 第二次世界大戦

第二次世界大戦勃発後の1940年、フランスはドイツの侵攻を受けて敗退、パリをはじめフランス全土の北半分はドイツ占領地となる。

パリに所在したシトロエン社もドイツ軍の管理下に置かれたが、シトロエンの経営責任者の座に留まったピエール・ブーランジェは半ば公然とサボタージュを指揮し、身を挺してドイツ占領軍に反抗した。ドイツ側への非協力的態度を取り、占領軍向けのトラック生産を遅滞させ、時には故意に欠陥車を送り出すなどして、ドイツに損害を与えるよう努めたのである。このようなレジスタンスを働き、ドイツ側のブラックリストに載せられながら、ブーランジェは1944年のフランス解放まで巧みに生き延びた。

この際、開発途上だったTPVをドイツの手に渡さないため、ブーランジェの命令によってTPVプロジェクトの痕跡抹消が図られた。200台以上も作られた試作車の多くは破壊された。また一部は工場などの壁に塗り込められ、あるいは地中に埋められた。これらは1990年代以降数台が発見されている。(ドイツ占領軍とブーランジェ、双方の目を逃れて)破壊や埋設を免れた少数は、ボディを改造して小型トラックに偽装された。

独自の研究開発が禁じられた困難な状況下ではあったが、ルフェーヴルら技術者たちは、ドイツ側の監視をかいくぐって、終戦後に世に送り出されるべきTPVの開発を進行させた。

だがシトロエン社内部での検討によって、コスト過大からTPVにアルミを多用することは困難であるという結論が出された。やむなくTPVの多くのパーツは普通鋼に置き換えられることになった。

1944年の連合軍侵攻に伴うフランス解放によってTPVの本格的な開発作業が再開された。

試作車用にモーリス・サンチュラが設計した水冷エンジンは、改良を重ねても不調であった。このため、高級スポーツカーメーカーのタルボ社(Talbot)から1941年に移籍してきた有能なエンジン技術者ワルテル・ベッキア(Walter Becchia)が、新たに信頼性の高い空冷エンジンを開発して問題を解決した。
またボディデザインは、イタリア人の社内デザイナーであるフラミニオ・ベルトーニ( Flaminio Bertoni 1903-1964 )によって洗練(?)を加えられた。

[編集] 発表と嘲笑

1949年型 タイプA
1949年型 タイプA

1948年10月7日、シトロエン2CVはフランス最大のモーターショーであるパリ・サロンにおいて公に発表された。
多数のマスコミ・観客が見守る中、ブーランジェ社長によって紹介され、除幕された「ニューモデル」の2CVは、あまりにも奇妙なスタイルで、観衆をぼう然とさせ、立ち会ったフランス共和国大統領のヴァンサン・オリオールをして困惑せしめた(……新型車と称し、物置か犬小屋のような代物が出現すれば、大方の人間は困惑するであろう)。

この年のパリ・サロンでは、競合するルノーの750ccリアエンジンの大衆車、「4CV」や、プジョーでは1クラス上の1300cc車、「203」もデビューしており、それら他社製の戦後型ニューモデルがごく「まとも」な自動車であっただけに、2CVの奇怪さが際だった(結果としてこの2車よりも2CVは3倍長生きし、はるかに多く生産されたのであるが)。

大衆は2CVを見て「醜いアヒルの子」「乳母車」と嘲笑し、居合わせたアメリカ人ジャーナリストは「この『ブリキの缶詰』に缶切りを付けろ」と揶揄した。前衛派詩人で皮肉屋の作家ボリス・ヴィアンは2CVを「回る異状」と評した。
このような情勢から2CVを「エキセントリックな泡沫モデル」と見なす向きも少なくなかった。実際、同時期のフランスでは中小メーカーによって奇想天外な珍設計の超小型車が何種類か送り出されており、それらのほとんどが商業的・技術的に失敗作だったのである。

[編集] 成功

だがピエール・ブーランジェはこの自動車の成功を確信していた。2CVがその奇矯な外見とは裏腹に、あらゆる面で合理的な裏付けを持って設計され、市場ニーズに合致した自動車であるという自信を持っていたからである。
もっとも彼は2CVの未曾有の成功を完全に見納めないうちに、1950年自ら運転するトラクシオン・アバンの事故で死亡した。

先行量産モデルは「特に2CVを必要としている」と考えられた希望者に優先販売され、日常における実際の使用条件について詳細なモニタリングが行われた。それらはフィードバックされ、技術改良と販売方針の改善に活用された。

2CVが廉価なだけでなく、維持費用も低廉で、扱いやすくて信頼性に富み、高い実用性と汎用性を有していることは、短期間のうちに大衆ユーザーたちに理解された。1949年から開始された本格生産はすぐに軌道に乗り、翌1950年には早くも日産400台のペースで量産されるようになった。
フランス国民はこの(エキセントリックな)自動車の外見にも早々に慣れ、2CVは数年のうちに広く普及した。街角や田舎道に2CVが止まる姿は、フランスの日常的光景の一つとなった。
更にはヨーロッパ各国にも広範に輸出され、ことにその経済性と悪路踏破能力は各地のユーザーに歓迎された。イギリスなどにおいて現地生産も行われている。

ドーリーの後ろ姿
ドーリーの後ろ姿

シトロエン社はその後、排気量拡大や内外装のマイナーチェンジなどを重ねて2CVをアップデートしていくと共に、派生モデルを多数開発して小型車分野のラインナップを充実させた。のちに後継モデルとしてディアーヌを発表したが、結果として2CVはそれよりも長生きすることになった。ことに1970年代オイルショックは、2CVの経済性という特長を際だたせることになった。

[編集] 2CVの派生車

  • 1951年 2CV タイプAのセンターピラーから後ろを箱形の荷室にしたユーティリティー(バン)、AU(後のAK)発表。
  • 1954年 425ccエンジンのタイプAZのユーティリティー、AZU発表
  • 1958年 2基のエンジンを前後に積む4WD車4×4サハラ(Sahara : タイプAW)発表
  • 1960年 英国で生産されるFRPボディの2ドアクーペ、ビジュー (Bijou) 発表
  • 1961年 小さなDSとしてアミ(AMI 6)発表
  • 1968年 2CVの後継車ディアーヌ(DYANE)発表
  • 1968年ABS樹脂ボディの多目的車メアリ(MEHARI)発表
  • 1973年 途上国向け多目的車FAF発表

だが1980年代に至ると、基本設計が余りにも古くなり過ぎ、衝突安全対策や排気ガス浄化対策などに対応したアップデートが困難になってしまった。それにつれて販売台数も低下、1988年にフランス本国での生産が終了し、ポルトガル工場での生産も1990年に終了した。40年に渡る長いモデルスパンは「フォルクスワーゲン・タイプ1」や初代「Mini」と肩を並べるものであった。

[編集] 車両仕様

全長×全幅×全高は3830×1480×1600mmで、全高を除いては現代の小振りな1000~1300cc級乗用車並みのサイズである(初期は全長3780mm)。
だが重量は極めて軽く、375ccの初期形で495kg、602ccの末期形で590kgに過ぎない。安全対策装備がほとんど備わっていないという実情はあるが、サイズに比して極めて軽量で、その構造が簡潔かつ合理化されている事実を伺うことができる。

[編集] ボディ外観

発表時から絶えず悪口や嘲笑の的に、更には無数の冗談の種になった珍無類のスタイルであるが、きわめて合理性に富んだ機能的デザインである。
1959年までは外板の一部に強度確保のため波板構造を用いており、ユンカースの輸送機を思わせる機能優先な外見だった(1960年以降は他車同様の平滑な外板となった)。

初期の2CV
初期の2CV
タイプAZAのドアとステアリングホイール。
タイプAZAのドアとステアリングホイール。
リアクオーターピラーにウインドウが無く、方向指示器が付く。
リアクオーターピラーにウインドウが無く、方向指示器が付く。
ボディの構造がよく分かる写真。この時代でも後ろのドアは簡単に外せる
ボディの構造がよく分かる写真。この時代でも後ろのドアは簡単に外せる

1930年代に原設計された自動車らしく、グラスエリアが狭くフロントフェンダーも独立した古い形態を残している。ボンネットは強度確保のため強い丸みを帯びており、その両脇に外付けされたヘッドライトと相まって、2CV独特の動物的でユーモラスなフロントスタイルを形成している(2CVは荷重による姿勢変化が大きいため、ヘッドライトの角度調節ができる設計)。
フロントグリルは細い横縞状の大型グリルで、ボンネットフードはフェンダーのすぐ上から開く構造だった。1960年にボンネットフードと共にグリルも小型化され荒い横縞となった。何れも寒冷時にエンジンのオーバークールを防ぐため、布またはプラスチックのカバーで蓋をすることが可能。

客室部分は4ドアを標準とする。初期のドアは中央のピラーを中心に対称に開き、上に引き抜くことで簡単に取り外すことも出来た。1964年に安全上の理由から前ヒンジとなった。
居住性を重視して円弧状の高い屋根を備え、ガラスは簡素化のため平面ガラスしか使われていない。側面も複雑な曲線は持たず、幅員の有効活用のため1930年代の多くの自動車のようなホイールベース間の外部ステップは持たない(この点、同時代のフォルクスワーゲン・ビートルより進んでいた)。徹底した機能主義的デザインには、同時代の建築家ル・コルビュジェからの影響が指摘されている。

前部窓下にはパネルを開閉するタイプの(原始的だが効率よく通風できる)ベンチレーターを備える。
側面窓は複雑な巻き上げ機構を省き、中央から水平線方向にヒンジを持つ二つ折れである。開け放しておくときは、下半分を外側から上に回転させて引っかけておく。初期のものには方向指示器が無く、ドライバーがこの状態で窓を開け、腕を外に出して手信号で指示することを想定していた。プリミティブの極致である。

リアフェンダーは曲面を持った脱着式で、後輪を半分カバーするスパッツ状である。タイヤ交換の場合、ジャッキアップすれば、スイングアームで吊られた後輪は自然に垂下して作業可能な状態になるので、着けたままでも実用上の問題はない。

屋根はキャンバス製が標準で、好天時には後方に巻き取ってオープンにできる。(初期型はトランクの蓋までもが幌製だったが、1957年金属製となった)キャンバストップとしたのは、軽量化やコストダウンの他、空冷エンジンの騒音を車内から発散させる効果も狙ったものである。
他にも、中央に1つだったストップランプを標準的な2つに、太いCピラーに窓を付けるなど大小さまざまな改良が加えられたが、基本的な形状は42年間変わらなかった。

[編集] 車内

大人4人が無理なく乗車できる。排気量に比してスペースは非常なゆとりがある(排気量400cc以下の自動車でこれほどの居住性を実現した例は世にも希である。ただし、車内幅は開発された時代相応に狭い)。

内装はごく簡素であり、計器類やスイッチは「運転に必要な最低限」しか装備されていない。その初期には燃料計すら装備されていなかった(燃料残量はタンク内に計量バーを差し入れて読み取るしかなかった)。ダッシュボード(?)下にはドライバーの膝上の高さで横方向一杯のトレーがあり、小物を置きやすい。
ステアリングは長年パイプ製の2本スポーク仕様だったが、のちにシトロエンの上級クラスと同じく片持ち式の1本スポーク仕様となった。1本スポークなら事故でドライバーがステアリングに叩きつけられても、ステアリングが折れて衝撃をある程度吸収できると見込んだものである。

パイプフレームで骨格を構築されたシートは、ゴムベルトでキャンバスを吊って表皮を張っただけの簡素きわまりない軽量設計であるが、乗客の身体によくなじみ、乗り心地は優秀である。床面に簡単にボルト留めされているだけで軽いため、車からの脱着もたやすく、出先で取り外して屋外のベンチ代わりに利用することもできる。着座位置は高めで、レッグスペースを稼いでいる。
床面はほとんどフラットである。プロペラシャフトやその他諸々の機器による突起がなく、居住スペース確保に貢献している。

フロントウインドシールドのワイパーは当初運転席側1組のみだったが、動力は電動ではなかった。前輪を駆動するギアケースから引き出されたスピードメーター駆動用のワイヤーケーブルを、ワイパーの駆動にも利用したのである。このためスピードメーターは、ワイパーを駆動しやすいダッシュボード上の左端に置かれた。速力に比例して、高速走行時は速く動き、低速時は遅くなり、停車中は作動しなかった(その場合手でワイパーを動かして窓を拭くことも可能であった)。
さすがにのちには2基セットの電動式ワイパーに改良され、メーターもステアリングコラム上に移った。

ヒーターは、空冷エンジンの冷却風を車内に送り込むものであるが、熱量不足で余り効きは良くない。ガソリン燃焼式の独立ヒーターを装備するケースもあった。生産モデルでは、クーラーは最後まで装備されなかった。 (後付のクーラーは存在する)

[編集] シャーシ

ホイールベースは2,400mmと、小さな排気量の割に長く、前後とも1,260mmのトレッドも1940年代当時の小型車としては広い(このゆとりが性能確保につながっている)。基本構成は、強固なプラットフォームフレームがそのままフロアパネルとなり、前後にサスペンションアームを、また前方にエンジンを初めとするドライブトレーンをオーバーハングさせている。この上に簡素な設計の軽量ボディを架装する。

サスペンションは、フロントがリーディングアーム、リアがトレーリングアームで、前後とも基本的には横置きトーションバー(ねじり棒鋼バネ)で吊られている。トーションバーはトラクシオン・アバンに採用されてそのコンパクトさで成功を収めた先例があり、2CVへの採用も自然なものであった。
更に左右それぞれの前後アームからはロッドが伸び、サイドシル下でスプリングを介して連結されている。この「前後関連懸架」により、前輪が突き上げを受けると後輪側のスプリングが伸びて、車体をフラットに保つよう働く仕掛けで、サスペンションの柔軟性と路面追従性を大きく高めた。悪路への強さの秘密がここにある。
旋回時のロールが極端に大きく、しばしば横転しそうに見えるが、実際には横転までの限界は高く、操縦安定性に優れている(低出力ゆえ、シャーシ性能には余裕がある)。
またこの構造ゆえ、荷重が大きければ大きいほど実質的なホイールベースが伸び、安定性を確保する方向に働くようになっている。

ユニークなのはダンパーで、当初油圧ショックアブソーバーはコストがかかることから、筒状ケース内のスプリング上に錘を仕込み、その慣性で振動を打ち消す「慣性ダンパー」を用いていた(途中から油圧ショックアブソーバーの価格が下がったため、そちらに移行した)。

タイヤはミシュラン製が標準である。125/15~135/15クラスのタイヤは、バルーンタイヤの登場した後の時代にも関わらず非常に細いが、径が大きくまた接地面積が小さいことで、転がり抵抗が小さく、パワーロスを減らすというメリットがある。ミシュランは1948年、世界初のラジアルタイヤ「ミシュランX」を市場に送り出したが、ほどなくこの2CV用サイズのタイヤにもラジアルタイヤが用意された。

ブレーキはシトロエンの標準で当初から油圧だが、フロントがインボードブレーキで、バネ下重量軽減効果を得ている(大衆車では通常考えられない高度な設計である)。長期に渡って前後ともドラムブレーキであったが、末期型はフロントがインボードのままディスクブレーキとなった。

前輪駆動車でネックとなる技術の一つは、前輪を駆動するためのドライブシャフト・ジョイントである。前期2CVのジョイントは、コストの制約からもっともプリミティブなダブル・カルダン型を用いざるを得なかった(このため操舵角が大きいと回転の等速性を欠いて振動を起こし、またジョイントが消耗しやすかった。これはトラクシオン・アバンの全てと2CVの前期型における弱点である)。のちのモデルではより進歩した等速ジョイントを装備している。

602ccエンジン
602ccエンジン

[編集] エンジンの構成

エンジンは、空冷水平対向式2気筒OHV型が車体前端にオーバーハングして搭載された。一見農業用発動機のように簡素で騒々しい代物ながら、その実きわめて高度な内容を備える(超精密構造であり、主要部分は通常のエンジンと違ってガスケットなしで組み立てられている。この点だけをみても普通のエンジンではない)。設計者のワルテル・ベッキアは、前職のタルボ社在籍時には高性能車用のハイスペックなエンジンを設計していた人物である。

空冷式としたのは、1930年代~1940年代の水冷エンジンにおいて冷却系統の不調がしばしばエンジントラブルの原因となっていたためである(更に軽量化・コンパクト化の効果もあった)。空冷採用に限らず、このエンジンからはトラブルの原因となる要素・機能が努めて排除され、基本的に故障しにくい構造になっている。

気筒数は極力減らされ2気筒とし、BMWなどのオートバイエンジンなどが参考にされて、コンパクトで振動対策のしやすい水平対向式を採用した。材質は1940年代としては高級なアルミ合金を用いて軽量化、燃焼室は高効率な半球式で、バルブのレイアウトは吸排気効率の良いクロスフロー型とした(半球型燃焼室とクロスフロー型弁配置は、当時、高性能スポーツカーに採用される技術であった)。エンジン前方に大きなファンを直結し、エンジン全体を冷却する。なおかつエンジン直前に置かれたオイルクーラーも同時に冷却される設計である。

通常のレシプロエンジンでは、ピストンからの動力をクランクシャフトに伝えるコンロッドは2ピースの分割式として、ボルト留めでクランクシャフトに脱着するようになっている。
ところが2CV用エンジンでは、コンロッドはクランク穴の空いた一体式として、工場で窒素冷却した組み立て式クランクシャフトを圧入してしまうやり方を取った。これで強度と工作精度を高めようという大胆不敵な発想である。クランクシャフトとコンロッドは分離不能となるが、現実にはほとんど分離を要さないので、これでもよいと割り切られた。

点火機構もトラブル排除のため徹底簡素化され、確実な作動と長期のメンテナンスフリーを実現している。クランクスローは180度であるが、点火は1回転毎の等間隔ではなく、2回転毎に左右シリンダーが同時点火される。構造は非常に単純になるが、エンジンのトルク確保の面ではやや不利である(2CVエンジンのフライホイールが大きいのは、この同時点火に対する回転円滑化の一策である)。

[編集] エンジンスペック

この2気筒エンジンは非力ながら頑丈で、スロットル全開の連続走行にもよく耐えた。未開地でのエンジンオイル切れのため、やむなくバナナから採った油をオイル代わりに使ったケースがあるが、それでもトラブル無く走れたという。

試作中は、電動セルフスターターを搭載せず、運転席から農業用発動機同様にワイヤーを手で引いてスタートさせる構造であった。これも簡素化を旨としたピエール・ブーランジェの命令による仕様である。
ところが、試作車をワイヤー始動させようとした女性秘書が爪を割ってしまい、これに懲りたブーランジェは即刻セルモーター搭載を命令した。従って生産型の2CVは全車セルフスターター装備である。

2CVは、1910年代以前の自動車のように外付けの手動クランクでエンジンを始動させることもできた。

  • 1948年当初はボア×ストロークが62mmのスクエアで、375cc(9HP/3,500rpm)の極少出力に過ぎなかった(それでも最初の2CVは最高55km/hに到達した)。
  • 1955年以降ボアを66mmに広げて排気量425ccに拡大され、出力は12HP/3,500rpmとなった。最高速度75km/h。更に1963年には圧縮比を上げて16.5HP/4,200rpm、最高速度90km/hとなる。
  • 1968年 「AMI」など上級モデル搭載の602cc(ボア×ストロークは74×70mm)を移入、28HP、最高110km/hに強化される。税法上は3CV級となるが、車名は2CVのままであった(「2CV 6」と称した)。小排気量型もしばらく「2CV 4」の名称で生産され、こちらは435ccで21HPを発生した。
  • 1970年 602ccに強力型設定、32HPに。
  • 1979年 602ccは29HP/5,750rpmに。燃費を改善。

[編集] 変速機

4段式シンクロメッシュギアボックス(1速・後進のみノンシンクロ)。このクラスでの4段変速かつシンクロメッシュギア装備は、1948年当時、望外の高度な設計である。

開発中、ピエール・ブーランジェは「農民の妻に複雑な4段トランスミッションは扱いきれない」として3段ミッションとするよう厳命したが、ワルテル・ベッキアは超低出力のエンジンパワーを最大限に有効利用するため4段式ミッションを採用した。
「4速はあくまでもオーバードライブギアである」というベッキアの主張で、ブーランジェはしぶしぶ納得したという。この「言い訳」のためか、初期形2CVの4速は「4」ではなく、高速を意味する「S」と表記された。

トランスミッションが運転席よりかなり前方に配置されているため、ギアボックス真上にロッドを立ち上げて、ダッシュボード中央から突出したシフトレバーに連結した。トラクシオン・アバン同様の手法で、至って簡潔かつ作動確実な構造であった。フロアシフト、コラムシフトのいずれでもない変わった形態である。
シフト操作も独特で、ニュートラルからレバーを左に倒し前に押すと後進、そのまま手前に引くと1速、ニュートラルでレバーを起こし前方に押すと2速、そのまま手前に引くと3速、ニュートラルでレバーを右に倒し押すと4速である。

のちには遠心式自動クラッチを装備したモデルも出現しているが、自動変速機は導入されなかった。

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