マルコフニコフ則
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マルコフニコフ則(―そく)はロシアのウラジミール・マルコウニコフ(Vladimir Vasilevich Markovnikov (Markownikoff))が1869年に発表した二重結合を持つ炭化水素の付加反応に関する経験則。
論文ではハロゲン化水素が非対称なアルケンへ付加した場合の主要生成物について触れられていた。より多くの水素が結合しているsp2炭素(二重結合を持つ炭素)にハロゲン化水素由来の水素が結合するというものである。言い換えれば、極性を持った分子(たとえば水)が非対称の炭化水素の二重結合に付加するとき、負に分極した基が炭素の多い方に付き、正に分極した基が炭素の少ない方に付くという規則になる。 これは反応中間体であるカルボカチオンに隣接したCとH結合の電子が入り込むことで安定する超共役効果で説明される。より安定な中間体を形成するほうのほうが生成に有利である。
具体例を挙げれば、プロペン (CH3CH=CH2) に酸触媒で水を付加すると選択的に2-プロパノール (CH3CH(OH)CH3) が生成する。1-プロパノールにはならない。1-ペンテン (CH2=CHCH2CH2CH3) に光触媒で塩化水素を付加すると2-クロロペンタン (CH3CClHCH2CH2CH3) が選択的に生成する。
この法則により、二重結合を持つ炭化水素から第一級のアルコールやアルデヒドを生成することは極めて困難になる。先ほどの例ではプロペンから1-プロパノールを生成できないということである。これを解決したのはヒドロホウ素化の発見であった。ヒドロホウ素化では求電子剤として働くボランBH3を用いる。
ちなみに、マルコフニコフ則が成立するのは、親電子的付加反応の場合のみである。ハロゲン化水素付加の場合でも、条件をラジカル付加反応が起こるようにすると、マルコフニコフ則と逆の生成物を与える。例えば臭化水素の水素を過酸化物で引き抜くと臭素ラジカルができる。この臭素ラジカルはアルケン部分を攻撃し反応を起こす。これも超共役によって説明できラジカル中間体の安定するほうに反応が進むのでマルコフニコフとは逆の反応が起きる。 これを逆マルコフニコフ則(反マルコフニコフ則)、またはアンチマルコフニコフ則という。
簡潔に述べると、非対称形の反応剤が非対称形のアルケンに付加するときは、二重結合の二個の炭素のうち水素原子数の多いほうの炭素に、反応剤の電気的に陽性な部分が結合する。
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