モーリス・メルロー=ポンティ
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モーリス・メルロー=ポンティ(Maurice Merleau-Ponty, 1908年3月14日 - 1961年5月4日)は、フランスの哲学者。現象学を学び、その発展に尽くした。
彼の哲学は「両義性の哲学」「身体性の哲学」「知覚の優位性の哲学」と呼ばれ、従来対立するものと看做されてきた概念の<自己のの概念>と<対象の概念>を、知覚における認識の生成にまで掘り下げた指摘をしている。 例えば、「枯れ木」があるとします。 子供の頃(最初に見た時)は、「枯れ木」という存在を眼で見て、「枯れ木」は<名前のない現象として>知っていますが、「枯れ木」という言葉(記号)を知って初めて、恒常的に認識出来るのですね。そして、「枯れ木」という現象が「枯れ木」というものの(同一言語下で)共通した認識を得るのですね。
≪それは、「枯れ木」を含む場景を見て知っていたが、「枯れ木」という言葉を知らなかったので、「枯れ木」を知らなかった。≫という言葉に理解を求めたい。
また、精神と身体というデカルト以来の対立も、知覚の次元に掘り下げて指摘し、私の身体が<対象になるか><自己自身になるか>は、「どちらかであるとはいえない。つまり、両義的である。」とした。一つの対象認識に<精神の中のものであるか><対象の中のものであるか>という二極対立を超え、私の身体のリアリティは、<どちらともいえない>。しかし、それは無自覚な<曖昧性>のうちにあるのではなく、明確に表現された時に<両義性>を持つとした。そして、その状態が、<私という世界認識><根源的な世界認識>であるとした。 そこには、既に言葉と対象を一致させた次元から始めるのではなく、そもそもの言葉の生成からの考察なのですね。 それは、論理実証主義哲学、分析哲学、プラグマティズムなどの<言語が知られている次元>からの哲学に厳しい指摘をしたといえる。 そこには多くの哲学の垣根を越える試みが見られ、また、異文化理解や芸術、看護学などに大きな影響を与えた。
また、そういう知覚の優位性からの、新しい存在論の試みが『見えるもの見えないもの』で見られる。 しかし、彼の絶筆が『見えるもの見えないもの』であるので、志途中での彼の死は、惜しまれるものである。 しかしながら、後世の哲学者による彼の思考の継承は、誤謬の修正から真理の起源まで幅広く影響を与えるものである。
[編集] 邦訳主要著作
・『知覚の現象学』 中島盛夫訳 (叢書ウニベルシタス) 法政大学出版局
・『意味と無意味』 永戸多喜雄訳 国文社
・『ヒューマニズムとテロル』改訂版 森本和夫訳 現代思潮社
・『知覚の本性-初期論文集』 加賀野井秀一編訳 (叢書ウニベルシタス) 法政大学出版局
・『見えるものと見えざるもの』 クロード・ルフォール編/中島盛夫監訳(叢書ウニベルシタス)法政大学出版局
・『行動の構造』 滝浦静雄・木田元共訳 みすず書房 (1964)
・『眼と精神』 滝浦静雄・木田元共訳 みすず書房 (1966)
・『知覚の現象学1』 竹内芳郎・小木貞孝共訳 みすず書房 (1967)
・『知覚の現象学2』 竹内芳郎・木田元・宮本忠雄共訳 みすず書房 (1974)
・『シーニュ1』 竹内芳郎監訳 みすず書房 (1969)
・『シーニュ2』 竹内芳郎監訳 みすず書房 (1970)
・『弁証法の冒険』 滝浦静雄・木田元・田島節夫・市川浩共訳 みすず書房 (1972)
・『言語と自然』-コレージュ・ド・フランス講義要録- 滝浦静雄・木田元共訳 みすず書房 (1979)
・『世界の散文』 滝浦静雄・木田元共訳 みすず書房 (1979)
・『見えるものと見えないもの』 滝浦静雄・木田元共訳 みすず書房 (1989)
・『メルローポンティの研究ノート』-新しい存在論の輪郭- 菊川忠夫編訳 御茶の水書房(1981)
[編集] 関連図書
・『現象学』 ジャン・フランソワ・リオタール著 高橋允昭訳 文庫クセジュ 白水社 (1965)
・『現代フランスの哲学』-実存主義・現象学・構造主義- ピエール・トロティニョン著 田島節夫訳 文庫クセジュ 白水社 (1969)
・『現象学』 木田元著 岩波新書 (1970)
・『現象学』 新田義弘著 岩波全書 (1978)
・『メルローポンティの哲学と現代社会』(上・下) L・スパーリング著 菊川忠夫訳 御茶の水書房 (1981-1982)
・『知の最前線』 現代フランスの哲学 ヴァンサン・デコンブ著 高橋允昭訳 TBSブリタニカ(1983)
・『メルローポンティの思想』 木田元著 岩波書店 (1984)
・『現象学の射程』 -フッサールとメルローポンティー 水野和久著 勁草書房 (1992)
・『「自分」と「他人」をどうみるか』 滝浦静雄著 NHKブックス (1992)
・『メルローポンティ』 -可逆性- 鷲田清一著 講談社 (1997)