ヤン・ティンバーゲン
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ヤン・ティンバーゲン(Jan Tinbergen, 1903年4月12日 - 1994年6月9日)はオランダ出身の経済学者である。計量経済学の誕生期1930年代からすでに計量分析に関わってきた。
1969年には経済過程の分析に対する動学的モデルの発展と応用の功績が称えられ、ノルウェーの経済学者ラグナル・フリッシュとともに世界最初のアルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン銀行賞を受賞した。
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[編集] 生涯
ティンバーゲンはライデン大学で物理学を専攻し、卒業後はオランダ中央統計局に勤務した。1945年から1955年までオランダ経済計画局長官を務め、1955年以降はオランダ経済大学教授と同大学付設のオランダ経済研究所の所長を兼務した。1965年から1972年までは国連開発委員会の議長を務めた。1970年に国連開発委員会が発表した『Preparation of Guidelines and Proposals for the Second United Nations Development Decade(第二次国連開発10年のためのガイドラインと提案)』は1970年代の開発戦略の方向付けに大きな影響を及ぼした。この報告は『ティンバーゲン報告』とも呼ばれる。
1969年、ティンバーゲンは計量経済学への貢献とのその政策分野への応用等の功績により、第1回ノーベル経済学賞を授与された。
[編集] 業績
ティンバーゲンは国家規模のマクロ経済学のモデルを初めて開拓した人物であり、最初にオランダの経済モデルを構築し、その後アメリカ合衆国とイギリスに対して経済モデルを適用した。ティンバーゲンはロッテルダムのエラスムス大学に計量経済学研究所を設立した。
ティンバーゲンの主要研究領域は、大きく3つの分野に分けられる。1つは、ミハウ・カレツキ・ラグナル・フリッシュ等の巨視的景気循環モデルとアーヴィング・フィッシャー・ラグナル・フリッシュなどが考案した多元相関分析を利用したものであり、後の展開の源流となった景気循環のマクロ計量経済的モデルを構築した。『An Econometric Approach to Business Cycle Problems(景気循環の諸問題に対する計量経済学的接近)』(1937年)、『Statistical Testing of Business Cycle Theories(景気循環理論の統計的検証)』(1939年)等が主要文献である。同時期にユリシーズ・リッツらとともにくもの巣理論を発表し、経済動学理論の幕開け的役割を果たした。
2つ目は経済計画の作成に計量経済学的手法を適用して、短期政策モデル(オランダ・モデル)を作成したことである。主要文献として『Centralizatoin and Decentralization in Economic Policy』(1954年)、『On the Theory of Economic Policy』(1952年)、『Economic Policy: Principles and Design』(1956年)等がある。
3つ目は、長期経済計画、発展途上国の開発、経済体制の問題の研究である。
ティンバーゲンの業績は後にローレンス・クラインによって体系化され、クラインのノーベル経済学賞の受賞にも貢献した。
[編集] くもの巣理論
pt, qtd, qts をそれぞれある財の t 期の価格、需要量、供給量とし、qtd = D (pt) および qts = S (pt-1) と表されるとする。今期の供給量は前期の価格に応じて固定されているため、今期の価格は qtd をこの固定的な供給量に一致させるように決定される。この価格の変動経路を需要曲線が通常の勾配を持つとするならば、「くもの巣」状になる。
また、この体系の定常解 p* は、|D’ (p*)| > |S’ (p*)| を満たせば安定であることも明らかである。一般に、農産物の収穫量は、前期の価格水準に応じて定まる作付け規模等に支配されるため、くもの巣理論は、しばしば農産物価格の変動を説明するために利用される。
- 詳しくはくもの巣理論の項目を参照して欲しい。
[編集] その他
なお、ヤン・ティンバーゲンの弟であるニコ・ティンバーゲンとルーク・ティンバーゲンは有名な鳥類学者であり、ニコ・ティンバーゲンは1973年はノーベル生理学・医学賞を受賞している。