世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
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『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(せかいのおわりとハードボイルド・ワンダーランド)は、1985年(昭和60年)に新潮社から刊行された村上春樹の四本目の長編小説。後に新潮文庫にて上下巻で文庫化された。また『村上春樹作品集』に収録され、このとき若干の修正が加えられている。
村上にとっては最初の書き下ろし長編であり、以後、長編小説はすべて書きおろしの形で刊行されることとなる。
2002年時点までに、単行本・文庫本を合わせて162万部が発行されている。
目次 |
[編集] 概要
小説は「世界の終り」と「ハードボイルド・ワンダーランド」に分かれており、世界観を異にする一人称視点からの叙述が、章ごとに交互に入れ替わりながら、パラレルに進行する。巻頭および巻末章はともに「世界の終り」があてられている。(文庫版では巻頭章が「ハードボイルド・ワンダーランド」、巻末章が「世界の終り」となっている。)
以前から指摘のあった独特の世界観が、前面に押し出された内容であり、数ある村上作品の中でも最高傑作の一つと呼び声が高く、現在でもファンが多い。村上作品のなかでは初めて外国語訳された小説であり、『海辺のカフカ』、『ねじまき鳥クロニクル』についで、評価の高い作品である。
なお「世界の終り」は1980年9月雑誌『文學界』に発表された中篇(『街と、その不確かな壁』、単行本未収録)に基づいている。
また漫画家の安倍吉俊はこの作品に非常に影響を受けたとされ、氏の手がけた作品『灰羽連盟』において非常に多くの類似点が見られる。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] 世界の終り
「世界の終り」は、一角獣が生息し「壁」に囲まれた街、「世界の終り」に入ることとなった「僕」が「街」の持つ謎と「街」が生まれた理由を捜し求める物語。外界から隔絶され、「心」を持たないが故に安らかな日々を送る「街」の人々の中で、「影」を引き剥がされるとともに記憶のほとんどを失った「僕」は葛藤する。「僕」は図書館の夢読みとして働きつつ、影の依頼で街の地図を作り、図書館の女の子や発電所の管理人などと話をし、街の謎に迫っていく。管理人からもらった手風琴によって忘却していた「歌」を取り戻した僕は、街が自らの心の生み出したものであることを悟る。地図からみつけた脱出路をとおってともに「本来の世界」へ戻ろうと誘う影に対し、自ら生み出した街の人々にたいする責任を引き受け、女の子とふたりで森に住むことを決意した「僕」は、別れを告げ、「世界の終り」にひとり残る。
[編集] 登場人物
- 僕:「世界の終り」における主人公。「外の世界」から追われ、「街」に入った後、「図書館」で「夢読み」として働くことになる。「影」を引き剥がされた際、「外の世界」の記憶の殆どを失う。「街」で唯一「心」を有する。
- 影:主人公の影。「街」に入る際に「門番」によって「僕」から引き剥がされる。主人公の記憶の殆どを所持している。
- 門番:「街」の入口を管理する。膨大な数のナイフを所持している。
- 大佐:「僕」の隣人の退役軍人。「街」で唯一チェスに強い関心を示す。
- 図書館の女の子:「図書館」の司書。「図書館」で「古い夢」を読む「僕」を補佐する。「街」の他の人々と同様、「心」を持たない。
- 発電所の管理人:「街」で唯一の発電所を管理する。不完全ながら「心」を有しており、その所為で「街」には入れない。
- 獣:「街」に生息する一角獣。
[編集] ハードボイルド・ワンダーランド
「ハードボイルド・ワンダーランド」は、近未来と思われる世界で暗号を取り扱う「計算士」として活躍する「私」が、自らに仕掛けられた「装置」の謎を捜し求める物語である。半官半民の「計算士」の組織「システム」とそれに敵対する「記号士」組織「ファクトリー」は、暗号の作成と解読の技術を交互に塀立て競争の様に争っている。「計算士」である「私」は、暗号処理の中でも最高度の「シャフリング」を使いこなせる存在であるが、その「シャフリング」システムを用いた仕事の依頼をある老博士から受け、状況は一変する。
[編集] 登場人物
- 私:「ハードボイルド・ワンダーランド」における主人公。人間の潜在意識を利用した数値変換術「シャフリング」を使用できる、限られた「計算士」の内の一人。古い映画や文学、音楽を愛好する。
- 老博士:人間の口蓋に関する研究を行っている。滝の裏に研究所を持ち、話し方が特徴的。計算士である「私」に「シャフリング」の依頼を行う。
- 太った娘:博士の孫娘。「私」曰く、理想的な太った体型。ピンク色の衣服を好む。射撃、乗馬、株など特技は多いが常識に疎い部分も多い。
- リファレンス係の女の子:調べもののため「私」が訪れた図書館のリファレンス係の女の子。髪が長く、スレンダーであるが胃拡張であり、「私」曰く、「機関銃で納屋をなぎ倒すような」食欲の持ち主。夫と死別している。「私」とセックス3回。
- 大男:「私」の家に訪れる謎の二人組みの内の一人。元プロレスラー。
- ちび:「私」の家に訪れる謎の二人組みの内の一人。大男の面倒を見ている。二人は「システム」にも「ファクトリー」にも属さない第3の勢力に属すると主人公は予測するが、実際はファクトリー側の人間。
- やみくろ:地下に生きるもの。汚水を飲み、腐ったもののみを食べる。
- ポリス レゲェ・タクシーの運転手:泥だらけの『私』と太った娘をタクシーに乗せてくれた。
[編集] 登場する文学作品
村上春樹 | |
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作品 | |
長編小説 : | 風の歌を聴け | 1973年のピンボール | 羊をめぐる冒険 | 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド | ノルウェイの森 | ダンス・ダンス・ダンス | 国境の南、太陽の西 | ねじまき鳥クロニクル | スプートニクの恋人 | 海辺のカフカ | アフターダーク |
短編小説 : | パン屋再襲撃 | ファミリー・アフェア | TVピープル | トニー滝谷 | 東京奇譚集 |
随筆 : | 意味がなければスイングはない | 遠い太鼓 |
ノンフィクション : | アンダーグラウンド | 約束された場所で |
翻訳 : | キャッチャー・イン・ザ・ライ | グレート・ギャツビー | ロング・グッドバイ |
関連 | |
カテゴリ : | 村上春樹 | 小説 |