代理
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代理 (だいり) とは、誰かの代わりに何かを行うことをいう。民法上の用法では、本人に代わって別の人間が意思表示を行うことにより法律行為(契約等)を行い、その効果が本人に帰属する制度をいう。
代理を行う者を代理人という。代理の効果は直接本人に帰属し、本人に帰属させる意思を代理意思という。代理を行う権限を代理権という。本人に当たるものが、会社などの法人の場合、その法人の構成員が法人のために法律行為を行う場合も広義の代理に含まれる。この場合は、特に代表という。文言上「代表」とあっても、「代理」を意味することがある。
以下において、特に断りなく条文に言及するときは、民法の条文を指す。
目次 |
[編集] 民法における代理
代理人が商品の購入契約を締結すると、商品の所有権を取得するのは代理人ではなく本人であり、代金支払義務を負うのも代理人でなく本人である。効果帰属要件ともいう。
本人がいかなる法律行為をするか決め、その意思表示を伝達するにすぎない使者とは異なり、代理人が、代理権の範囲で、代理人自身の判断でいかなる法律行為をするか決め、意思表示をするのである。
例えば、支店長が支店長名にて会社に関する契約を締結するのは「代理」だが、社長(代表取締役)が記名捺印した契約書を相手方に交付する場合は、意思表示の主体は代表取締役であって、支店長は「使者」にすぎない。
[編集] 代理制度の趣旨
- 私的自治の拡張
- 代理人を利用することにより本人の法的な活動の領域を拡張させることができる。主に任意代理制度に妥当する趣旨である。
- 私的自治の補充
- 代理人を利用することにより本人の法的な活動をより確実なものにすることができる。主に法定代理制度に妥当する趣旨である。
[編集] 代理権
代理が効力を生じるためには、まず、代理人が代理権を有していることが必要である。代理権のない者(無権代理人)が代理人として行為した場合は、後述の無権代理となる。
[編集] 代理権の発生原因
代理には任意代理と法定代理の2種類があり、代理権の発生原因はそれぞれ異なる。
- 任意代理
- 代理権は法律の規定により発生する。
[編集] 代理権の範囲
任意代理の場合、代理権の発生原因となった契約等の解釈によってその範囲が決定されるが、定めのない場合については、次の範囲で代理権を有する(103条1号、2号)。
- 保存行為(同条1号)
- 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為(同条2号)
[編集] 自己契約・双方代理
自己契約・双方代理は108条によって禁止されている。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
- 自己契約
- 双方代理
[編集] 代理人の資格
[編集] 代理権の消滅
本人が死亡したり、代理人が死亡又は破産し、あるいは後見開始の審判を受けたときに代理権は消滅する(111条1項1号、2号)。代理権が委任に基づいて発生した場合は、委任が終了したときにも代理権は消滅する(同条2項)。
[編集] 復代理
復代理とは、代理人がさらに代理人を選任し本人を代理させることである。こうして選任された本人の代理人を復代理人という。
- 任意代理
- 原則として任意代理人には復任権はないが、本人の許諾を得たときか、やむを得ない事情があるときに限り復代理人を選任できる(104条)。代理人は、復代理人の選任及び監督について、本人に対して責任を負う(105条1項、本人の指名に従って復代理人を選任したケースについては責任が軽減される。同条2項)。
- 法定代理
[編集] 代理行為
[編集] 顕名
代理人は本人のためにすることを示して意思表示をしなければならない(99条1項)。それを怠ると、自己のためにしたものとみなされる(100条本文、ただし、相手方が代理人の代理意思を知っていた場合は例外)。相手方が法律効果の帰属先を誤認しないようにするための制度である。
[編集] 代理行為の瑕疵
代理行為は本人の行為ではなく、代理人自身の行為であるから、代理における行為の主体は代理人になる。
したがって、代理行為における法律効果の瑕疵は、本人ではなく代理人自身について定めるべきものである(101条1項)。もっとも、特定の代理行為が本人の指図に基づいて行われた場合は、代理人がその事情について知らなくても本人が知っている、又は過失により知らなかったのであれば、本人は代理人の善意・無過失を主張することができない(同条2項)。
[編集] 代理権の濫用
客観的には代理権の範囲内の行為であっても、代理人に自己又は第三者の利益を意図して権限の濫用した場合の法律関係をどう理解すべきか問題になる。かつては代理人には権限濫用する権限はないとして無権代理と解釈する立場も存在したが、現在では客観的な権限踰越と主観的な権限濫用とを峻別して考え、その上で93条(心裡留保)を類推適用し、相手方が代理人の濫用意図につき悪意・有過失である場合に法律効果を無効とする見解が判例(最高裁昭和42年4月20日判決・民集21巻3号697頁)・通説である。ただし、類推解釈の基礎を欠くとして信義則違反で対応すべしとする立場もある。
[編集] 無権代理
無権代理とは、本人を代理する権限がないにもかかわらず、勝手に代理人として振る舞うことをいう(113条1項)。
- 無権代理行為の追認
- 無権代理に基づく法律行為の相手方は、本人に対して、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができ、また、無権代理につき善意であれば法律行為を取り消すこともできる。
- 無権代理人の責任(117条)
- 無権代理人は原則として、善意かつ無過失の相手方に対し、履行又は損害賠償責任を負う。
- 117条に基づく無権代理人の責任は、本人の表見代理責任と併存し、相手方はいずれの責任を追及するのも自由と考えるのが判例である。
[編集] 表見代理
代理権なしに代理人が代理意思をもって行為しても無権代理となり代理としての効果は否定されるが、代理権の存在について本人のせいで一定の外観が生じており、それを過失なく信じた場合は、表見代理として、代理が有効に成立することもある。権利外観法理の一類型と位置付けられる。
民法上、次の3類型の表見代理が認められると解されている。
[編集] 商法における代理(商事代理)
商行為の代理については特則があり、代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、代理が成立する(商法504条、善意の相手方は代理人に対して履行の請求をすることも可能)。手形法上の代理については、手形行為を参照。
[編集] 行政法における代理
- 権限の代理
- 法定代理
- 指定代理
- 本来の行政庁が事故にあうなど権限を行使できない場合に、法律の定めに従い指定された行政庁が代わって権限を行使すること。
- 授権代理
- 被代理庁の授権による代理で補助機関に代理させる場合は法律の根拠を必要としない。
- 法定代理