北極星
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北極星(ほっきょくせい)は、天の北極に最も近い輝星を意味する。2007年現在の北極星はポラリス(別名キノスラ)である。その他「Polestar」(ポールスター)や「Polar Star」(ポーラースター)とも呼ばれる。
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[編集] 概説
北極星は、地球の自転軸を北極側に延長した線上(天の北極)に位置している。そのため地球上から見ると、北極星は動かず、北の空の星は北極星の周りを回転しているように見える。そのような理由から、北極星は天測航行をする際に正確な測定をするための固定点となり得る。この事実は古くから知られており、アッシリアで発見された後期バビロニア時代の星座絵図にはポラリスが描かれていた。2007年現在、ポラリスは自転軸から 1度あまり離れており、直径約 2度の小さな円を描いている。
ウィリアム・シェイクスピアは、「俺は北極星のように不動だ」と書いているが、実際は春分点歳差のために、北極星は何千年か毎に別の星に移り変わる。紀元前2000年代にはりゅう座のα星(トゥバン)が北極星に当たる位置にあり、エジプトのピラミッドに北向きに作られた空洞は、当初この星に向かっていた。1万3千年後にはこと座のベガが北極星になる。
ポラリスを見つける方法を、次に示す。まず、おおぐま座 α星(ドゥーベ)から β星(メラク)までを直線で結す。ドゥーベとメラクはそれぞれ北斗七星のひしゃくの先端と先端からふたつ目である。続いて、メラクからドゥーベまでの距離を 5倍すると、ポラリスの位置になる。また、カシオペヤ座を使う方法もある。
ポラリスは北極星として有名であるため、全天で最も明るく輝いている星がポラリスであると勘違いする人は少なくない。確かにポラリスは比較的明るい星であるが、実際は全天で51番目に明るい星である。最も明るい星はおおいぬ座のシリウスである(地球から見た明るさで、太陽・月・太陽系の惑星は除く)。
なお、2004年現在南極星は存在しない。肉眼で観測できる星としてははちぶんぎ座 σ星が天の南極に最も近いが、明るい星とはいえない(5.47等)。
[編集] 過去の北極星
- トゥバン(りゅう座 α星):紀元前2800年ごろ
- コカブ(こぐま座 β星):紀元前1100年ごろ
[編集] 現在の北極星
- ポラリス (こぐま座α星):西暦2100年ごろ、もっとも天の北極に近づく。
[編集] 未来の北極星
- エライ(ケフェウス座 γ星):西暦4100年ごろ
- アルフィルク(ケフェウス座 β星):西暦5900年ごろ
- アルデラミン(ケフェウス座 α星):西暦7600年ごろ
- デネブ(はくちょう座 α星):西暦10200年ごろ
- はくちょう座 δ星:西暦11600年ごろ
- ベガ(こと座 α星):西暦13700年ごろ … 紀元前11500年ごろにも天の北極近くに位置していた。
ここから先は、23000年ごろにまたトゥバンが北極星となり、同じように繰り返す。ただし、それぞれの恒星の固有運動があるため、正確な繰り返しではない。例えば、紀元前58000年ごろにはうしかい座のアルクトゥルスすら北極星であった。
上記の「過去・現在・未来の北極星」のうち、赤緯89度以上に達するのはポラリスとトゥバンであり、二つのうち特に天の北極に近づくのはトゥバンである。
[編集] 北極星となるには暗すぎるが、天の北極に近づく有名な星
- ガーネット・スター(ケフェウス座 μ星)
- ケフェウス座 λ星
- こと座 R星
[編集] 北極星に関する伝承
地球から見て北極星は動かないという特殊な性質があるため、世界各地に様々な伝承が残っている。
- 中国では伝統的に、北極星(厳密には北極五星(太子、帝、庶子、后、北辰)のうち帝星であるコカブ)は天帝であり、北斗七星など守り諸臣であるその他の星々がその周りをめぐっているのだと考え、地上の天子もそれに倣って南面して座るべきものだとした。北極星を天皇大帝または太一(タイチー、太極・太乙)と呼び、これが日本に伝わると、大和王権の長であるスメラミコトを天皇と呼ぶようになった。また、伊勢神宮の式年遷宮に使われる材木や、伊勢神宮の別宮・伊雑宮で行われる御田植え祭りの大団扇など、天皇にかかわるものに太一(大一)と書かれることがある。なお、妙見菩薩は「天帝」が仏教に取り入れられた存在である。