長崎電気軌道2000形電車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
長崎電気軌道2000形電車(ながさきでんききどう2000かたでんしゃ)とは、1980年に登場した長崎電気軌道の路面電車である。2006年現在、2001と2002の2両が存在する。
目次 |
[編集] 概要
日本船舶振興会(現在の通称は日本財団)の資金援助の下で日本鉄道技術協会が開発した、「軽快電車」と呼ばれる新型路面電車の実証試験車となった広島電鉄3500形に続く初の量産車として建造され、3500形に先駆けて1980年夏より就役した。
大出力直流複巻式電動機の直角カルダン駆動によるモノモーター方式駆動システム・インサイドフレーム空気バネ台車・電機子チョッパ制御等、従来の路面電車には無い斬新な機構を多数採用した。
この画期的な設計が評価され、1981年には、鉄道友の会のローレル賞を受賞している。
[編集] 車体
開発に参加したアルナ工機(現・アルナ車両)が先行して1977年より製作した、東京都交通局7000形更新車のデザインの流れを汲む、スクエアな造形の全金属製車体である。
窓配置はD3D3の左右非対称形で、下段上昇・上段下降式のユニット式アルミサッシ窓を採用し、中央扉は2枚折り戸を2組用いた1400mm幅の両開き式、左扉は通常の2枚折り戸となっている。
座席は1人掛けクロスシートとロングシートを組み合わせたセミクロスシート式で、空調装置として屋根上に冷凍能力25000kcal/hの冷房機を搭載する。
[編集] 電装品・台車・ブレーキ
三菱電機製CMC161-6サイリスタチョッパ制御器により、同じく三菱電機製のMB-3263-A直流複巻式電動機(端子電圧600V時定格出力120kW、定格回転数1800rpm)1台を制御する。このMB-3262-Aは寸法的な制約が特に厳しいことから円筒形ではなく、高さを抑え易い八面構成のヨークを採用しており、外観上も八角柱状のハウジングを用いた、特徴的な形状を呈している。
駆動システムとしては、直角カルダン駆動によるモノモーター2軸駆動方式を採用する。モノモーター方式の直角カルダン駆動は、ハイポイドギア(曲がり歯笠歯車)などの笠歯車を使用する必要があり、製造・保守コストが平歯車を使用する他の駆動システムと比較して高くなる傾向がある。その反面、駆動音が非常に静粛となり、また例えば60kW級電動機を2台搭載する場合に比べて制御器の回路構成が圧倒的に簡略化されるため、当時の技術では小型化の難しかったチョッパ制御器の小型化が容易、しかも2軸同時駆動となるために空転しにくい、というメリットがあり、本形式を含む「軽快電車」2形式や、それらと同様に新技術のテストベッド的な意味合いが強く、主電動機数を減らして主回路構成を簡略化することが求められた、熊本市交通局8200形に採用されている。また、カルダン式のカルダン式たるゆえんである可撓継手は東洋電機製造製ゴムブッシュ付き平行リンク型中空軸カルダン継手が採用されており、これによって電動台車の各車軸とハイポイドギア軸(出力側)とを結合している。
更に、このモノモーター方式とする事で台車も側枠を主電動機支持の為にインサイドフレーム(車輪が露出し、軸受が車輪間の車軸に取り付けられる構造)とする必要が生じ、又主電動機の装架の都合上、揺れ枕も取り付けられなくなったため、必然的にダイアフラム形空気バネによるダイレクトマウント方式台車となった。こうして、緩衝ゴム式軸箱支持+防音車輪(※1)採用で乗り心地の改善と静音化を実現した住友金属工業FS82/82T(※2)が新規設計された。
- (※1)通常の一体圧延車輪のリム部内側に防音リングが圧入されている。つまり、いわゆる弾性車輪ではない。また、この車輪は車軸がバネ下重量軽減を目的に中空軸とされている。
- (※2)82Tは付随台車用。なお、ホイルベース寸法(82:1800mm、82T:1400mm)やボルスタ周辺の構造(82:大径ボールレース式心皿、82T:通常型心皿)は双方で異なっている。
主電動機出力は開発が先行した広島電鉄3500形と同一であるが、本形式は車体が軽いために加速度が3.0km/h/sと設定(※3)されており、交差点通過時のダッシュに威力を発揮する。
- (※3)これが軽快電車開発時の本来のスペックである。広島向けは当初2車体連接車として計画されたものに中間車体を挿入したため、特に加速性能が大幅に低下している。
パンタグラフは新設計のZ形パンタグラフで、これは東洋電機製造が設計製作を担当し、以後各地の路面電車や下津井電鉄モハ2001形「メリーベル」などの小型電車に多用されるようになった一連の同社製新世代Z形パンタグラフシリーズの始祖となった機種である。これは本来は回生ブレーキ常用を目的として開発され、離線が発生しないよう架線への追従性が高められているのが特徴であるが、本形式では床下スペースとコストの問題から、回生ブレーキが省略されているため、その架線への良好な追従性は、静止型インバータによる補助電源の停止による冷房の機能停止を防止する目的にのみ役立てられている。
ブレーキは一般的な電気指令式であるが、コンパクト化と加速性能に見合った制動能力の強化、それに空気管内の結露による錆の発生への対策が必要になったために、空気圧指令を空油変換弁で変換する、油圧キャリパー方式のディスクブレーキが採用されており、これにより常用3.5km/h/s、非常4.5km/h/sという高減速度を実現した。
運転台のマスコン(主幹制御器)は1軸両手式のワンハンドルマスコンが採用され、力行・制動が統合されているため、過去のPCC車や準PCC車で問題となったブレーキの電空切り替え操作の複雑さが解消されている。
[編集] 現状
開発が先行した広島電鉄3500形が建造途中での編成変更(2車体連接車→3車体連接車)で重量が増えて相対的な出力不足に陥り、十分な性能が得られずトラブルが続出したのに対し、本形式は性能に余裕が与えられていたことから、登場以来ほぼノントラブルで稼働中である。なお、新造後ほどなく長崎大水害が発生したが、たまたま本形式は2両とも工場で車体をジャッキアップしており、台車や主電動機は冠水したものの、チョッパ制御器等床下機器への被害は免れている。
当初はさらに3両の増備で5両体制とすることが計画されていたが、開発の遅れと建造コストの高騰などから大量導入は時期尚早と判断され、本形式は2両で建造打ち切りとなった。
その後は同形車体の機器流用車1200形・1300形の増備に移行した。
[編集] 主要諸元
- 製造初年:1980年
- 全長:11,700mm
- 全幅:2,250mm
- 全高:3,780mm
- 自重:17.0t
- 車体構造:全金属製
- 定員(着席):66(22)人
- 出力・駆動方式:120kWx1、直角カルダン駆動式
- 車種:電動客車(ワンマン)
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 交友社『鉄道ファン』1980年5月号 Vol.20 No.229
- 西尾源太郎「ことしのビッグニュース これがうわさの軽快電車」
- 交友社『鉄道ファン』1980年10月号 Vol.20 No.234
- 小山柾「新車ガイド2 さわやかにデビュー 広島・長崎に軽快電車」
[編集] 参考サイト
カテゴリ: ローレル賞 | 路面電車車両 | 長崎電気軌道 | 鉄道関連のスタブ項目