CKM行列
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CKM行列(カビボ・小林・益川行列)は素粒子物理学の標準理論上で、フレーバーが変化する弱崩壊の結合定数を表すユニタリー行列であり、クォークが自由に伝播する場合と弱い相互作用を起こす場合の量子状態の不整合を示している。このことはCP対称性の破れを理解するうえで重要となる。CKM行列はニコラ・カビボが1世代の行列理論として発表していたものを小林誠と益川敏英が3世代の行列式にしたものである。
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[編集] CKM行列式
左辺はCKM行列とクォークの強い相互作用の固有状態の積で、右辺がクォークの弱い相互作用の固有状態である。CKM行列はクォーク q が別のクォーク q' に変換する確率を示しており、に比例する。
実験から行列の各成分の大きさは次のようであるとされている(注:あくまで概算である)。
[編集] 演算
N世代のクォークが存在する場合を考える。まず最初に行列の成分の個数を数える必要がある。成分 V は実験により導かれる。
- 1. N×N の複素行列は 2N2個の実数を含んでいる。
- 2. ユニタリティーの制限は ∑kVikV*jk = δij であるので、対角成分 (i=j ) は N、それ以外の成分は N(N-1)の制限がある。よってユニタリー行列で独立な実数は N2個となる。
- 3. 位相の一つはクォーク場へ吸収できる。全体に共通な位相は吸収できない。よって独立な数は (2N-1)個であり、変数は (N-1)2個となる。
- 4. これらのうち N(N-1)/2個はクォーク混合角と言われる回転角である。
- 5. 残りの (N−1)(N−2)/2個が複素位相であり、CP対称性の破れの原因となる。
N=2 の場合、2世代のクォーク間の混合角を表す位相因子は1つとなる。これはクォークの世代が2つしか知られていなかったときにCKM行列の前身になったもので、発見者にちなんでカビボ角といわれる。 標準理論では N=3 となり、3つの混合角とCP対称性の破れが現れる。
[編集] クォーク混合の発見
クォーク混合は以下の2つの観測結果を説明するために考えだされた。
- 1.アップクォーク↔ダウンクォーク、電子↔電子ニュートリノ、ミューオン↔ミューニュートリノの変換は類似した振幅を持っている。
- 2.ストレンジネスが変化する素粒子の変換で ΔS=1 は ΔS=0 の 1/4 の振幅を持っている。
これらについて、カビボは弱い相互作用の普遍性が1.を、ダウンクォークとストレンジクォークの混合角が2.をそれぞれ解決すると仮定した。 クォークが2世代の場合はCP対称性の破れを示す位相は現れない。その一方で中性K中間子の崩壊に伴う対称性の破れは1964年に発見されており、標準理論が発表されると1973年に小林と益川が指摘したように3世代目のクォークの存在が強く示唆された。1976年にはフェルミ研究所でボトムクォークが発見され、すぐにこれと対をつくるトップクォーク探しが始まった。
[編集] 弱い相互作用の普遍性
CKM行列の対角成分でユニタリティーの制限は
∑ | | Vij | 2 = 1 |
j |
(i=1,2,3)
である。これは上向きアイソスピンを持つクォークと下向きアイソスピンを持つクォークのペアの数が全ての世代で同じことを示唆している。この関係はカビボが1967年に弱い相互作用の普遍性(弱い相互作用のユニバーサリティー)として初めて指摘した。理論上全ての SU(2) 粒子対は弱い相互作用のベクターボソンと同じ強さで結合することが導かれ、これまでの実験結果と一致している。
[編集] ユニタリティー三角形
CKM行列で残りのユニタリティーの制限は
である。任意の i 及び j において3つの複素数の制限があり、k においては1つの制限がある。これは複素平面上でこれらの数が三角形の各頂点を構成することを示している。i と j は6つの選択ができるので6つの三角形が作図できるが、これらをユニタリティー三角形(ユニタリ三角形)と呼ぶ。三角形の形は異なるにしても面積は全て等しく、これがCP対称性の破れの位相因子に関係する。標準理論でCP対称性の破れが存在しないと仮定して特定の変数を入れると三角形は作図できない。よってユニタリティー三角形はクォーク場の位相因子に関わっているといえる。
直接の観測結果では三角形の各辺は開いているため、日本の高エネルギー加速器研究機構とカリフォルニアのスタンフォード線形加速器センターにおいて、標準理論を検証する一連の実験として三角形が閉じているかどうか実験が続けられている。
[編集] 関連項目
2006/12/16 13:52 UTC 英語版より翻訳。著者 Mennato、Jim62sch、Bambaiah ほか。