HondaJet
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Honda Jet
- 用途:ビジネスジェット
- 製造者:本田技研工業
- 運用者:(販売予定)
- 初飛行:2003年12月
HondaJet(ホンダジェット)は本田技研工業(以下ホンダ)が開発したビジネスジェット実験機。エンジンも自社で開発したものを使用しているが、これは世界的にも珍しい。
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[編集] 開発経緯
ホンダの創業者である本田宗一郎は、二輪車のエンブレムにウイングマークを採用するほど空への憧れが強かったことから、ホンダの航空事業への参入は当然の成り行きといえる。
ホンダは1962年(昭和37)に本田宗一郎が航空機事業への参入を宣言し、1986年(昭和61)から和光基礎技術研究センターが開設されてからは本格的に航空機研究を開始する。1989年(平成元)にはアメリカ合衆国ミシシッピ州立大学ラスペット飛行研究所と提携、技術を固めてきた。初めて開発された小型実験機MH02は、1993年(平成5)に他社製エンジンを搭載しての飛行に成功している。
ホンダはその後エンジンを含めすべて自社製のビジネスジェット機 HondaJet を開発した。HondaJet(国籍・登録記号: N420HA)は2003年(平成15)12月にアメリカ合衆国ノースカロライナ州のピードモント・トライアド国際空港にて初飛行を行い、同月16日に一般発表された。初飛行の正確な日時は発表されていない。
[編集] 機体概要
HondaJet の外見上の最大の特徴は主翼上にエンジンを取り付けたその奇抜なスタイルである。ビジネスジェット機のエンジンは胴体後部に取り付けらるのが一般的だが、HondaJetではそれを翼上面に装備した。この構造は一見違和感を感じるが、これにより従来胴体内に必要だったエンジン支持構造が必要なくなったため胴体内のスペースが30%以上も拡大し、かつ乗り心地の改善が可能となった。
またHondaJetは燃費にも気を配っている。前述の翼上面にエンジンを取り付ける構造は高速飛行時の造波抗力低減にも効果があるという。主翼全体は滑らかな加工が可能となるアルミニウム合金の削りだし加工で製造され、翼形状も独自開発した空気抵抗が軽減される翼型とするなど、形状による空気抵抗の低減を行なっている。加えて低燃費のターボファンエンジンを搭載することによって従来機に比べ燃費が約40%向上した。
[編集] 特徴詳細
- 主翼
- 平面形は浅い後退角のついたテーパ翼で、後縁にはフラップとエルロン、翼端にはウィングレットを備える。構造はアルミニウム合金製で、3本のスパー(桁)と片翼あたり8-10枚程度のリブとスキン(外皮)からなる。胴体近くには上面にエンジン用のマウント、下面にメインギア(主脚)の設置個所がある。フラップは付け根付近からスパン(翼幅)の6割ほど伸び、主翼とは3カ所で繋がれている。フラップより先にはエルロンがつく。左右の主翼は中央翼と結合され、中央翼の上に胴体が載る格好になっていると思われる[1]。さらにこれらがフェアリングで覆われる。両翼端付近の前縁には航法灯とストロボ・ライトを備える。翼型には実験用に改修したT-33を用いて試験し、特許を取得したSMH-1という自然層流翼型を採用し、抗力軽減に寄与している。
- 尾翼
- 垂直尾翼の頂上付近に水平尾翼が付くT型配置で、それぞれ浅い後退角がついている。垂直尾翼は固定の安定板とラダーからなり、ラダー後部にはタブがある。安定板と胴体間はドーサルフィンによりつながっている。安定板の上には赤色の衝突防止灯(アンチ(タイ)コリジョン・ライト)がある。水平尾翼は左右分割式で、固定の安定板とエレベータからなり、エレベータ後部にはトリムタブがある(左右とも)。エレベータ端は前方にせり出したホーン・バランスになっている。
- 胴体
- 胴体は全面的に複合材料で製作され、ハニカムサンドイッチも用いられている。中央翼を介して主翼と結合される。前方に突き出た機首、切り上がった尾部など基本的には他のVLJ(Very Light Jets, 小型ビジネスジェット)と似ているが、他機のようにエンジンを胴体後部でなく主翼上にマウントするため、取りつけ部付近の補強が不要で、その分空間を広く使える点を売りにしている。
- 機首
- 少なくとも一部は層流を維持し、抗力減少に寄与しているという(風洞試験結果[2])。初期の飛行時には機首先端から長大なブーム(棒)が伸びており、先端には試験飛行用のピトー管があると思われる。先端付近には機体側を向いたビデオカメラも取りつけ可能だったようである。2005年6月22日のプレスリリース[3]時点で、このブームはすでに外されている。機首側下面には通常使用されると思われるピトーが見える。機首にはアクセスパネルも存在する[4]。
- 窓とドア
- コクピットのウィンドシールド(風防)は正面2枚、側面1枚ずつの型4枚からなる。客室の窓は角を丸くした(アールの付いた)縦長の長方形で、左右各3枚ずつの計6枚。ドアはコクピット後方左側面に1枚だけある。
- ランディングギア(降着装置)
- ノーズギア(前脚)1つとメインギア(主脚)2つの前輪式で、ホイール(車輪)は全て1つずつ。ノーズホイールは両側からフォークで挟まれるタイプ。メインギアはF/A-18などと似たトレーリング・アーム式で、地上とのクリアランス(すき間)はかなり小さめ。ギアアップ時には内側に向けて畳まれ、胴体下部に収納される。各脚のドア付近にはランディングライトが装備されており、ギアダウン時に点灯することができる。
[編集] エンジン
- エンジン
- ホンダが独自開発した小型のターボファンエンジン、HF118を搭載する。騒音基準と排気ガスに関する環境基準については、ICAOのチャプター4をクリアする。TBO(Time Between Overhaul, オーバーホール間隔)は5,000時間と長めに設定されている。水吸い込み試験などの様子を記録した動画を見ることができる(#外部リンク参照)。
- 配置
- 胴体寄りの主翼上面に、パイロン(マウント)を介して数十㎝のクリアランスをとって配置されている。パイロンには後退角が付けられ、後部は内側(胴体側)に曲げられた独特の形状となっている。
- エンジン仕様
-
- 構成: ファンと低圧タービン、圧縮機と高圧タービンがそれぞれシャフトによって結合される2スプールで、段の構成は、ファン1段・圧縮機2段・高圧と低圧のタービンが各1段ずつとなっている。公式発表による性能と諸元は次の通り:
- 離陸推力: 757 kgf
- 離陸推力時の燃料消費率 (TSFC): 0.49 kg/hr/kgf
- 巡航推力: 191 kgf
- 巡航推力時の燃料消費率 (TSFC): 0.75 kg/hr/kgf
- 乾燥重量: 178 kg
- バイパス比 (BPR): 2.9
- ファン直径: 441 mm
- 全長: 1,384 mm
[編集] アビオニクス
- アンテナ
- 胴体上部に前から2つの小型アンテナ、2つのブレードアンテナがある。前方のブレードアンテナの前縁は黒くなっており、防氷装置が組み込まれている可能性がある。
[編集] 航空産業への参入
[編集] エンジンへの参画
ホンダは2003年(平成15)3月に小型機用エンジンメーカー、テレダイン・コンチネンタル・モーターズ(TCM)と提携し、2・3人乗り軽飛行機用エンジンの販売に向けた市場調査を共同で進めてきた。このエンジンは水冷式水平対向4気筒のピストンエンジンで、ホンダが自社開発してきたものである。
また、2004年(平成16)2月にはジェットエンジンの大手メーカーであるゼネラル・エレクトリック(GE)社とビジネスジェット機用エンジン事業化の提携を発表し、10月には半々の出資比率でジョイントベンチャーのGE Honda Aero Enginesを設立した(正確にはホンダの100%子会社であるHonda Aero, Inc.とGE Transportation Aircraft Enginesによる)。この合弁会社が複数の機体メーカーにHF118エンジンの商談をしている。
2004年7月に、研究開発子会社である株式会社本田技術研究所が、航空機用エンジンの研究・開発拠点として新たに和光西研究所を設立した。これにより航空機用ガスタービンエンジン(=ジェットエンジン)の研究部門が和光基礎技術研究センターから、航空機用レシプロエンジンの研究部門が朝霞研究所から、それぞれ分離された。
[編集] HondaJetの販売
2005年(平成17)7月28日、ウィスコンシン州オシュコシュで毎年開かれているEAA(Experimental Aircraft Association, 実験機協会)による大規模な航空イベント『EAA AirVenture Oshkosh』に参加し、初めて一般に公開された。
2006年(平成18)7月25日、ホンダは小型航空機の生産・販売事業に参入し、ホンダジェットを同年秋から受注を開始すると発表した。8月には米国に航空機専門の現地法人「Honda Aircraft」を設立、今後3、4年で米国連邦航空局(FAA)から量産機として認定を受け、2010年中に1号機の引き渡しを完了する計画である。鉄道網が発達し、ビジネス機の市場が小さい日本では販売せず、当面は米国のみの受注で、時機を見て欧州、中国への市場参入を試みるとしている。
同年10月17日(米国東部夏時間)、ホンダの全額出資子会社であるホンダエアクラフトカンパニー(Honda Aircraft Company, Inc.)は、世界最大のビジネス航空機ショーであるNBAA(National Business Aviation Association)においてホンダジェットの受注を開始した。受注開始初日に年間生産予定機数(70機/年)を上回る100機以上の受注を集め、ホンダでは早くも増産についての検討を行うとしている。
[編集] 仕様
- 要目
- 乗員: パイロット1又は2名
- 乗客: 5又は4名
- 座席数: 6席
- 全長: 12.5 m
- 全幅: 12.2 m
- 全高: 4.1 m
- 最大離陸重量: 4,173 kg
- 動力
- エンジン: 本田技研工業製 HF118 × 2
- 最大離陸推力: 7,424 N (757 kgf) × 2
- 巡航推力: 1,873 N (191 kgf) × 2
- 性能
- 最大速度: 778 km/h
- 航続距離: 2,037 km
- 燃料消費率: 3.3 km/kg
- 最大運用高度: 12,497 m
- 離陸距離: 807 m
- 着陸距離: 694 m
[編集] 関連項目
[編集] 注
- ^ "内部構造"
- ^ "風洞試験結果"
- ^ "2005年6月22日のプレスリリース"
- ^ "アクセスパネル"
- ^ "Garmin G1000"
[編集] 外部リンク
- 本田技研工業公式サイト内、HondaJet紹介ページ(日本語)
- Honda Worldwideサイト内、航空用エンジンのページ(英語) - 日本語ページよりも情報が豊富。プレスリリースに加えて動画や写真がある
- 航空の現代内、HondaJet関連情報ページ - [1] [2]