あらしのよるに
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『あらしのよるに』は、木村裕一(きむらゆういち)の著作による絵本の題名または同作を端緒とするシリーズの名称。絵はあべ弘士。
1995年、第42回産経児童出版文化賞JR賞および第26回講談社出版文化賞絵本賞受賞。
当初は第1作のみで完結する予定であったが、その好評を受けてシリーズ化され、第6作「ふぶきのあした」までが制作され、一度は完結した。しかし、その後も人気はとどまることを知らず、特別編「しろいやみのはてで」が制作され、さらに映画化を受けて、第6作の続編にして再びの完結編「まんげつのよるに」が制作され、ようやくシリーズの完結をみた。
2005年、杉井ギサブロー監督の手によりアニメ映画化された。構成は絵本の7エピソードから成り立つ。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
目次 |
[編集] あらすじ
ある嵐の夜、1匹のヤギ(メイ)が、山小屋に避難してきた。同様に1匹のオオカミ(ガブ)も同じ山小屋に避難してきた。真っ暗な闇の中、かぜ気味で鼻の利かない2匹は、互いの正体を知らない(勘違いした)まま夜通し語り合い、意気投合する。そして「あらしのよるに」を合い言葉に、翌日再び会う約束をする。
翌日、2匹は互いの意外な正体を知ることになるが、喰う者(オオカミ)と喰われる者(ヤギ)の関係を超えて、2匹は「ひみつのともだち」となる。しかしそれは、互いの種族にとって、決して許すことのできない禁断の友情であった。ある時、ガブと逢う約束をしたメイに、友だちのヤギ・タプが心配だからと一緒についてくる。ガブにとってはメイは友だちだが、メイの友だちは美味しそうなエサである。結局、メイの友だちを脅かして逃がし、その場は事なきを得る。
しかしやがて、2匹の関係は、ヤギとオオカミのお互いの集団にバレてしまう。喧々囂々の末、互いの集団では自らの利益のためにメイとガブの友情を利用して、相手方の情報を手に入れてくるように2匹に命令する。メイとガブは、それぞれの集団内での立場よりも、お互いの友情を大切にして2匹で逃げることを決意する。
雪山を駆けていく2匹。ガブがメイを気遣って夜中だけ狩をしていたことで、1度険悪になった2匹だったが、和解してさらに強い絆で結ばれる。だが、追跡隊のオオカミの群れは少しずつ、確実に2匹を追い詰めていた。焦りと寒さに体力を削られ、もう歩けないと感じたメイは「自分を食べろ」とガブに頼む。泣く泣くその頼みを聞こうとしたガブだったが、そのとき既にオオカミの群れは間近に迫っていた。ガブは自らを囮にし、メイを助けようとしたが、雪崩が起きて群れもろとも巻き込まれてしまった……
春。メイは山を無事に越え、草原で暮らしていたが、居なくなったガブを思うと寂しくてたまらない。ある日、ガブが近づいてくるのを見て、喜んで近づいていくメイ。しかしガブは雪崩のショックで記憶を失い、今やメイもただのエサに過ぎなかった。ガブの豹変ぶりを嘆き悲しんだメイは「いっそあのあらしのよるに出会わなければ」と叫ぶ。その言葉がきっかけでガブの記憶は戻り、2匹は再び友情で結ばれたのであった。
[編集] 作品
[編集] 原作(絵本)
講談社から発行。2006年3月現在、全7作、販売部数累計300万部超。
- あらしのよるに(1994年) ISBN 4-06-252852-5 <大型版>ISBN 4-06-210293-5
- あるはれたひに(1996年) ISBN 4-06-252870-3 <大型版>ISBN 4-06-210632-9
- くものきれまに(1997年) ISBN 4-06-252874-6 <大型版>ISBN 4-06-211501-8
- きりのなかで(1999年) ISBN 4-06-252875-4 <大型版>ISBN 4-06-211502-6
- どしゃぶりのひに(2000年) ISBN 4-06-252876-2 <大型版>ISBN 4-06-211695-2
- ふぶきのあした(2002年) ISBN 4-06-252877-0 <大型版>ISBN 4-06-211696-0
- まんげつのよるに(2005年) ISBN 4-06-252878-9<大型版>ISBN 4-06-278504-8
- 特別編 しろいやみのはてで(2004年) ISBN 4-06-212647-8(大型版のみ)
- 文庫版 あらしのよるにI(2005年) ISBN 4-06-275266-2(第1部から第3部までを再編集)
- 文庫版 あらしのよるにII(2007年) ISBN 978-4-06-275670-9(第4部と第5部を再編集)
[編集] 派生作品
- あらしのよるに 恋愛論(2005年)ISBN 4-06-213193-5
- 漫画版 あらしのよるに(2005年)ISBN 4-06-349232-X(画:空十雲) 単行本書き下ろし、第1話のみ「月刊マガジンZ」2006年1月号にて先行公開。
- 小説 あらしのよるに(2006年)ISBN 4-09-387619-3(刊:小学館)
- オオカミのあっかんべー(2004年)ISBN 4-7897-2219-8(刊:ソニー・マガジンズ) - エッセイ
[編集] 主なキャラクター
- ガブ
- バクバク谷に住むオオカミ。
- 小さい頃は少食で母親に心配されるほど痩せっぽちだった。今では特別大食らいのオオカミへと成長したが、雷が怖いという弱点を持つ。メイとの友情を大切にすることを信条としているが、ヤギの肉が大好物のため、友達になったメイを「おいしそう」と思ってしまい葛藤することもしばしば。オオカミらしかぬ優しさを持ち合わせているため、他のオオカミ達にバカにされたりと、群れに対して多少のコンプレックスを抱いている。メイとの関係がバレてしまい、処刑を免れる代わりにスパイになれという命令を承諾するが、メイをどうしても裏切る事が出来ず、メイとの友情を貫くため、群から「裏切り者」として命を狙われることを覚悟の上でメイと共に旅立つ。
- メイ
- サワサワ山に住むヤギ。
- 天真爛漫でそそっかしく、時に頑固だが、オオカミであるガブを「友達」として信じる度量の大きさを持ち合わせている。ガブ同様雷が怖いという弱点を持つ。お母さんがオオカミ(ギロ)に殺された事を覚えておらず、映画・小説ではおばあちゃん、原作では仲間のヤギによって知らされる。その後長老の提案のスパイ役を承諾するが、どうしてもガブを裏切ることが出来ず、ガブとの友情を貫くため仲間たちを捨てて旅立った。旅の最中、自分に気を使って寝ている間に狩に行くガブをどうしても許せず、戻ってきたガブに嫌味を言ってしまう事もあった。だが後に反省してガブに謝り、これまで以上に深い友情で結ばれた。
- なお、性別の解釈はメディアによって異なっている。原作や漫画では性別を特定させる表現は見受けられないが、映画のパンフレットでは杉井ギサブローが「男の子」とコメントしており、逆に小説版では「女の子」と思わせる言葉遣いが目立つ。
- ギロ
- バクバク谷に住むオオカミ達のボス。
- 幼かった頃のメイを襲おうとしたが、メイの母親に邪魔をされた挙げ句、左耳を食いちぎられた(左目の傷もその時付いたものと思われる)。その後すぐにメイの母親を殺したものの、それ以来ヤギを憎むようになり、ヤギに対してはとても残酷な食べ方をする(小説では生きたまま少しずつかじるらしい)。同時に掟に厳しく、裏切り者は決して許さない。
- ガブがヤギ狩りの際勝手に配置から外れいなくなり、しかもそれは仲良くなったヤギを逃がすためだと知るや、本来掟では処刑するはずだが、ガブの父親とは親友だったこともあり、メイにヤギの情報を聞き出すスパイ役というチャンスをガブに与えた。ガブがそのチャンスを捨て、メイと共に逃げ出したため、一切の情を捨て去りガブとメイを処刑するべく何頭かの仲間と追跡を始める。アイシャドウをして気取った奥さんがいる。(奥さんは原作未登場)
- バリー
- ギロの次に偉いと思われる赤い毛が特徴のオオカミ。
- ギロには媚びてばかりおり、ギロに対しては非常に腰が低い。
- ヤギ狩りの際メイを捕らえようとしたが、落石にうろたえてる内にガブによって逃がされてしまう。その後いなくなったガブを見つける時にガブとメイの関係を知り、ギロの前にガブが呼び出された際ガブを罵倒し、説教する。
- スパイになる役目をガブが放り出し、仲間よりメイを取って逃げたのをギロ同様許せず、ガブを処刑するべく得意の追跡(ビッチ&ザクの話では追跡のプロらしい)でガブとメイを追いつめる。
- ビッチ&ザク
- いつも二匹で行動するオオカミのコンビ。
- バカっぽくて小柄な方がビッチ、眼帯をして大柄なのがザクである。
- ヤギ狩りの打ち合わせの際、ギロに名指しで配置を命令されるなど、意外に信用できる高い地位にいるかと思われる。ガブの幼馴染ではあるが、幼少の頃崖を飛び越せないガブを馬鹿にしたり、隠れているガブとメイを見つけて大声で仲間に知らせるなど、あまり仲は良くないようだ。
- 映画の雪山のシーンでは、ザクしか確認できなかったが、コンビなのでおそらくビッチも居たであろう。(原作未登場)
- タプ
- メイの仲間で太り気味のヤギ。
- メイに対しては兄のように振る舞い、何でも知っているしゃべり方をする。
- 一人で出かけるようになったメイを心配し、無理矢理ガブとメイの待ち合わせ場所にミイと共に付いていく。そこでガブが隠れているとも知らずにミイとメイの前でオオカミの悪口を言いまくり、実際にオオカミが出てきた時に食らわせる後ろ蹴りを後ろの茂みに実演した際、隠れていたガブの頭に直撃させてしまう。その際飛び出したガブを見て矢のように逃げ出すというヘタレっぷりを披露してしまったが、後々メイを心配してミイと共に様子を見に来る。
- オオカミのヤギ狩りから逃げてきたおばさんヤギの話からガブとメイの関係を知り、長老の前で呼び出されたメイに目を覚ますよう説教する。
- ヘタレだが、メイ思いの憎めない奴である。
- ミイ
- メイの仲間でピンク色の角のないヤギ。
- いつもメイの事を気にかけ、メイのことが大好きである(恋愛か友情かは不明)。一人で出かけるようになったメイを怪しみ、タプと共にガブとメイの待ち合わせ場所に付いていく。飛び出したガブにタプ同様驚き逃げるが、後々メイを心配しタプと共に様子を見に来る。
- メイとガブの関係を知り、「嘘だって言って!」とメイに詰め寄る。
- メイにとっては妹のような存在。(原作未登場)
- 長老
- サワサワ山のヤギの長。
- 喘息持ちで、杖をついている。ヤギの長ということもあり、常にヤギ達を安全な方向に導くため心を砕いている。メイとガブの関係を知り、元通りの仲間でいるため、ガブからオオカミの情報を聞き出すスパイ役をメイに与える。多くのヤギに運ばれている場合が多い。
- メイの母
- メイが幼い頃、オオカミの群からメイを守って戦った。その際、ギロの片耳を食いちぎったものの、結局は殺されて食べられてしまった。
- なお、ギロに殺された時期は原作と他のメディアで若干違うようで、原作ではメイが「母親に言われたこと」と説明した言葉を他のメディアでは「おばあちゃんに言われたこと」と説明している。(原作未登場)
- メイのおばあちゃん
- 娘(メイの母)がオオカミに殺された後、娘に代わってメイを育てた。メイがオオカミと友達になったことに大きなショックを受けてしまう。(原作未登場)
[編集] 舞台
1997年、演劇集団 円が子どもにも大人にも楽しめる舞台として毎年行っている「円・こどもステージ」の作品として上演。出演は、南美江、金田明夫、西凛太朗、高橋理恵子、ほか。
2002年には再び円により、初演でメイを演じた金田による朗読劇が上演された。
[編集] てれび絵本
NHK教育「てれび絵本」で、「あらしのよるに」シリーズ6作が番組化されている。中村獅童が一人3役を演じる。2005年11月にDVD化されている。
[編集] 映画版
映画版は、2005年12月10日に公開された。2006年1月の初めには観客動員数120万人を突破し、漫画が原作ではないアニメ映画では異例の大ヒットを記録している。また、海外でも上映されることが決定し、まず台湾で2006年1月20日から55館で上映を開始する。ほかにもイギリス、韓国など世界26ヶ国での上映が予定されている。
DVDの発売日は2006年6月23日。スペシャル・エディションとスタンダード・エディションの2種類を発売。レンタルは2006年6月9日に開始された。
2007(第30回)日本アカデミー賞で新設された優秀アニメーション作品賞に選ばれた。
[編集] キャスト
[編集] スタッフ
- 原作・脚本:きむらゆういち
- 監督・演出脚本:杉井ギサブロー
- アニメーション監督:前田庸生
- キャラクターデザイン・作画監督:江口摩吏介
- 美術監督:阿部行夫
- 音楽:篠原敬介
[編集] ドラマCD
『サウンドシアター あらしのよるに』のタイトルで、2006年12月22日に発売された。全体の構成はきむらゆういち自らが「決定版」と位置づけている小説版を元にしているが、一部原作(絵本)を元にしているシーンもある。初回生産分には特典として主要キャストによるフリートークCDが付けられた。
[編集] キャスト
- メイ:石田彰
- ガブ:平田広明
- タプ:山口勝平
- ギロ:小杉十郎太
- バリー:中井和哉
- ナレーション:宗矢樹頼
- 山羊おばさん:すずき紀子
- 老山羊:白熊寛嗣
- 山羊A:江水愛
- 山羊B:根津貴行
- 狼A:中田潤
- 狼B:高橋圭一
[編集] スタッフ
- 原作:きむらゆういち
- 作画:ミギー
- シナリオ:最合のぼる
- ディレクター:嶋澤みどり
- 音楽:広瀬充寿
- イメージ曲:「帰らなかったケーン」
- 制作協力:JECインターナショナル、森岡和彦、美谷島涼子
- エグゼクティブプロデューサー:富岡信夫
[編集] ゲームソフト
2005年12月22日にTDKコアより発売。対応機種・ニンテンドーDS。
合間に挿入されるミニゲームをクリアすることでストーリーを進める形になっている。ミニゲームの点数によって結末が変わるマルチエンディング形式で、原作と異なる結末もきむらゆういち自らが監修することで、原作の雰囲気を損なわないよう配慮されている。
[編集] 外部リンク
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