アドバンスト・スコードリーダー
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アドバンスト・スコードリーダー(Advanced Squad Leader、ASL) とは、戦術級のボード版ウォーゲームであリ、主として第二次世界大戦の中隊~大隊規模の戦闘を再現する、精緻なゲームシステムである。原則2人でプレイするが、専用モジュールによりソリテアプレイも可能である。ASLの中核となる商品は、単独販売されているASLルールブックと、概して国籍や戦域によって分けられた12種類のモジュールである。ASLモジュールは、ASLのプレイに使う標準ツールであり、マップ(地図盤)、コマ、シナリオリーカードが入っている。マップは、射撃や移動を管理する六角形のマス目(ヘクス)で区切られ、種々の地形が描かれている。コマは、分隊、兵士、操作班、支援火器、重火器、車両を表すユニットと、ユニットや地形の状態などを表すマーカーに大別できる。大きさは1/2インチのものとより大きい5/8インチのものがあり、牽引砲と車両は5/8インチのサイズである。各シナリオは1枚の紙のシートに書かれており、ゲームの長さ(ターン数)、使用するマップとその配置、使用するカウンター、天候などの特別ルール(SSR)、勝利条件が明記されている。プレイヤーは、シナリオに記載された勝利条件を達成すべく、マップ上に置かれたユニットを移動・攻撃させて対戦する。
モジュールやシナリオは、正規のメーカー(マルチマンパブリッシング)から販売されている公式なものと、いわゆるサードパーティーや私的団体または個人が制作した非公式なものとがある。非公式なものを含めるとシナリオ数は2000を超えるといわれている。さらに、ルールブックのH章では、ポイント(BVP)を消費してユニットなどを購入してまったく独自のシナリオ(DYOシナリオ)を作成するための手引きが扱われている。ただし、これはバランスのとれた勝利条件の設定方法や地図の配置についてヒントが与えられておらず、既製のシナリオに比べると不人気なのが現状である。
標準のモジュールとは別のコンセプトの商品もリリースされており、これにはデラックスASL(DASL)やヒストリカルASL(HASL)、ソリテアASL(SASL)、ASLスターターキット(ASLSK)がある。また、オフィシャル商品ではないが、本職がプログラマーであるロドニー・キニーが開発したVASLがある。これはASLをネット対戦できるようにしたフリーウェアである。
[編集] 歴史
ASLの一連の商品の第一弾であるルールブックが発売されたのは1985年のことである。開発・発売元はアメリカのウォーゲームメーカー老舗、アバロン・ヒル社である。ASLには前身の商品であるSquad Leader(日本語版の商品名は「戦闘指揮官」)シリーズがあり、ASLはこれを改定・発展させたものといえる。
以降、ドイツ、ソ連、フィンランドの地上兵力のユニットおよび主要マーカーが収められたビヨンド・バラー(Beyond Valor)を皮切りに、様々なモジュールがリリースされてゆく。日本国内においてはアバロン・ヒル社商品の総販売元であるホビージャパンが、ASLのルール翻訳版やモジュールを日本国内の小売店に卸した。ただし、1980年代後半からボード版ウォーゲームの衰退に伴い購買人口が減少しはじめたため、コストのかさむ翻訳がなされたのは基本ルールのみにとどまっている(ホビージャパンは最終的に、ボード版ウォーゲームの輸入販売事業から手を引くことになる)。
1998年に、ビッグタイム・ソフトウェア社がASLのパソコンゲーム化を企画した。しかし、諸事情から開発計画は頓挫し、同社は代わりにコンバット・ミッションというPCウォーゲームを開発、市場的に成功を収めることになる。コンバット・ミッションはASLとは全く異なった3Dゲームであるが、第二次世界大戦における戦術レベルの地上戦を細かい部分までシミュレートしている点では共通するものがある。
1998年に、大手玩具メーカであるハズブロ社がアバロン・ヒルを買収し、ゲーム開発や販売の権利も取得した。ただしハズブロはモノポリーに象徴されるように、低年齢層でも短時間でプレイできるゲームのラインナップにしか関心を示さず、ASLは存亡の危機に立たされることになった。1999年1月、マルチマン・パブリッシング(MMP)社が、ハズブロと提携を結び、MMPがASLシリーズの生産と新規開発を引き継ぐこととなった。こうして、ASLは市場から淘汰されることは免れることになる。ASLの開発販売がMMPに引き継がれてから、新たにリリースされた商品には、ASLルールブック第2版、フォー・キング・アンド・カントリー(FOR KING AND COUNTRY)モジュールなどがある。
ちなみに、MMP社のオーナーは、メジャーリーガーのカート・シリングである。
[編集] ルール
ASLをプレイするために必要な基本ルールは、単体で発売されているルールブックに収録されている。2001年にMMPは第2版のルールブックを発売したが、これは1985年に出たルールブックのごく一部を改定したものである。基本ルールはA章からD章の4つの章から構成され、以下の内容が含まれる。
- A章:主に歩兵の移動と戦闘に関するルール。機関銃や爆薬といった歩兵火器の説明もこの章でなされている。
- B章:種々の自然地形や橋梁といった人工構造物に関するルール。
- C章:主に砲撃支援や牽引砲や特殊弾薬に関するルール。
- D章:主に車両の移動と戦闘に関するルール。
以上のルールにより欧州戦域の大半のシナリオがプレイ可能となる。またASLルールブックに追補される形で、様々な「上級」ルールがいくつかのモジュールに同梱されている。上級ルールを把握することで、夜戦や太平洋の島嶼戦闘を扱ったシナリオをプレイすることが可能となる。
- E章:夜間戦闘、天候、尋問、航空支援、空挺降下、弾幕砲火などのルールを扱う。ヤンクス(YANKS)モジュールに収録されていたが、後に第2版ルールブックに統合される。
- F章:主に北アフリカの砂漠地形に関するルール。ウェスト・オブ・アラメイン(WEST OF ALAMAIN)に収録されていたが、このモジュールは絶版となっている。
- G章:日本軍、中国軍、太平洋戦域に駐屯する米陸軍や米海兵隊、太平洋戦域の地形、上陸戦闘などに関するルールを扱う。前半はコード・オブ・ブシドー(CODE OF BUSHIDO)に、後半はガンホー(GUNG HO)に収められている。
- H章:車両や牽引砲に関する備考やデータを網羅するが、各モジュールに分散している。また、DYOシナリオに関するルールも扱うが、これはルールブックに収録されている。
第2版ルールのリリース後に、さらにごく若干の基本ルールが改定され、2006年に発売されたアーミーズ・オブ・オブリビョン(ARMIES OF OBLIVION)モジュールにその改定ページが収録されている。
第2版ルール(A~D章)は、MMPの許諾を得てごく少数の個人からなる日本人のチームが翻訳を行い、2006年4月よりインターネットを介して無償で公開している。
[編集] 標準モジュール
ASLをプレイするには、ルールブックに加えてモジュールを購入する必要がある。モジュールは全て購入する必要は必ずしもない。例えば、ビヨンド・バラーがあれば、ドイツ軍とソ連軍の戦闘を扱うシナリオをいくつかプレイすることができる。しかし、サイパン上陸戦のシナリオをプレイしたければ、(主要マーカーが収められている)ビヨンド・バラーに加え、日米のユニットやルールが収められたヤンクス、コード・オブ・ブシドー、ガンホーが必要となる。いずれのモジュールも抜き型印刷されたユニット、マップ、シナリオカード、場合によっては追補のルールやサイコロ(ダイス)が箱に収められている。箱は表にミリタリー・アートの第一人者であるデイビッド・ペントランドのイラストが印刷され、裏にはモジュールの概要が記載されている。箱そのものは、内容物を収納する以外の機能は持たないが、ダイスを転がす「ダイスサーバー」として利用するプレイヤーもいる。
プレイにあたっては、ルールとモジュールのほかに、多数のユニットを整理する仕切りの設けられた市販の収納箱に加え、メモ用紙と裁縫糸が必要である。メモ用紙は主として最初からマップには配置されないユニット(初期隠匿配置ユニット)を記録するために使用する。糸はマップ上の敵味方のユニットの視認線が通るかどうかを判定するために使用する。裁縫糸の代わりにデンタルフロスなどを使用してもよいが、極力細いものとする。また、ダイスがテーブルの下に転がっていくのを防止するダイスサーバーを使用することが望ましい。これは専用のものでなくとも、底の浅い茶碗などといった容器で十分代用できる。