アレッサンドロ・モレスキ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アレッサンドロ・モレスキ(Alessandro Moreschi;1858年11月11日‐1922年4月21日)は、記録に残る上での、歴史上最後のカストラート(去勢歌手)。
ローマ、バチカンにある、システィーナ礼拝堂の聖歌隊に所属し、1913年までそこで歌い続けていた。19世紀中に、時のローマ教皇よりカストラートの禁止令が発布されたために、モレスキが最後となったもの。同時期に活躍したカストラートとしては、ドメニコ・ムスタファ(Domenico Mustafa)などがいたが、詳細な記録がないために不明。
1902年に、当時のレコード会社グラモフォンのスタッフが、時のローマ教皇レオ13世の肉声を録音するため、バチカンを訪れたが、レオ13世は高齢を理由に録音を断った。その際に、モレスキの歌声を録音した。その後、1904年までの間に、数回に渡って録音され、その時の記録がレコードが現存している。SP盤として当時発売したとの記録もあるが、近年、その中で可能なものをCD化し、The Last Castratoとして発売された。
The Last Castratoは、記録としては貴重だが、録音当時のテクノロジー面で、雑音やトーンなどに問題があり、音質は非常に悪い。また、カストラートとしてのモレスキの力量にも疑問が持たれている。19世紀に流行った最後を上げるような歌い方が特色であったが、録音当時すでに40歳代半ばであったため歌手としてのピークが過ぎていたという見解もあり、またそれらの複合的な理由といった説もある。もっともピークの頃の歌声を直接聞いた者は生存しておらず、またその頃の詳細な録音もないため、いずれも憶測の範囲を出ない。しかしながら、音域の面からは最高音が20歳代半ばのE"'から、引退時の50歳代半ばにはG"へと、確実に衰えており、その晩期に近い時の録音であるという点では、声質も含めて、最盛期にははるかに及ばないと見られている。