イスクイル
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イスクイル(Ithkuil, Iţkuîl)は、1978年から2004年にかけて、アメリカ合衆国の言語学者ジョン・クイジャダ(John Quijada)によって作られた非常に複雑な人工言語である。
イスクイルに関する著者の説明によると、「仮説的言語のための哲学的設計」であり、アプリオリな哲学的言語と論理的言語の中間にみえる。作者は、どのように人間の言語が機能できるか、機能するかもしれないかを示そうとする。イスクイルは、自然的に進化した言語よりも少なく短い語を使って膨大な言語学的情報を伝達するよう設計された。他の言語の大半の文は、イスクイルに翻訳されたときより短くなるだろう。この言語は、特に人間の分類に関して、自然言語に見られるよりも人間認識の深い水準をより明らかに表現するようにも設計された。それは、自然の人間言語に見られる多義性と意味論的曖昧性を最小化するようにも努める。
Iţkuîlという語自身は、ときどき「互いの用途を補う異なるか異目的とした語義の収集」のように文字通り翻訳できる(話・声・解釈を意味する)語幹"k-l"に由来する形成素である。
目次 |
[編集] 言語概要
- 語彙: 語彙は、それぞれ2つの子音語幹からなる、潜在的に3,600の語幹(これまでその内の約1,000のみ履行される)からなる。あらゆる語幹は、膨大な派生語を作ることを可能にする非常に複雑な文法規則により変化しうる(例: 母音変化)。
- 音韻論: イスクイルは、チェチェン語やアブハズ語のような様々な言語からの音声に基づく複雑な音韻論(65子音と17母音)を用いる。典型的な西洋のインド・ヨーロッパ言語の話者にとって、その音声のいくつかを発音することは非常に難しいかもしれない。
- 形態音韻論: イスクイルは、第一に総合的言語であり、第二に膠着語である。イスクイルの形態音韻論は、子音交替と母音交替の両方、音節におけるアクセントや声調の変化、接頭辞、接尾辞、接中辞、接間辞を含む多くの異なる種類の接辞を利用する。
[編集] 音韻論
イスクイルの子音は以下の通りである:
唇音 | 歯音 | 歯茎音 | そり舌音 | 後部歯茎音 | 硬口蓋音 | 軟口蓋音 | 口蓋垂音 | 咽頭音 | 声門音 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
破裂音 | [p b pʰ p'] | [t d tʰ t'] | [c ɟ cʰ c'] | [k g kʰ k'] | [q ɢ qʰ q'] | [ʔ] | ||||
破擦音 | [ʦ ʣ ʦʰ ʦ'] | [tʂ dʐ tʂʰ tʂ'] | [ʧ ʤ ʧʰ ʧ'] | [cç'] | [kx'] | [qχ'] | ||||
摩擦音 | [f v] | [θ ð] | [s z] | [ʂ ʐ] | [ʃ ʒ] | [ç ʝ] | [x ɣ] | [χ] | [ħ] | [h] |
鼻音 | [m] | [n] | [ŋ] | |||||||
はじき音 | [ɾ] | |||||||||
側面音 | [l ɫ ɬ tɬʰ] | [ɭ] | ||||||||
接近音 | [w] | [j] | [ʁ̞] |
[/m n ŋ l ɫ ɭ/]は音節となりうる。[/h/]は、母音に先立つときと他の子音に続いたとき、[[ɸ]]と発音する。[/tɬʰ/]は、[[tɬ']]の自由変異である。この文字は語のはじめにおいてより一般的である。[/j w/]を除く全ての子音は、二重子音になりうる。二十四引火したとき、[/h/]は、両歯音的摩擦音のように発音され、[/ɾ/]は歯茎ふるえ音として発音される。
イスクイルの母音は以下の通りである。:
前舌母音 | 中舌母音 | 後舌母音 | |
---|---|---|---|
狭母音 | [i y] | [ʉ] | [ɯ u] |
準狭母音 | [ɪ] | [ʊ] | |
半狭母音 | [e ø] | [ɤ o] | |
半広母音 | [ɛ œ] | [ɔ] | |
広母音 | [æ] | [a] | [ɑ] |
イスクイルの二重母音は[/ai æi ei ɤi øi oi ʊi au æu eu ɤu ɪu ou øu aɯ eɯ ɤɯ ʊɯ oɯ ɪɯ æɯ øɯ ʉɯ ae/]である。母音の他の全ての順序は、別々の音節として発音される。
[編集] 例
Pronunciation: [/oum.pε.a æ.x’æ.æ.ɬʊk.tɤx/] |
Romanization: Oumpeá äx’ääļuktëx. |
Translation: On the contrary, I think it may turn out that this rugged mountain range trails off at some point. |
[編集] ありうる利点
サピア=ウォーフの仮説は、人間が話す言語は、その者の考え方に影響を与えるかもしれないと述べる。スタニスラフ・コズロフスキーは、流暢なイスクイルの話者は、それによると典型的自然言語話者の五倍早く考えることができると推測する[1]。ある者は、イスクイルは非常に正確な総合的言語であり、その話者はより明らかかつ深く世界を理解することもできるだろうと議論するかもしれない。
誰もイスクイルを話すことができると知られるものはいない。その作者も話せる者ではない。「私はイスクイルを話さず、決して話したことがなく、決して話さないだろうし、決して主張しない。」とジョン・クイジャダが言った。[要出典].
[編集] 未来のイスクイルの改訂
ロシアの雑誌Computerra[2]でイスクイルについての記事が出版された後、幾人かのロシア人話者がクインジャダに連絡してその言語を学ぶことに興味を表明した。クインジャダは、(学びたいと主張する幾人に要求されたため、)この言語をより簡単に発音するために82から48に音素数を削減したその言語の形態音韻論の完全改訂を仕上げた。それは2007年ごろ修正された代替物を公表することになっている。イスクイルの改訂は仮にIlákshと呼ばれ、この改訂についての情報はここで見つけられる。新しい文字は考案される。
[編集] 参考文献
- ^ «Скорость мысли», Станислав Козловский — (Russian) Speed of thought by Stanislav Kozlovsky, Computerra, №26-27, June 20, 2004
[編集] 外部リンク
カテゴリ: 出典を必要とする記事 | 人工言語