カイネウス
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カイネウスは、ギリシア神話に登場する人物。ラピテス族の出身で、エラトス、あるいはコロノスの子。もともとはカイニスという名前の女性だったが、性転換によって男性になったとされる。
伝説によれば、カイネウスは女性だった頃に海神ポセイドンに強姦されたという。ポセイドンが償いとして願いを何でもかなえると言ったところ、カイニスはこんなことが2度とないように男に変えてほしいと願った。そこでポセイドンはカイニスを不死身の身体をもつ男に変えたとされる。 別の伝説によると、ポセイドンは強姦ではなく、カイニスから合意を得ることができたとされる。ポセイドンはカイニスへの礼として、彼女の男になりたいという願いを叶えたという。
男になったカイニスは神々に対して冒涜的になった。カイニスはカイネウス(カイニスの男性形)と名前を変え、僭主となり、神々ではなく自分の槍を崇拝した。のみならず、その槍を人民にも礼拝させた。またカイネウスはカリュドンの猪狩りやアルゴー船の冒険に参加した。
後にラピテス族の王ペイリトオスがヒッポダメイアを娶り、その結婚式を挙げたとき、カイネウスはテセウスやケンタウロス族らとともに式に招待された。ところがケンタウロス族は酒で酔っ払い、欲情して花嫁やその他の女性たちを奪おうとしたため、会場は大混乱となった。カイネウスはペイリトオスやテセウスらとともにケンタウロス族と戦った。しかしカイネウスの涜神ぶりを苦々しく思っていたゼウスはケンタウロスたちをそそのかし、カイネウスを特に攻撃するように仕向けた。ケンタウロスたちはカイネウスに罵声を浴びせ、女が男のふりをしている、武器など持たず糸巻棒でも握っていろ、などと侮辱した。そしてカイネウスを取り囲み、樅の大木でもってカイネウスの頭を何度も打ちつけ、地面に埋め込んで窒息死させた。あるいはカイネウスの上に大木を幾重にも積み上げて殺した。その場にいた預言者モプソスの証言によると、大木の山の中から金色の鳥が飛び出して天に昇ったとされ、モプソスはそれをカイネウスの魂だと信じたとされる。混乱が収まったあと、カイネウスを埋葬しようとすると、カイネウスの身体は女に戻っていたとも言われる。
なお、ヒュギーヌスによるとカイネウスは自殺したという。