トラックボール
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トラックボール(Trackball)は、マウスなどと同様にコンピュータの操作に用いるポインティングデバイスの一種。上面についている球体(ボール)を手で回転させて、読み取らせた回転方向や速さに応じてカーソル(ポインタ)などを操作する。マウスの操作には机上の広い面積が必要なのに対して、トラックボールはその場に置いたままで操作できるのが大きな特徴である。 メーカーや商品によってはトラックボールという名称を使用せず、マウスの名を商品名に冠している物もある[1]。
トラックボールの歴史[2]における最も古い記録は、1966年には既に米ニューヨークのOrbit Internationalが、米空軍にトラックボールを出荷していたという記録がある[3]。
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[編集] 特徴
トラックボールの操作は、マウスのように装置そのものを持って動かすのではなく、指先や手のひらを使ってボールだけをその場で回転させることで行う。そのため、腕全体を動かす必要がなく、長時間作業をする際にマウスなどと比較して肩や肘への負担が少ない。また、操作のための広い面積が必要ないので机上の狭いスペースでも使えるほか、ノートパソコンに埋め込むような形でも利用された。片手で持ったまま使える小型のものもあり、プレゼンテーションなどの場面で利用されている。ボールの操作は、指をボールにつけたまま回すほか、ボールの慣性を利用して勢いよく回転させるような使い方もできる。大きなボールを備えたものは操作の正確性に優れCADなどのオペレーションにも利用されている。
トラックボールと関わり合いのあるビデオゲームは古くからあり、『ミサイルコマンド』や『マーブルマッドネス』といったトラックボールを操作系に採用したアーケードゲームも少なからず存在する。また過去にはアタリからコンシューマーゲーム機用(ミサイルコマンドの移植版等用)のトラックボールが発売されていた。
上記以外の用途としては、占有面積が少ないこと、手袋をしていても操作できることから、画像診断装置(超音波診断装置など)のような医療用途の他、工業用や軍事用等にも多く用いられる。
[編集] 現状
過去にはマウスと並んでポインティングデバイスの代表格であったが、一般へのパソコン普及が加速し始めた頃には、既に主流はマウスに移っていた。ノートパソコンにトラックボールを採用する事例は少なくなかったが、ノートパソコンの薄型化が進行するにつれて、ボールの直径が筐体の薄型化の阻害要因になること、ボールの直径を小さくした場合に良好な操作性を確保することが難しく、ノートパソコンのポインティングデバイスはタッチパッドやポインティング・スティックが主流となり、ノートパソコンにトラックボールを搭載する製品はほとんど見られなくなった。
現在ではマウスが標準となり、ノートパソコンからもトラックボールが消えてしまったため、目にする機会は少なくなった。しかしながら、現在でもトラックボールを好むユーザーは存在しており、有名企業を含むいくつかのメーカーから新製品がリリースされている。また、プレゼンテーション用の製品など、手で持ち上げて使う為のポインティングデバイスにおいては、現在でも小型のトラックボールを採用している製品が少なくない。
デスクトップ向け市場においてトラックボールを生産している主なメーカーはケンジントン・テクノロジー・グループ・サンワサプライ・ロジクールの3社である。かつてはマイクロソフトもトラックボール製品を製造していたが、2006年に生産終了となった模様である。しかし、少数派と言えどもトラックボールは未だ根強い人気を保持しており、シャープのデジタルテレビパソコン「インターネットAQUOS」などのキーボードにも標準で搭載されている[4]。
特殊なトラックボールとして「左手用トラックボール」という物もある。これはマウスやペンタブレットと組み合わせて、画面のスクロールや表示の拡大縮小などを指示し、ボタンに各種の機能を割り当てることによって、アプリケーションソフトをより素早く操作できるようにしたものである。これは「ポインティングデバイス」としての使い方ではないが、デバイスの構造は同様である。
[編集] 操作性
トラックボールの操作感はマウスの操作感と大きく異なる。 マウスに慣れたユーザーからは「トラックボールは使いづらい」という声が上がる一方、マウスからトラックボールに乗り換えて「もうマウスには戻れない」というユーザーも少なくない。トラックボールには後述のようにいくつかの種類があり、種類ごとにかなり異なる操作性を持っている。
マウスが光学式になったのと同様に、トラックボールにも光学式のものが多くなっている。マウスではボールそのものが無くなったが、トラックボールの場合はボールの回転を光の反射で読み取るため、同じ形状ならば操作感に大きな違いはない。 メンテナンス性に関しては多少の差異がある。例えば、光学式では採光部分(CCDが球体の回転を読み取る窓)や球体支持部などへの定期的な掃除が軽減はされる。
[編集] 形状の種類
[編集] 手のひら操作タイプ
台座上面の中ほどに大型の球が載っているもの。大きな球の周囲にさらにボタンが配置されているため、大型の製品が多い。古くから存在するトラックボールの典型的な形状である。ボールは手のひらか、あるいは中指や人差し指の「はら」で転がす。ボールが大きく、そのぶん慣性も大きいので操作感がよいとして好む人々がいる。なお、この種の製品では「エルゴノミクスに基づいた設計」のものであっても左右対称(シンメトリー)で左右どちらの手でも操作できるものが多い。
[編集] 人差し指操作タイプ
一般的なマウスに似た形をしており、マウスならばボタンやホイールがついている部分に人差し指や中指の先で転がすためのボールが載っているもの。手のひら操作タイプに比較するとボールのサイズは小さめである事が多い。デバイス自体のサイズは通常のマウスか、それより少し大きいほどのサイズの製品が多い。手のひら操作タイプと同様に左右対称型の製品が多い。なお、この「人差し指操作タイプ」は前述の「手のひら操作タイプ」と操作感覚が近い為、この2種類を1つにまとめて分類する場合もある。
[編集] 親指操作タイプ
一般的なマウスに似た形をしており、ボタンやホイールも一般のマウスと同様の配置になっている事が多い。球はデバイスの左側面に配置されており、デバイスを右手で持った時に親指でボールを転がすように作られている。握り方やボタン操作の指はマウスを操作する場合と同じである。形状が左右非対称になっていて右手用のものを左手で操作することは難しいので、左右が反転した左手用のものもある。また、前述の2種のタイプに比べて操作感が大きく異なる。
[編集] 脚注
- ^ ケンジントン・テクノロジー・グループのExpert Mouseやロジクール(Logitech)のMarble Mouse等。
- ^ トラックボールファンFAQ『トラックボールの歴史は?』
- ^ oldmouse.com『ORBIT X-Y Ball Tracker』
- ^ 『インターネットAQOUS仕様書』によると、「入力装置 トラックボール(キーボードに内蔵)」とある。