ヒマティオン
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ヒマティオン(himation)は、キトンの上に着る古代ギリシアの一枚布を使ったワンピース型の上着の総称。古代ローマのトーガの原型。
羊毛(冬)や麻(夏)などで織られた縦1.4メートル前後横幅3~4.5メートルの長方形の一枚布を体型にあわせて大きくひだ(ドレープ)を寄せて、原則的にベルトやピンなどを使わず着付けるもの。中国産の厚い絹織物をほどいて織りなおした薄い絹製のヒマティオンも王族などに見られた。
通常時に着るヒマティオンは足首が露出する程度の長いものだが、羊飼いや、狩などのスポーツ用のヒマティオンは膝の辺りまで露出する丈の短いものであった。
美術館などで見られる大理石像の影響でヒマティオンは白いものばかりであったかのようなイメージがあるが、神や英雄をかたどった大理石像には本来彩色が施されており、素材そのままの白や褐色のヒマティオンを着る貧しい庶民などはともかく、裕福なギリシア人が着るヒマティオンには、おそらくサフラン(黄色)貝紫(紫色)西洋茜(赤)大青(青)などを用いたさまざまな色彩のものがあったと思われる。
ヒマティオンに原則ピンを使わないのは、「はるか昔にはヒマティオンは肩口に黄金のピンを貫いて留めていたのだが、ある時戦場から自軍の壊滅と言う悲しい知らせを告げるために帰還した伝令を、自分達の夫や子供を見捨てて逃亡したに違いないと思い込んで激昂した町の女性たちが手に手にヒマティオンのピンを持って責め殺したため、悲劇を繰り返さないためにピンを使うことを禁じた」という伝説がある。