ビッグクランチ
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ビッグクランチ (Big Crunch) は予測される宇宙の終焉の一形態である。現在考えられている宇宙モデルでは、宇宙はビッグバンによって膨張を開始したとされているが、宇宙全体に含まれる質量(エネルギー)がある値よりも大きい場合には、自身の持つ重力によっていずれ膨張から収縮に転じ、宇宙にある全ての物質と時空は無次元の特異点に収束すると考えられる。これをビッグクランチと呼ぶ。
ただし、プランク長と呼ばれる微小な長さよりも十分に小さくなった宇宙を理論的に取り扱うためには、一般相対性理論に加えて量子力学的効果をとり入れる必要がある。このような理論を量子重力理論と呼ぶが、2005年現在では完全な量子重力理論はまだ構築されていないため、ビッグクランチによって何が起こるかを物理学的に記述することはできていない。ビッグクランチの後、「振動宇宙」として再び宇宙が膨張に転じるかもしれないと考える科学者もいる。
宇宙がビッグクランチを迎えるのか、それとも永遠に膨張を続けるのかについては、
- 収縮に転じるだけの十分な質量(臨界質量密度)が宇宙に存在するか。
- 宇宙定数と呼ばれる、重力に対抗する斥力の源が存在するか。存在するならばどの程度の大きさなのか。
の2点に依存している。2005年現在のさまざまな観測結果によると、宇宙のエネルギー密度は臨界密度にきわめて近く、したがってビッグクランチは起こらずに宇宙は永遠に膨張し続けるという考えが有力となっている。
ただ、ビッグクランチを違った意味で捉える仮説も存在している。この仮説では、ブラックホールの存在が鍵となる。宇宙では、天体は常に移動しているため、常に天体同士の衝突も発生している。ブラックホールと他の天体が衝突すれば、その天体はブラックホールに吸い込まれてしまう。また、ブラックホール同士が衝突すれば、合体して、1つの大きなブラックホールになる。こうして無限に時間が経過し、永遠に宇宙が膨張し続けるなら、やがて総ての天体がブラックホールに吸い込まれていき、さらにブラックホール同士が合体を繰り返していくようになる。そして最終的には、宇宙そのものが1つの巨大なブラックホールになってしまう。その瞬間、ブラックホールに宇宙そのものが吸い込まれると同時に、一瞬にして宇宙は収縮し、消滅して無に帰する。これがビッグクランチである、とする仮説である。