ビリー・ミリガン
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ビリー·ミリガン(Billy Milligan、本名:William Stanley Milligan、1955年2月14日 - )は、アメリカ合衆国生まれの男性で、オハイオ州の強盗・強姦事件で逮捕・起訴されたが、彼は解離性同一性障害(いわゆる多重人格障害)を患っていると主張、裁判で多重人格と事件の関わりにおいて注目され有名になった。日本でもダニエル・キイスの著作によりその名を広く知られることとなった。現在は名前を変えてカリフォルニア州で映画監督の仕事をしている。
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[編集] 事件の概要
ビリーは、1970年代後半に、オハイオ州立大学キャンパス内にて、3人の女性に対する連続強姦、強盗の容疑で逮捕された。裁判の計画を進める中、弁護士との打ち合わせの際、自分はビリーではない、ビリーは今眠っていると証言する。ビリーの担当弁護士となったジュディ・スティーブンスンは不信を持ち、接見を通して彼の異常性に気付く。裁判を受けられる能力に疑問を持った彼女は、検事や精神医学者などを呼ぶ。その後の調査により、ビリーは、ビリー(基本的人格)、デイヴィッド、ダニー、トミー、アレン、同性愛者のアダラナ(女性の人格)、イギリスなまりの男アーサー、レイゲンなど、合計23人の人格を持っていた。
元々の人格であるビリーは、小さい頃実の父親が自殺、その後義父に縄で縛られ吊るされるなどの身体的虐待や挿入を含む性的虐待を受けていた。その影響で人格が複数生まれ、自分の預かり知らぬところで時間が進んでいることにわけの分からなくなったビリーの人格は、ビルから飛び降り自殺を図る。しかし、飛び降りる直前に、レイゲンが彼を止め、自殺は失敗する。
その後、複数の人格が入れ替わる状態が続いていたため、定職について生活を営むことができなかった。ある時レイゲンが目を覚ました際に大量の請求書を見つける。その後オハイオ州立大学のキャンパスにて人格が突然入れ替わり、強盗を犯してしまう。レイゲンが元に戻ると、何故か手元に札束がある。しかしまた他の人格が別のことに使ってしまい、この繰り返しとなる。警察に逮捕された彼は、検事署内で多重人格だと知られる。
まねできないようなイギリスなまりや、煙草を吸う人格などそれぞれの人格に入れ替わり、でまかせとは思えないものだったため検事間や弁護士、精神医学者には演技ではないと信じられた。
彼の証言によると、スポットと呼ばれる真ん中を中心に各人格が立っており、比較的安全である場所ではアーサー、刑務所内や検事署内などビリーにとって危険である場所では、レイゲンがどの人格を表に出すかを決めるという。なお、このとき各人格は、基本人格ビリーを起こすと自殺をする恐れがあるため寝かせたままだという。
精神医学者による治療が行われ、彼の人格は長い年月をかけ安定する。
周囲の反対を押し切って結婚した女性との破局や、彼の身を自由にすることに対してのマスコミの非難によって一時期彼の人格は再び追い込まれる。しかし、その後24人目の人格、"教師"と名乗る男が生まれ、精神医学者は、彼が最も本来の人格に適していると結論づけ、彼を本来の人格とする。
[編集] 彼の人格達
・ウィリアム・スタンリー・ミリガン(ビリー)
- 26歳。本来の人格もしくは核となる人格。他の人格の存在を知らない。
・アーサー
- 22歳。上流階級のイギリス人。合理主義者。両手の指先同士を合わせて喋る。
・レイゲン・ヴァダスコヴィニチ
・アレン
- 18歳。唯一煙草を吸い、右利き。口先がうまい。肖像画を描く。
・トミー
- 16歳。縄抜けの名人。喧嘩っ早い。ビリーが父親から虐待を受け、縄で縛られた際に誕生した人格。風景画を描く。
・ダニー
- 14歳。いつも怯えている。静物画が得意。
・デイヴィッド
- 8歳。苦痛の管理者。
・クリスティーン
- 3歳。イギリス人の少女。隅の子供。失読症。ビリーの中で最初に誕生した人格。
・クリストファー
- 13歳。クリスティーンの兄。ハーモニカを吹く。
・アダラナ
- 19歳。レズビアン。内気で、孤独で、内向的。詩を書く。
以下、13人の『好ましくない者たち』。アーサーに押さえ込まれている。
・フィリップ
- 20歳。乱暴者。強いブルックリン訛り。軽犯罪を犯している。
・ケヴィン
- 20歳。グレイ薬局の強盗を計画。
・ウォルター
- 22歳。オーストラリア人。方向感覚が抜群。
・エイプリル
- 19歳。ボストン訛りがある。義父に対する復讐心が強い。
・サミュエル
- 18歳。正統派ユダヤ教徒で、ただ一人神を信じている。
・マーク
- 16歳。自主性がない。働き者。他の人格に命令されなければ何もしない。
・スティーヴ
- 21歳。人々の真似をして喋る。常に人を嘲る。
・リー
- 21歳。悪ふざけを好むコメディアン。
・ジェイスン
- 13歳。癇癪を起こす”安全弁”。
・ロバート(ボビー)
- 17歳。夢想家。
・ショーン
- 4歳。耳が不自由。蜂に似た音を出す。
・マーティン
- 19歳。俗者のニューヨークっ子。
・ティモシー(ティミー)
- 15歳。花屋につとめる。
<教師>
- 26歳。現在のビリーで23の自我が一つに統合された人格。
[編集] 現在
前述のとおり、現在は名前を変え、優れた美術センスがあったことから、カリフォリニアで映画監督の仕事をし、普通に生活を送っている。しかし、彼はいまだ、"自分は多重人格だ"と証言している。彼の作品の1つ、The Crowded Roomは2008年にアメリカで公開予定。
[編集] 関連
・ダニエル・キイス著作、『24人のビリー・ミリガン』上巻ISBN 4-15-110104-7 下巻ISBN 4-15-110105-5
- ビリー・ミリガンの前半生を、本人へのインタビューや関係者の証言や裁判記録などの資料に基づいて、小説家ダニエル・キイスが物語風に脚色した。