フラッグフットボール
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
フラッグフットボールは、スポーツの種目。アメリカンフットボールで行われる「タックル」に代わり、プレーヤーの腰の左右につけた「フラッグ」を取ることに置き換え、敵味方の選手同士の身体的接触は原則として禁止(反則)とした、より安全で幅広い層が参加出来ることを目指したフットボール。
目次 |
[編集] アメリカンフットボールとの関係
アメリカンフットボールはアメリカで最も人気の高いスポーツの一つであるが、激しい身体接触を伴う競技であるため、特に日本では男性のスポーツ、大学生・社会人(プロ)のスポーツという認識が強く、多くの人にとって「"見る"スポーツ」ではあっても「"する"スポーツ」からは遠いものであった。 またプレーの激しさの他にも、広い競技スペース、ゲイン・ロスヤードの測定、正確な計時、ヘルメット・プロテクターなどの装具といった、気軽に楽しむには難しい点があった。
そこでさまざまな点を変更・簡素化し、ケガの心配を極力小さくし、年齢、性別に関わらず老若男女が楽しめるスポーツとして考案されたのがフラッグフットボールである。
試合に参加する人数など、サッカーとフットサルの間の関係に似たものはあるが、むしろ「アメリカンフットボールの面白さのエッセンスを取り入れた新規なスポーツ」という方がアメリカンフットボールとフラッグフットボールの関係について正しく表現しているように思われる。
[編集] フラッグフットボールの特徴
ここではアメリカンフットボールとの相違点、フラッグフットボールの特徴点のいくつかを挙げる。
- 試合の人数
- フィールド内でプレーする選手の数は、1チーム5人である。(アメリカンフットボールは1チーム11人)
- 身体接触の禁止
- 基本的に、相手チームの選手との物理的な接触は禁止されている。ボールを保持しない選手の移動の邪魔をするようなプレーも原則としては禁じられている。
- 「フラッグ」と装具
- 試合時間
- アメリカンフットボールはバスケットボールのようにプレーごとに計時するが、フラッグフットボールはサッカーのように試合開始から時間を止めないで進行する。
- ただしこの点については必ずしもルールで定まっているわけではなくアメリカンフットボールのようなプレーごとの計時を、試合の終盤のみ行ったり試合開始から終了まで行う場合もある。
- フィールド
- アメリカンフットボールでは、両チームのゴールラインの間は100ヤードであるが、フラッグフットボールではゴールラインの間は40ヤードである。
- エンドゾーンはアメリカンフットボールと同じく10ヤードずつ
- フィールドの長径はアメリカンフットボールは120ヤードだが、フラッグフットボールは半分の60ヤード
- フィールドの横幅(サイドライン間の距離)はアメリカンフットボールは53ヤード1フィートだが、フラッグフットボールでは30ヤード
- フィールドゴールは無いのでゴールポストは無い
- ファーストダウン
- アメリカンフットボールでは4回の攻撃(ダウン)で10ヤード以上前進すると攻撃権を更新(ファーストダウンの獲得あるいは更新)出来るが、フラッグフットボールでは3回の攻撃(ダウン)で「ハーフラインを越える」と攻撃権を更新できる。
- キッズルールでは4回の攻撃が出来る
- 詳しい内容についてはルールを参照
- パスラッシュ、ブリッツ
- フラッグフットボールでは、身体がぶつかり合うようなプレーは禁止されているので、攻撃側のパスを投げる選手を守る選手(アメリカンフットボールでいうところの「オフェンスライン」)がいない。従って守備側の選手がパスラッシュに行くのが非常に簡単になってしまうため「スナップ(攻撃開始)時に7ヤード以上離れていた守備選手」のみがパスラッシュ(ブリッツ)することが出来る。
- これについても詳しい内容はルールを参照
- ランプレーの制約
- 攻撃側のクォーターバック(最初にスナップを受け取った選手)が、そのままボールを保持してスナップ地点より前進することは出来ない。
- ハーフラインおよびゴールラインの手前5ヤード以内から攻撃を行うとき、攻撃側の全ての選手はランプレーを行うことは出来ない。
- 危険な身体接触プレーが発生するのを避けるためである
- スクリメージ後方でのボール保持の制約
- スナップ時の守備側選手のポジションによっては、クォーターバックがボールを続けて保持している限り、守備選手が誰もパスラッシュに行くことが出来ない状況が起こりえる。このときに攻撃側が無制限に時間を消費することが出来ないよう、攻撃チームはスナップから7秒以内にボールをスナップ位置より前方に1回以上進めなければならない。
- 7秒以上スクリメージ後方でボールを保持してしまった場合はバイオレーションとなる。
[編集] 用具
[編集] ルール
[編集] ゲームの戦略
[編集] ゲインについて
アメリカンフットボールにおいては、ファーストダウンの獲得(攻撃権の更新)のためには 4回の攻撃で10ヤード前進すればよいが、実際のゲームにおいては 3回目までの攻撃でファーストダウンを取れなかった場合にはパントキックやフィールドゴールが選択され、 4回目も通常のプレーでファーストダウンやタッチダウンを狙うような作戦は「フォースダウンギャンブル」と呼ばれ危険性の高い作戦とされている。これは『得られる得点は少ないが高い確率で点が得られる』のと『多くの得点が取れるかもしれないが成功確率は下がる』こととのトレードオフや、『成功すれば攻撃を継続できるが、失敗すればその地点から攻守交代となり一気に不利な状況になる』のと『確実に攻守交代しなければならないが、相手チームの次の攻撃の開始地点を大きく後退させられる』ことのトレードオフの関係にあるが、フラッグフットボールでは「そもそもフィールドゴールのシステムが無い」「ファーストダウンの更新に失敗しても(パスをインターセプトされた場合以外は)次の相手チームの攻撃開始地点は決められた地点から」となっているので、これらのトレードオフの戦略性は存在せず、3回の攻撃の全てにおいてファーストダウンやタッチダウンを目指してプレーが行われる。
上記のようにアメリカンフットボールでは1回の攻撃で獲得することが期待される距離は平均3.3ヤードであるが(3回の攻撃でファーストダウンを獲得するとした場合)、フラッグフットボールではインターセプト以外での攻守交代による攻撃開始地点からファーストダウンを獲得するまでの距離は15ヤードであり、1回の攻撃で平均5ヤード前進することが求められる。また、後に「ファーストダウンについて」の項で詳しく記述するが、ファーストダウンを更新した地点からエンドゾーンまでの距離も重要な戦略性を持っており、仮にファーストダウンを更新できた地点がハーフラインぎりぎりであったとするならば、次のタッチダウンまでは20ヤードの距離があり、平均6.6ヤードを獲得できる攻撃を行わなければならないことになる。
[編集] パスプレーとランプレー
フラッグフットボールでは、他の選手が保持しているボールをはたいたり掻き出すようなプレーは禁じられている(クォーターバックが投げようとしているボールをはたく、ランナーやパスレシーバーが確保したボールを掻き出したり奪おうとするなど)。従ってフラッグフットボールにおいてはランプレーを選択した場合、インターセプトやファンブルなどで攻撃権自体を喪失することはほぼ無い(ヤードをロスしたり、ファーストダウンを更新できずに攻守交代となることは当然ある)。
前述「ゲインについて」にあるようにフラッグフットボールの1回の攻撃では約5ヤード前進することが期待されるが、アメリカンフットボールのように味方の選手に守ってもらうことはできない(守備選手がボールキャリアに近づこうとするコースを妨害するような位置に立っている等でも反則)、相手選手を突き飛ばすようなプレーやフラッグを守るようなプレーは反則となっているので、ランプレーのボールキャリアの選手のスピードや身をかわす能力がランプレーでどれだけゲイン出来るかを大きく左右する。
アメリカンフットボールでのランプレーは確実な前進や残りわずかなゲインを狙う際に用いられることが多いが(残り1,2ヤードでタッチダウンの状況など)、フラッグフットボールではファーストダウン更新ライン(ハーフライン)およびエンドゾーンの前5ヤードから開始される攻撃についてはランプレーは行えないことになっているので(前進や阻止のために激しく身体をぶつけるようなプレーが起こるのを避けるため)アメリカンフットボールのランプレーとは趣が異なっている点もある。
前述したようにアメリカンフットボールよりも1回の攻撃での獲得期待ヤード数が長く、ゴールやファーストダウン獲得前の短い距離からはパスプレーのみに制約されているように、フラッグフットボールではパスプレーにかかる比重がアメリカンフットボールよりも高くなっていると言えるだろう。
パスプレーにはランプレーと異なりインターセプトで攻撃権自体を失う危険性があり、5人制のスポーツであることからインターセプトリターンで喪失する距離リスクはかなり高いものとなっている。またインターセプトリターン自体で失う距離が少なく済んだ場合でも、インターセプトされた地点によっては攻守交代後の状況は非常に不利なものとなる(一方ランプレーのみ選択し、たとえ1ヤードも前進出来ずに攻守交代となったとしても、次の相手の攻撃開始地点は敵陣5ヤードの位置からとなるのでリスクは少ない)。 大会やルールによっては「インターセプトリターンは無し(インターセプトは成立し攻守交代となるが、次の相手の攻撃開始地点はインターセプトして着地した地点)」としてパスプレーのリスクをルールとして低減し、パスプレーが多くなるようにしているところもある(例えばこのようなルールの場合、最後の攻撃では敵陣5ヤードより向こうへのパスならばインターセプトされること自体のリスクは無い)。