ブーメラン
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ブーメラン(Boomerang)とは、狩猟やスポーツに使われる棍棒の一種。かつては飛去来器とも訳された。大型のものを除けば、手で投げて飛ばすことが出来る。投げた後にある程度の距離を飛行した後に手元に帰ってくる種類が特に有名であり、一般にブーメランと言えばこの種のものが連想される。昭和30年代の日本では駄菓子屋で子供のおもちゃとして好評を博した。
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[編集] 特徴
- 回転して飛行する。
- 他の道具を使わずに手で投げられるものの中では飛行時間・飛行距離が長い。
- 手元に帰ってくるタイプのものは円形の軌跡を描く。
[編集] 歴史
オーストラリアのアボリジニが狩猟や儀式などに使っていたものが有名だが、ブーメランとおぼしきものは、アフリカやヨーロッパの岩絵や遺跡に描かれている。ブーメラン自体は木製で古いものは土中から発見されていないが、岩絵や遺跡の年代からその歴史は紀元前まで遡れるようである。アッシリアの壁画から当時ブーメランは兵士の標準的装備品であったことが分かる。インドにおいては近世まで使用された。
オーストラリアのアボリジニの物が有名であるが、有名であるが故の誤解も多い。一般に考えられる「手元に戻ってくる」物がブーメランであり、さらに重く大きな運動エネルギーを持たせた狩猟用の「手元に戻ってこない」物はカイリー(kylie)またはカーリ(karli)、あるいはキラースティックと呼び分けるべきなのであるが混同されているのが現状である。戻ってくるブーメランは極めて軽量であり、有する運動エネルギーも大きくはない。アボリジニの間でも狩猟用には用いられなかったと見られている。
弓矢や銃の登場により、ブーメラン(カイリー)は姿を消し始めるが、近年において、ブーメランは装飾品あるいは競技用として親しまれるようになった。
現在、ブーメランはアメリカやヨーロッパでスポーツとして親しまれている。
[編集] 構造
材質は木材か、同程度の比重をもった人工素材が主である。しかし、手軽な紙コップや型紙等でも作成できる。
形状は「く」の字型になっているものが良く知られているが、これ以外にも十字型や三角形の環状のものなどがある。いずれも板状であるが、さらにその断面を見れば片面は平らでもう一方はふくらみをもっており、飛行機などの翼に近いものである。
[編集] 飛行の原理
ブーメランの飛行を理解するには、翼による揚力と回転物体に起きるジャイロ効果を理解する必要がある。換言すると、ブーメランはヘリコプタのメイン・ロータと同様の力学で説明することが出来る。
ブーメランの翼断面は、いわゆる一般的な翼と同様に上面が膨らんで下面が平らか、上面が凸となるように沿った形状(キャンバー、矢高)をしており、効率的に上面側に揚力が発生するようになっている。また、更に工夫されたブーメランになると、翼上面を乱流境界層で覆わせるために少し凸凹がつけられたり、独特な翼断面形状を採用しているものもある。
ブーメランを投げる際には、ブーメラン回転面が垂直よりも少し外側に傾いた状態で投げられる。これにより、ブーメランには斜め上方に揚力が発生し、これの垂直成分が自重を支え、水平成分が旋回運動の向心力として働く。
また、ブーメランの回転によってジャイロ剛性が生じ、安定した姿勢を保つことが出来る。
[編集] 手元に戻る原理
手元に戻る原理を理解するには、剛体回転運動に生ずるプリセッション(歳差)運動を理解する必要がある。これは、自転する円盤に、その自転軸と直交した軸周りにトルクを加えた場合、円盤自転軸とトルク印加軸それぞれに垂直な軸周りに回転運動をするというものである。今、回転とその向きを右ネジの原理(右ネジをねじ込む際にネジが進む向きを回転の向きとする定義)で考えた場合、プリセッションによる回転の向きは、自転軸の向きをトルク軸へ合わせるように回転させた場合に一致する。別の表現をすると、右手で親指、人さし指、中指をそれぞれ直交するような状態(フレミングの右手の法則のような)にしたとき、人さし指が自転軸の向き、中指がトルク印可軸の向き、親指がプリセッションの向きとなる。
さて、ブーメランがその自転面を垂直から少し傾いた状態で飛行している場合、ブーメランの翼に当たる相対風は自転面内で異なる。すなわち、ブーメランの自転により瞬間的な翼の運動の向きが進行方向に一致している部分(翼の前進側)と、進行方向と逆行している部分(翼の後退側)が現れる。すると、翼の前進側では相対風が大きいことにより揚力が大きくなり、翼の後退側は揚力が小さくなる。ここで想定しているブーメランの飛行状態では、上半分が翼の前進側で揚力が大きくなり、下半分が翼の後退側で揚力が小さくなる。すると、ブーメラン自転面の上端を自転軸向き側に回転させようとするトルク(トルク印可軸の向きは進行の向きと逆向き)が発生する。このトルクで、自転軸の向きがトルク印可軸の向きへ向かって回転するようなプリセッション運動が誘起される。
以上より、ブーメランの剛体としての回転運動と揚力の水平成分の組合わせによる向心力により、ブーメランは旋回軌道を描くことになる。
また、ブーメラン自転面の前方半面(上流側の半面)で発生する揚力の影響で、後方半面(下流側の半面)でのブーメランの翼の迎え角は相対的に小さくなり、後方半面で発生する揚力が前方半面よりも小さくなる。これによって丁度上記のプリセッション運動の向きのトルクが印可されることになり、このトルクによるプリセッション運動は、丁度ブーメランの自転面が水平で自転軸が上向になるような回転運動となる。
以上のようなもう1つのプリセッション運動が、旋回して手元に戻って来たブーメランが水平ホバリングするような挙動を示す要因であるとされる。
オーストラリアのアボリジニのブーメランはその翼端が捻ってあるのが特徴である。これによって他のブーメランにはない複雑な軌道を描くことが出来る。