メルセデスベンツ・C291
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メルセデスベンツ・C291は、グループCカーのうち、1991年から発効されたカテゴリー1に属する数少ないグループCマシン(競技専用車)である。
[編集] FIA規定変更に伴う独自のエンジン開発
メルセデス・ベンツは、1985年からスイスのペーター・ザウバー(元F1・ザウバーチームのオーナーであり、BMWザウバーのアドバイザー)へのエンジン供給という形で当時の世界耐久選手権(WEC)に関わった。その後徐々に支援を拡大して行き、1988年からは公式にメルセデス・ベンツのワークス活動として世界スポーツプロトタイプカー選手権(WSPC)に参戦する。翌1989年からは伝統のシルバーアローと呼ばれるボディーカラーに変更する。
1989年、1990年シーズンは、市販車ベースのレーシングエンジンを使用したC9、C11を投入しシリーズを制覇したが、当時の国際自動車連盟(FIA)及び国際自動車スポーツ連盟(FISA)の方針転換により、1991年よりレース名称がスポーツカー世界選手権(SWC)と変更されたのに伴い、排気量無制限の燃費レースからF1(当時)の仕様である燃料無制限、3.5リッター自然吸気エンジンへの変更を余儀なくされた。そのため、メルセデスはスポーツカーレースにもっともふさわしいエンジン形態のシミュレーションを行い、その結果180度V12型エンジンを実戦投入することとなった。 このM291エンジンは非常に独特であり、3気筒分のヘッドとブロックが一体化された「モノブロック」を4つ組み合わせて12気筒とし、クランクシャフトの中間からギアで出力を取り出すセンターアウトプットとなっている。このレイアウトは、コクピットから後のボディ下面をなるべく平らにして、大きなディフューザーを形成しダウンフォースを稼ぐことと、低重心化が目的であった。
この複雑な構造が災いし安定せず、公称12500rpmで600馬力を発生するこのエンジンは、「金曜は600馬力、土曜は500馬力、日曜は400馬力」などと揶揄された。
[編集] SWC及びル・マン24時間での活躍
メルセデスC291が選手権へ投入された1991年、ル・マン24時間にも参戦した。しかし、そもそもが2時間程度のレースを戦うためだけに作成されたマシンであり、耐久性を重視したマシン設計をしていなかったこともあり、同じく選手権を戦っていたジャガーXJR14同様エースマシンとは扱われず、車検場に姿を現したのみで、予選すら走ることなく撤退してしまう。 SWCでは開発の遅延の影響もあり、目立った戦績を残すこともできず、その年の最終戦オートポリスラウンドにて初優勝を果たしている(優勝時のドライバーには、ミハエル・シューマッハがいた)が、その年をもってこのマシンが使用されることはなかった。
[編集] 92年に向け開発されたC292
メルセデスは翌年SWCへの参戦を目指し、開発されたマシンがメルセデスC292である。このマシンはC291をベースに開発されていたものの、その空力思想はジャガーXJR-14に近いものがあり、見た目にもコンパクトさが際立つ車となっていた。 しかし、C292が実戦で使用されることはなかった。突遽ダイムラー・ベンツがレース活動の撤退(後に復帰)を決めたのだ。そしてこの年のSWCへの参戦を取りやめル・マン24時間への参戦も中止し、スポーツカーレースからの撤退することとなった。 また、このメルセデスC292が公にされたのは撤退後5年以上たってからの話である。