リチウム塩
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リチウム塩は化学的なリチウムの塩で気分安定薬であり、特に躁うつ病、うつ病に用いられるが、統合失調症の治療にも用いられる。通常は炭酸リチウム(Li2CO3)が用いられるが、クエン酸塩であるクエン酸リチウムが用いられる事もある。オロチン酸塩であるオロチン酸リチウムもまた使用される。塩は中枢神経系に広く運ばれ、神経伝達物質や受容体の多数に作用し、ノルアドレナリンの放出を抑制し、セロトニンの合成を促進する。
リチウム塩の使用は1949年にオーストラリアの精神科医、ジョン・ケイドによって、偶然に動物に対する効果を発見した後に開発された。その後、1954年にデンマークの精神科医がケイドの発表が正しいことを認め、以降ヒトに対する使用が開始された。
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[編集] 治療
リチウムによる治療は、過活動や多幸症の患者を鎮静させるために使用される。治療初期には、リチウムは効果が発現するまで最大一週間かかる事から、しばしば精神安定剤と共に使用される。リチウムによる治療は一般的に子供には不向きだとされる。
リチウムは、躁うつ病に著効を示し、またうつ病にも使用される。うつ病への使用は他の抗うつ剤の効果を増強する目的でも使用される。
[編集] リチウムの毒性と副作用
リチウムを使用する人は定期的に血液検査を行い、また甲状腺及び腎臓が毒性により損傷を受けていないか監視するべきである。これは塩であるので、リチウムは脱水症を引き起こす。熱により加速される脱水症はリチウム濃度を上昇させる。
高用量のハロペリドール、フルフェナジン、または flupenthixol をリチウムを同時に使用すると、中毒性の脳障害を起こすとの報告があり、おそらく危険である。
オロチン酸リチウムを除くリチウム塩は治療域と中毒域の比率が狭く、従ってリチウムの血漿濃度を測定できる施設が利用可能な場合にのみ処方されるべきである。患者を注意深く選択するべきである。処方は前回の服用後12時間後に採取した試料血漿内のリチウム濃度が0.6~1.2mEq/Lとなるように調節する(最低濃度は維持治療や高齢者向けのものである)。一般的に血漿濃度が1.5mEq/Lを超える、過量服用の場合には致命的となる事があり、振戦、構語障害、眼振、腎障害、痙攣を含む中毒症状が現れる。もし潜在的に危険なこれらの兆候が見られた際には、治療を中止し、血漿濃度を再測定し、リチウムの中毒を緩和する措置を行うべきである。
リチウムの毒性はナトリウムの枯渇により増強される。現在の遠位曲尿細管へのナトリウムの吸収を阻害する利尿剤(例:サイアザイド)の使用は危険であり、避けられるべきである。軽症の場合にはリチウムの投与を中止し、ナトリウムと水分を十分に与えれば毒性を失う。2.5mEq/Lを超える血漿濃度は通常緊急治療を要する重大な中毒を呈する。ここまで毒物濃度が達すると中毒症状が最大になるまで1~2日間を要する事がある。
長期連用では、治療に使用されるリチウムの濃度は腎臓に組織的及び機能的な変化をもたらすと考えられてきた。そのような変化の有意性は明らかではないが、明白な必要性が示されない限り長期連用は推奨されない。重要な経過は尿崩症の発現である。尿崩症とは尿の濃縮が不能になる症状である。従ってリチウムによる治療は、評価の結果有効と認められている場合にのみ3~5年継続すべきである。アメリカでは一般の錠剤(Lithium Carbonate)、及び徐放錠(Eskalith CR)が入手可能であるが、このような違いは生態学的利用能に多大な差異を生じさせ、形態の変更は治療開始時と同じ注意が要求される。リチウムの単純な塩のどちらかを選ぶ事にはさほど理由がないが、炭酸塩が広く流通しているが、クエン酸塩も入手可能である。日本国内では徐放錠は発売されておらず、一般錠(リーマス)やそのジェネリックが流通している。
リチウム塩の副作用は、振戦、線維束攣縮、多飲症、多尿症、眩暈、筋力低下、嘔吐、頭痛、発語障害、運動失調、昏迷、心不整脈、発作までさまざまである。
[編集] リチウムの過量服用
過量服用とはすなわちオーバードーズの事であるが、体内のリチウム濃度が高過ぎることを示す症状は、錯乱、下痢、傾眠、重大な振戦、胃部不快感のいずれかまたは全てである。
リチウムの特異的な解毒剤は現在知られていない。
[編集] リチウムと文化
他の薬品と同じように、その効果に対する詩が書かれた。数ある中でもスティングによる "Lithium Sunset" やニルヴァーナによる "Lithium" がある。
清涼飲料水の「7 Up」は当初「飲めと書いてあるリチウム塩入りのレモンライム飲料」という名前で売られており、1950年に成分を変更するまでクエン酸リチウムが添加されていた。
[編集] 外部リンク
- おくすり110番 (患者向け説明)
- 三菱ウェルファーマ 炭酸リチウム添付文書 (医療関係者向け説明)