ルイ・ケルヴラン
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ルイ・ケルヴラン(Corentin Louis Kervran, 1901年 - 1983年2月2日)は、フランスの科学者。生体内における酵素やバクテリアの作用によって、一つの元素が別の元素に転換するという生物学的元素転換(Biological Transmutations)という理論を提唱したことで知られる。
1901年にフランスのブルターニュ地方、フィニステール県のカンペールに生まれる。 後にパリの労働衛生局に入り、電気や放射線などの物理作用に対する生理学的研究と調査に従事する。1930年代にはフランス南東部のサヴォア県シャンベリーの労働視察官として公務に従事し、第二次大戦時には同地方でフランス・レジスタンスとして活動した。 戦後の1946年には労働衛生局部長に就任し、1955年には一酸化炭素の存在しない環境での中毒事故を調査した。 その後の1959年にサハラ砂漠の油田労働者の生理学的調査を実施し、人体の内部で核融合や核分裂に相当する生物学的元素転換が生じているとの確信に至った。 そして1962年にその研究をまとめた『生体による元素転換』を出版し、当時の学界に大きな波紋を巻き起こした。翌1963年には『自然の中の元素転換』、さらに1964年には『微量エネルギー元素転換』を出版し、自然界に普遍的に存在する現象として、微量エネルギー元素転換という概念を確立した。
ケルヴランの元素転換説の主軸となる二つの概念は、核子クラスター構造論とジャコブ、モノーらによる遺伝子のオペロン説である。 前者は、原子核を構成する核子がアルファ粒子をメインとするクラスター構造を形成しており、その結合エネルギーの不均衡によって、低いエネルギーでもクラスター構造の組み換えにより元素転換が生じるとするものである。ケルヴランはこれを「核子クラスター」と称し、その結合反応をフリタージュ、分裂反応をクリベージュと呼び、古典的な原子核反応と区別している。 後者のオペロン説は遺伝子学上の重要な発見であり、ケルヴランはこれを元素転換反応を引き起こす酵素等を合成するDNAのメカニズムとして採用している。
こうした理論に基づく彼の元素転換説はヨーロッパ各国に大きな反響をもたらすとともに、多くの科学者たちの見解を二分させるものとなった。1966年には『生物学的元素転換の発見に向けて』という普及書を出版。これは1971年に英訳され、現在も世界中でロングセラーを続けているケルヴラン唯一の英語版である。また1969年にはフランス国立農学院にて連続講演を行ない、その要旨を『農学における元素転換』として公表している。
さらにこの1969年1月には、フランス農学アカデミーにおいてロブスターを使用した元素転換実験の論文を公表したが、各元素の収支の確実性を疑問視され、この論文は農学アカデミーの公式記録から抹消されている。その一年後の1970年2月にロブスターの第2実験を再度報告しているが、これは激しい議論を巻き起こした。
この実験に関しては1970年4月の『ニューサイエンティスト』に批判記事が掲載されており、8月の同誌にケルヴランは反論記事を寄せている。また同年10月にはI.N.R.A.(フランス農学研究所)の研究者L・ゲゲンによる反証実験に基づく批判が行なわれるなど、学界の無理解の姿勢に変わるところはなかった。
その後ケルヴランは現在ビオロジックと呼ばれる「生物学的農法」のさきがけであるレマール・ブーシェ農法の団体と交流を深め、元素転換による理論的後援を行なうようになっている。
1973年に出版された著作『微量エネルギー元素転換の地質学と物理学における証明』では、ベルヴュー・メードンにあるC.N.R.S(フランス国立科学研究所)の施設を使用してパイロープの高圧プレス実験を行なっている。この実験はメスバウアー・スペクトル分析により解析され、鉱物の組成変動が確認されている。1975年にはノーベル賞(医学・生理学賞)候補にノミネートされるが、受賞には至らなかった。晩年には生物学的元素転換の量子論的解釈を追究し、その成果を1982年の『生物学的元素転換と現代物理学』に公表している。
1983年2月2日にフランスのパリにて逝去。皮肉にも、その年に量子論的モデルに導入した中間ベクトルボソンがCERNの加速器によって発見される。死後10年たった1993年にイグノーベル賞(物理学賞)が授与されている。
生物学的元素転換に関するケルヴランの著作は以下の9冊になる。
『生体による元素転換』(1962)
『自然の中の元素転換』(1963)
『微量エネルギー元素転換』(1964)
『生物学的元素転換の発見に向けて』(1966)
『農学における生物学的元素転換』(1970)
『微量エネルギー元素転換の地質学と物理学における証明』(1973)
『微量エネルギー元素転換の生物学における証明』(1975)
『生物学的元素転換と現代物理学』(1982)
日本語に翻訳されたケルヴランの著作には以下の2冊がある。
『生物学的元素転換』朔明社(2003)
『微量エネルギー元素転換の地質学と物理学における証明』朔明社(2005)