ワディ・アル・ヒタン
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ワディ・アル・ヒタン(クジラ渓谷) |
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バシロサウルスの化石 | |
(英名) | Wadi Al-Hitan (Whale Valley) |
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(仏名) | Wadi Al-Hitan (La vallee des Baleines) |
面積 | 20,015 ha |
登録区分 | 自然遺産 |
登録基準 | 自然遺産(8) |
登録年 | 2005年 |
拡張年 | |
IUCN分類 | |
備考 | |
公式サイト | ユネスコ本部(英語) |
地図 | |
ワディ・アル・ヒタンはエジプトにあるユネスコの世界遺産登録物件。別名はクジラ渓谷。クジラ渓谷の名前の通り、ここでは進化途上のクジラの化石が多数発掘されている。2005年7月に南アフリカ共和国のターバンで行われた第29回世界遺産委員会で登録された。
[編集] 概要
ワディ・アル・ヒタンはアディ・エル・ラヤン保護地区のファイユン地方に属する。カイロの南南西150kmのエジプトの西部砂漠地帯にある。
ワディ・アル・ヒタンの地域は、約4000万年前、テチス海とよばれる海が広がっていた。そのころに堆積した砂岩・石灰岩・頁岩の地層が現在地表に表出している。この始新世の地層は最も古いもので約4100から4000万年前に形作られたと考えられている。この古い地層にはそのころの原始的なクジラの化石を始め、海牛類の化石、サメの歯、カメの化石なども発見されている。
中間の地層からもクジラの化石が発見されているが、もっとも新しい地層は約3900万年前に堆積し、この地層からは浅瀬にすむ動物の化石が多数発見されている。このことは、この時代に地殻隆起が起き、テチス海が無くなっていったことを示している。さらに約3700万年前には、マングローブの森が広がる海岸地帯だったと推定されている。
この地域で1902年から1903年にかけて最初に原始のクジラの化石を発見したのは、エジプトの学者だったベッドネルである。第二次世界大戦後、カリフォルニア大学やイェール大学などのアメリカの研究チームがこの地を調査。1989年に世界ではじめて原始クジラの後ろ足の化石を発見している。
3種類の始新世のクジラ(バシロサウルス)がワディ・アル・ヒタンで発見されている。このうち、最も大きい原始クジラのグループのバシロザウルスが現在のクジラ目の直接の祖先であると考えられている。最大のバシロザウルス・イスイス(Basilosaurus isis)は体長21mを越え、前足と後足に5つの発達した指のある水かきを持っていた。全体の姿はヘビのように見えたとも推測される。
また発見されたうちのドルドンという小型のクジラ種は、小型のイルカのようであったと考えられている。
このクジラ類を始めとした進化系譜と始新世の海洋環境を示す化石が多数発見されている場所はこのワディ・アル・ヒタンだけであり、この点が評価され、世界遺産への登録となった。
[編集] 登録基準
この世界遺産は、世界遺産登録基準における以下の基準を満たしたと見なされ、登録がなされた。
- (8)地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには、生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。