予算
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予算(よさん)とは、ある期間(たとえば1年間や半年間など)にかかる収入および支出についてあらかじめ見積もりを立てること、またその内容のことを言う。特に、国や地方公共団体等の政府の予算については、憲法・法律で定められている。
目次 |
[編集] 政府の予算の意義
政府、特にそれぞれの執行機関にあたる内閣や首長等の行政責任者にとって、予算は施政のために不可欠であり、行政責任者が実現させる政策は予算の数字となって反映され、予算無くしてはあらゆる政策も執行不可能である。このため、予算の承認は議会が政府の行政を統制する大きな手段であり、特に議院内閣制の議会においては、その否決は内閣の不信任を意味する。
[編集] 予算原則
財政民主主義に基づいた理想的な予算制度を実現するための原則。
- 予算の内容が明瞭かつ正確であって、しかもすべての国民・住民に公開されなければならない。
- 予算の執行は、国会・地方公共団体の議会で事前に議決を受けた後、議決された予算の範囲内で執行しなければならない。
- すべての収入・支出を一つの予算に計上し、しかも両者の間に特定の関係を作ってはならない。
[編集] 予算編成
- 事業別予算制度
- ゼロベース予算
- すべての計画を会計年度ごとに新規事業とみなして査定する方式。
- 増分主義
- 承認された歳出項目に関して、会計年度ごとに増分的に予算を組むこと。
- シーリング方式
- 財政規模抑制の必要性から採用され、予算全体としての規模を一定の基準におさめる方式。
- 計画事業予算制度((PPBS(Planning-Programming-Budgeting System))
- アメリカで政策に対して、複数の代替的な政策の効果測定にもとづいて予算編成するシステム。
- サンセット(時限)方式
[編集] 日本
[編集] 国・地方公共団体における予算
予算の期間(会計年度)は、基本的に4月1日~翌年の3月31日である。
単一予算主義に基づき、全ての歳入や歳出は単位の会計において処理するのが原則である(一般会計)。例外的に独立した会計を有するものとして、特別会計がある。
[編集] 予算と予算案
一般的には予算案と呼ばれることが多いが、法律上は、内閣が作成する「案」についても予算と呼ばれている。
これは
- 法律案は、両議院が可決すると法律となる。(憲法59条)
- 条約は、国会が承認すると発効する。(憲法73条)
のに対し、
- 内閣は予算を作成し、国会の審議を受け議決を経なければならない。(日本国憲法第86条)
との規定となっていることによる。
[編集] 国の予算
ここでは、国にかかる予算について述べる。
- 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。(日本国憲法第86条)
- 予算は、予算総則、歳入歳出予算、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為とする。 (財政法第16条)
- 予算先議権
- 予算の提出権
- 予算の種類
- 本予算(当初予算)
- 補正予算
- 当初の本予算どおりの執行が困難になった時に、国会の議決を経て本予算の内容を変更するように組まれた予算のことを補正予算という(財政法第29条)。景気の悪化にともなって公共事業の追加や減税など財政措置を伴う経済対策を実施するなどの場合には補正予算が策定される。
- 暫定予算
- 本予算(当初予算)が年度開始前までに成立しなかった場合などに暫定的に編成される予算で、本予算が成立したときには、暫定予算は失効し、本予算に吸収される(財政法第30条)。
なお、大日本帝国憲法(第71条)においては、本予算(当初予算)が年度開始前までに成立しなかった場合には前年度の予算がそのまま新年度予算として執行される規定があったために暫定予算が生まれる余地が存在しなかった。なお、現在の日本の法律は暫定予算が年度開始前までに成立しなかった場合は全く想定されていない。
- 本予算(当初予算)が年度開始前までに成立しなかった場合などに暫定的に編成される予算で、本予算が成立したときには、暫定予算は失効し、本予算に吸収される(財政法第30条)。
[編集] 地方公共団体の予算
地方公共団体の予算の考え方については、国の予算とほぼ同じである。
- 予算の種類
- 本予算(当初予算) - 地方公共団体の長(都道府県知事、市町村長)は、会計年度(4月1日~翌年3月31日)予算を調製し、年度開始前に、議会の議決を経なければならない。この場合、遅くとも年度開始前、都道府県知事及び政令指定都市の長にあっては30日、その他の市及び町村にあっては20日までに予算を議会に提出しなければならない(地方自治法第211条)。
- 補正予算 - 本予算(当初予算)成立後に生じた事由に基づき、既定の予算に追加その他の変更を加える必要が生じたときは、補正予算を調製し、議会に提出することができる。(地方自治法第218条第1項)
- 暫定予算- 地方公共団体の長は、本予算が年度開始前までに成立しなかった場合や、地方公共団体の分置廃合があった場合など必要に応じて、会計年度内の一定期間の暫定予算を調製し、議会に提出することができる。(地方自治法第218条第2項)ただし、地方公共団体の長には、議会を招集する暇がないときには、専決処分権(地方自治法第179条第1項)がある。
- 予算の提案権
- 予算を議会に提出する権限は、地方公共団体の長に専属し、議会及び他の執行機関(教育委員会、選挙管理委員会などの委員会)は、予算の提案権はない。地方公営企業については、公営企業の管理者が予算原案を作成し、地方公共団体の長が予算を調製し、議会に提案する(地方公営企業法第24条)。
[編集] 予算科目
予算については部局・予算の性質などにより項目(予算科目)が設けられる。
[編集] 国の予算
- 財政法(昭和22年3月31日法律第34号)
-
- 2 前項の規定により歳入歳出予算及び継続費を配賦する場合においては、項を目に区分しなければならない。
- 予算決算及び会計令(昭和22年4月30日勅令第165号)
- 第14条 歳入歳出予算、継続費及び国庫債務負担行為の部局等の区分、歳入予算の部款項目並びに歳出予算及び継続費の項の区分は、財務大臣がこれを定める。
-
- 2 歳出予算及び継続費の目の区分及び各目の細分は、各省各庁の長が財務大臣に協議して、これを定める。
[編集] 地方自治体の予算
- 地方自治法(昭和22年4月17日法律第67号)
- 第216条 歳入歳出予算は、歳入にあつては、その性質に従つて款に大別し、かつ、各款中においてはこれを項に区分し、歳出にあつては、その目的に従つてこれを款項に区分しなければならない。
[編集] 予算の執行
[編集] 地方公共団体における予算の執行
- 歳入予算の執行には、調定、納入の通知、収納の3段階がある。また、調定と納入の通知とを併せて、徴収ともいう。なお、歳入予算の執行は、予算に拘束されない(つまり、歳入予算として計上された額より多く収入することが許される)点で、歳出予算と異なる。
- 調定 - 地方公共団体が、当該歳入について、所属年度、歳入科目、納入すべき金額、納入義務者等を誤っていないかどうか、その他法令又は契約に違反する事実がないかどうかを調査して、納入すべき金額等を決定することをいう。
- 納入の通知 - 納入義務者に、納入すべき金額等を通知することをいう。その際には、所属年度、歳入科目、納入すべき金額、納期限、納入場所及び納入の請求の事由を記載した納入通知書によって行うこととされる。
- 収納 - 地方公共団体の出納長又は収入役、指定金融機関等が、納入義務者から、金銭を受け取って、地方公共団体のものとすることをいう。
- 歳出予算の執行には、支出負担行為、支出命令、支払の3段階がある。なお、歳出予算の執行は、予算に拘束される(つまり、歳出予算として計上された額より多く支出することを許されない)。
- 支出負担行為 - 支出の原因となるべき契約その他の行為をいう。この行為が、法令に違反するようなもの、予算より多額のものであってはならない。
- 支出命令 - 都道府県知事又は市町村長が、出納長又は収入役に対し、支出を命令することをいう。この命令がなければ、出納長又は収入役は、支出をすることはできない。また、出納長又は収入役は、当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認したうえでなければ、支出をすることができない。
- 支出 - 出納長又は収入役が、契約その他の行為の相手方に、金銭を手渡したり、小切手を交付したりすることをいう。
[編集] その他
戦後の特に大蔵省時代は政府予算案の公開とともに、予算総額の数字の並びを用いて、大蔵省が語呂合わせを発表するのが恒例行事であった。好印象の言い回しで希望的な意味合いを持たせ、予算の広報と話題づくりを狙ったものである。さらに、このニュースにあわせて報道機関各社が別途独自に語呂合わせをつくることもある。こちらの場合は、皮肉を込めたものが多い。現在でも、地方自治体のなかには、予算決定とともに語呂合わせを発表するところがある。
[編集] 裁量予算制度(行政需要予算制度)
航空/陸上運送量や隣国の軍事力等、客観的・統計的基準によって各行政部局の担当する行政サービス需要の前年対比伸長率を算定し、其れを元に各行政部局への予算配分枠を決定し、部局予算枠内で内部留保と各部局の裁量権を許容する制度を言う。
実際問題として各部局への配分予算枠は歳出化経費を割り込む事はできないので、歳出化経費予算と新規事業予算を分け、基準年度歳出化経費と行政需要伸長率に基づいて当該年度の歳出化経費枠ガイドラインを定め、行政需要が縮小して歳出化経費がガイドラインを超過している部局については、超過額に応じた法定率での人員削減や耐用年数延長を行い削減した上で超過を認め、残額を新規事業予算として基準年度新規事業費と行政需要伸長率に応じて各部局に配分する事になる。
- 長所
- 予算配分が財務部局の裁量ではなく、客観的・統計基準によってなされるため、既得権益や政治圧力の影響が弱まり、必要な部局に予算を重点配分できる。
- 現行予算制度では各部局が節約しても内部留保が認められず、却って次年度より予算が減らされるので各部局側で節約動機が働きにくいが、内部留保が認められることによって各部局の節約意欲が高まる。
- 行政需要縮小部局での人員削減が自動的になされる。
- 問題点
- 財務部局の裁量権縮小に繋がるので財務部局の協力を得るのが困難
- 各部局会計(特会)の赤字が全体予算の歳出化経費化すると、有効性を減じる。
- 行政需要算定基準策定や、同基準策定の有識者委員会人選で公平性の確保が問題。
[編集] 複数年度予算制度
複数年度で予算を策定し、各部局が単年度で使い残した予算を当該部局の次年度の新規事業に充当する事を認める制度である。
- 長所
- 内部留保が認められる事により各部局で節約動機が働く。耐用年数見直しと併用すれば、同予算で多くの新規事業が可能になる。
- 裁量予算制度(行政需要予算制度)に比べて財務部局等の協力が得られ易い。
- 問題点
- 各省庁間の予算配分が固定化・既得権益化している現状は変えられない。例えば周辺国の軍拡に応じて防衛予算への配分を増やす事が実際上不可能な一方、必要性の疑わしいダム等は作られ続ける。
- 行政需要縮小部局の人員削減が政治問題化して進まない
- 各部局(特会)の赤字が全体予算の歳出化経費化すると、有効性を減じる。
- 単年度予算制度より人員が必要。
[編集] アメリカ合衆国
アメリカ合衆国では予算は法律として定められる。憲法の規定上、下院の先議が定められている他は通常の法律案と同様の手続きで審議される。したがって大統領は提出権を持たないものの拒否権を有し、上院による予算案承認も必須となる。