入婿
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入婿(いりむこ)とは、男性が配偶者側の家名あるいは家督を継承すること、またその男性。 婿養子とも言うが、そちらでは明治時代に制定された旧民法における規定を説明し、本稿ではそれ以前の歴史的な事柄を対象とする。
主に、日本における風習であり、本来何の関係も持たない男性が名実ともに配偶者である女性の実家の一族に組み込まれるというのは他国ではあまりない。養子と言う義理の関係が実子と同等に見なされるのは中華文明圏の風習で、ヨーロッパなどにはない(キリスト教では、神以外のものが親子関係を勝手に作るのは冒涜と考えていた)。一方、中華文明圏では、宗族の概念が強く女児しかいない家が同姓の養子をとって家督を継がせることはあるが、他姓の者が養子になることはない。母系制社会であったとされる日本など少数の民族のみが持つ風習である。
家制度、家督の概念ができると養子の一形態として行われるようになり、戦国時代には立花宗茂や小早川隆景など多くの例が有り、江戸時代においては武家のみならず商家、農家においても一般的に行われた。
また、妻の実家に同居している男性を「入婿」や「マスオさん」(長谷川町子の漫画サザエさんの登場人物)と呼ぶことがあるが、「マスオさん」は配偶者の実家である磯野家に同居しているものの磯野家の籍には入っておらず入婿ではない。 また、配偶者の実家に同居していなくても、戸籍上配偶者側の籍に入った男性は入婿である(マスオさんは大阪から東京の会社への転勤により居候している)
[編集] なぜ入婿がいるのか
ごく最近まで入婿が頻繁に行われていたのは、三重県沿岸地帯の海女集落や、岐阜県白川郷の養蚕家、江戸時代の大坂の商業街船場に住む大商人たちであったとされている。
特に商家の入婿は近世文学の世界ではかなり頻繁に登場する存在で、上方で発展した人形浄瑠璃や和事を中心とした歌舞伎にその生活が描かれている。
彼らの家に男子が出生しなかった場合(あるいは後継者として不適格な男子であった場合)、当主は多くの使用人のうちから人格、素行、能力などの優れた若者を選び、娘との縁談を持ちかけて二人の承諾を得たら長女の配偶者として自分の一族に彼を迎え入れ優秀な後継者を得ていた。
また、男子のいない家の場合は長女が選んだ男性をそのまま入婿として迎えることもあった(そのような場合、保険として次女以下に優秀な男性を配偶者として迎え支店を任せる例も散見される)。
当主が次々他家から入ってくるため、大阪の旧家には「女紋」といって女系で継承する家紋を持つ家もある。このような旧家では優秀な子飼いの使用人が令嬢の婿に選ばれることが多く、使用人出身ゆえに夫の立場は弱かった。有名な曽根崎心中の主人公も勤め先の令嬢を妻にした入り婿であった。
また、先述した海女集落や養蚕集落では一家の主な働き手は女性であり、娘を嫁に出すと貴重な働き手が引き抜かれてしまうため、慣習的な入婿制度が必要とされたと思われる。
このころは入婿は人格・能力ともに優れた男性、または魅力ある男性というイメージが強く、格下の出身から豊かな家を継ぐため「男の夢」と見られていたが、「米糠(こぬか)3合あれば養子に行くな」という格言があるように養家では肩身のせまい存在になることも多かった。これは女性の嫁入りが「女の夢」とされたものの嫁ぎ先で立場が弱くなることも多かった事実と好対照をなしている。
[編集] 物語上の入り婿
王が「魔物を退治した若者を姫と結婚させる」という勅令を出し、主人公の男性が冒険をするという物語は古くから好まれている。この場合、『若者』はしばしば身分が低いものの勇敢で機転が利く好人物として描かれ、結婚後は王家(=妻の家系)の地位を受け継ぐことが多い。これも入婿の一種である。