医療制度改革
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医療制度改革とは小泉内閣において必要性が唱えられた構造改革のひとつである。日本の医療は高くて非効率的であるという認識の下、国家財政を圧迫する恐れがあるとして医療費削減が叫ばれるようになった。現実には日本の医療は現場の努力によってぎりぎりで行っている状況であったので、改革は現場にとどめを刺す形となり、医療崩壊が進みつつある。
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[編集] 背景
日本国において社会保障の一端を担う医療であるが近年、制度の改革の必要性が唱えられている。先進国最低水準の医療費ではあるが、医学の進歩とともに国民医療費は年々増加するが、最近は経済状況が低迷し、国民医療費の伸びが国民所得の伸びを上回るようになった。即ち、医療における経済的な負担が増加している。しかも、社会の少子高齢化による老人医療の増加も大きな要因になっている。これが健康保険組合(即ち企業)の負担になっている。個人レベルでも世代間の負担の配分が問題となっている。これら経済的な問題を解決するために、医療費の伸びの抑制、医療の効率化、医療保険制度の財政的強化を含めた医療制度改革が必要とされている。
[編集] 医療財政の建て直しの手段
- 患者自己負担額の増加
患者の自己負担分が増加した分、公的医療保険制度からの支出が減らせる。また自己負担分が大きければ、受診抑制による医療費の減少、自己の治療に関心を更に持つことができ故意による高額治療などのモラルハザードが防止することができる。さらに、受益者負担という視点からはより公平になるといえる。また、国民の健康維持と疾病予防への関心が高まることが期待できる。問題点としては自己負担分が大きすぎると、医療を必要とする患者が十分な医療を受けられなくする可能性がある。特に、低所得者への影響がより大きくその対策が必要である。ただし、日本には高額療養費還付制度があり、従来からこの問題にある程度対応してきたといえる。また、国民と医師会の理解が得にくく、政治的に実現しにくい。患者数が減少することによって、公立病院の赤字の拡大、廃業を余儀なくされる医療機関が出現する可能性がある。
- 保険料や税の増額
公的医療保険制度の収入が増える。しかも、医療技術の発達などによる医療費の増大にも対応できるため医療の質を保つという点では大変好ましい。間接的に医療収入が増えて医療機関が潤い、雇用促進につながる。しかし、経済全体が冷え込んでいる不況時に保険料を上げればますます冷え込む可能性がある。また、医療機関を利用する機会の少ない人に負担感が重くなり公平さに欠ける点がある。また、医療機関の経営効率化に対する意欲が刺激されない。さらに、国民の直接的負担を増やすのは、国民の理解が得がたく政治的に困難である。
- 診療報酬点数の減額
医療従事者以外の国民理解を得やすい。保険料の企業負担を抑制できて間接的に日本企業の国際競争力を支援できる。医療機関の経営効率化に対する意欲を刺激できる。しかし医療機関が経営困難となり、医療の質が犠牲になる可能性がある。総合病院における不採算専門科の閉鎖や、製薬業など医療関連産業が衰退する可能性がある。
- 混合診療を認める
患者に経済的に応じた選択権が与えられる。診療報酬点数を大きく減額しなくてもよく、保険料も大きく増額しなくてもよい。利用者負担が大きくなり公平さも増す。医療機関が営業努力をするようになる。しかし、医療保険制度の基本である平等の理念に抵触する恐れがある。経済力の格差が受けられる医療の質に影響する。製薬会社が高い利益が出る自費診療用の薬剤しか開発しなくなる可能性や、医療機関が利益の小さい領域に手を出さなくなる危険性がある。
- 診療報酬に包括払い制度の導入
診療報酬を包括払いにすれば、医療機関が医療を経済的に効率よく行い、公的医療保険からの無駄な支出が減らせる。しかし、十分な治療を行わない方が収益上有利であるために、十分な医療を行わない可能性もある。また診療報酬が費用に見合わなければ、医療機関の経営を理不尽に圧迫する。
- 医療費の総額管理制度の導入
医療費の総額を制限することによって、公的医療保険制度からの支出を直接管理でき、財政建て直し効果が大きい。国民所得に連動させれば、所得に応じた医療費を設定することができる。問題点は経済的な要因が優先され、国民の医療需要の変化に十分応じられない可能性がある。
[編集] 医療供給体制の問題点
医療供給体制にも問題があり、この問題は医療財政の問題と深くリンクしている。
- 各医療圏での競合
病院と診療所の機能分化が不十分である。例えば、病院も外来診療で稼ごうとして診療所と競合状態、病院は急性期医療と慢性期医療の区別が不明確である。そのため、他の先進国に比べて、病床数が多く、診療日数や在院日数が長く、病床あたりの医療スタッフが少ない。行政は平成16年度の診療報酬改定で機能分化を誘導しようとしている。
- 医療費の地域較差
医療費の地域差が非常に大きい。都道府県間で最大1.5倍の較差がある。地域差の要因は病床数や医師数など地域における医療供給の実態の差異のほか、患者の受診行動、診療パターンの差異が存在する。この現実を受けて、地方の特性を活かした医療供給体制の構築が求められる。
- 医療マネジメントの未熟さ
医療機関のマネジメント手法が未熟である。医療機関の収入は医療保険制度で十分に確保されてきたが、医療費抑制政策で経営が厳しくなっている。最近では、患者による選択が拡大しているが、そのための情報開示、医療の標準化(EBM)、IT化が不十分である。風聞だけでなく、臨床指数(手術件数、治療成績など)、医療スタッフの専門性に関する情報、医療機関の経営状態などを提供するための情報システムの構築が必要である。
[編集] 小泉内閣による改革
医療制度改革は小泉内閣の政権公約であった。小泉内閣は医療制度改革関連法案を国会で可決させ、サラリーマンの医療費負担を2割から3割へ引上げた。70歳以上の高所得者(夫婦世帯で年収約621万円以上)について医療費の窓口負担が2割から現役世代と同じ3割へ上げた。2008年度からは70-74歳で今は1割負担の人も2割負担になる予定である。
[編集] 改革後の医療崩壊
診療報酬点数の減額され、病院の収入が減少するようになった。そのため赤字の減少・医業収入の増加を目的に歳出を削減せざるを得なくなった。そのために人出がかかり人件費の割に収入が得られないような科(小児科等)が閉鎖されるようになった。 医療訴訟が頻発するという状況が更に悪化しただけなのかは定かではないが、現在医療崩壊が進み、特に産科などでは出産難民という言葉が出現するようになった。 頻発する訴訟の影響のため、医療側も判例に基づいた医療という名の萎縮医療を行うようになり、より良い医療をより便利に受けたいという国民の声とは正反対に以前よりも低質な医療しか受けられなくなりつつある。
[編集] 関連項目
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