医薬分業
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医薬分業(いやくぶんぎょう)とは、日本においては医師や歯科医師の院外処方箋に基づいて、医院、病院ではなく、市中の薬局で薬剤師により調剤すること、すなわち「医療(医薬)3師」(医師・歯科医師・薬剤師)の役割を分担すること。と理解されている。
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[編集] 歴史上の医薬分業
この制度の発祥の地である西洋では国王などの権力者などが、陰謀に加担する医師によって毒殺されることを防ぐために、病気を診察するあるいは死亡診断書を書く者(医師)と薬を厳しく管理する者(薬剤師)を分けていた事に由来する。
医師と薬剤師の役割を分担することで、薬の持つ邪悪な性質を封じ込め、社会と個人にとって有益な性質のみを引き出そうとしたのがこの医薬分業の仕組みである。
薬の持つ邪悪な性質とは、
- 適切でない量と使い方をすれば人を死に追いやることもある。
- 放置すると不当な高値で販売される。
- にせ薬が横行する。
などである。
医薬分業制度により欧州の薬剤師は医薬品の独占的な販売権や調剤権を国家から認められることと引き換えに、
- いつでも、どこでも、必要な薬を必要な国民に供給する責任。
- 薬についての完全な把握。
- より良い薬の研究、開発、製造。
- にせ薬の排除。
- 規格書(薬局方)の作成と開示。
- 価格の不当な高騰の抑制。
などの役割を果たしてきた。
[編集] 日本における導入
東洋ではそのような制度が無く、日本においても太平洋戦争降伏による連合国軍最高司令官総司令部の指令により薬剤師法や薬事法が改正され医薬分業が導入された。しかし、従来の既得権を保持するために、調剤については「医師・歯科医師・獣医師が、特別の理由があり、自己の処方箋により自らするときを除き」という但し書きが追加され(薬剤師法19条柱書但書)、昭和50年代後半までは事実上骨抜きになっていた。
医師のみでは薬についての把握が難しく、薬剤師の専門性が必要であったが、薬は原価が10%で利益が90%だ、という意味で「薬九層倍」(くすりくそうばい)とも揶揄された時代、医療機関が薬で利益を得る、いわゆる「薬漬け医療」が蔓延したことも、医薬分業が伸展しなかった理由の一つにあげられる。厚生省(現:厚生労働省)はそのような状況を打開するために薬価改定を行い、薬で利益が出ない仕組みに組み替えると同時に、院外処方箋を発行することに対しての評価を高くして、利益誘導による医薬分業を図った。その結果、日本でも医薬分業が伸展してきた。しかし薬の邪悪な性質を封じ込めるという欧州の本来的な医薬分業制度の普及にはまだ程遠い現状である。
[編集] 薬局の飽和状態による変化
利益誘導により医薬分業が伸展していた時代、医療機関が新規開業をすると、その隣に薬局もできる風景がよく見られた。しかし、一部地域では薬局数が飽和し、患者が薬局を選択するようになってきた。
医薬分業の当初のメリットであった「早く正確に綺麗に」調剤することも、調剤機器の進化で院内薬局でも可能になり、差別化の要素ではなくなった。患者に対する新たなサービスに取り組み、新たな差別化を図ることが薬局の課題となっている。複数の病院から調剤される薬の組み合わせなどを管理する、「かかりつけ薬局」としてのアピールはもちろん、先取性のある薬局では、栄養士を配置してより専門的な栄養指導を行ったり、リフレクソロジー業と提携して簡易な理学療法を紹介できる体制をとって薬局の生き残りを図っている。
患者ニーズに応えたこれらのサービスは、2002年(平成14年)頃より健康保険において行われていたが、「薬局における指導とは薬物療法においてのみ健康保険の対象とし、それ以外のサービス及びサービス体制にかかる費用は実費徴収とする」との厚生省通達により現在は健康保険外で行われ、別掲調剤料(別掲基本料・別掲指導料)として処方箋受付1回あたり200~1000円の実費を徴収している場合が多いが、患者からはおおむね理解を得られている。
[編集] 薬局への競争原理の導入
医薬分業によって、多くの病院の薬局は無くなり、大きな病院の周りには新しいチェーン薬局が雨後のたけのこのように多数出来ている。 近くの駄菓子屋さんが無くなり、コンビニになったように、薬局もチェーン展開しないと生き残れないといわれている。 患者のほうでは、薬局を選ぶ自由が出来た、とおおむね好評である。 改めて、病院薬局の不自由さ、非効率さが浮き彫りになっている。
[編集] ITで変わる薬局
薬局チェーンはITが無いと機能しないといわれる。 目覚しく進化するITによって、医薬分業の姿は刻々と変わりつつある。
[編集] 財政改革と今後の展開
厚生労働省は、医薬分業の観点で「薬漬け医療」を改め、適切な医療で医療費の抑制を図ろうとしてきたが、保険調剤に支払われる保険金額は年々増加し、その効果が疑問視されている。
薬局で今後創造されるであろう各種サービスは別掲扱の健康保険外とし、基本的な調剤に関する健康保険支出を抑制すれば医療費の抑制に繋がる。また、付加サービスのできない薬局は淘汰されることを時代は要求しており、行政サイドはそれを視野に入れて、医療費の抑制に取り掛かっている。