商事会社
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商事会社(しょうじがいしゃ)とは、商法に規定された商行為(同法501条の絶対的商行為・同法502条の営業的商行為)をすることを業とする目的で設立された会社をいう。
民事会社に対立する概念であるが、対外的活動によって得た利益を構成員に分配することを目的とした法人(営利法人)である点で商事会社も民事会社も同質である。後述するように、法改正により、両者とも法的には同じ扱いを受けるので、両者を区別する実益はほとんどなくなった。
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[編集] 民法、商法制定当初の扱い
日本においては、私法的法律関係のうち、商法の適用範囲につき商行為概念を中核にして律する立法を採用していた。このため、対外的な活動により得た利益をその構成員に分配することを目的とする社団法人である会社の規律についても、商行為をすることを業とする会社については、商法に規定を置き、商行為をすることを業としない会社については、民法に規定を置く態度が採られ、前者を商事会社と称し、後者を民事会社と称した。
つまり、当初は、商事会社は商法に根拠を有する会社であるのに対し、民事会社は民法に根拠を有する会社であった。それゆえ、民事会社についても商法の規定が準用されていた(平成16年法律第147号による改正前の民法35条)ものの、商事会社は商人資格を有するのに対し、民事会社は商行為を目的とする会社ではないから商人資格を有するものではないと理解されていた。
[編集] 商法改正に伴う扱いの変遷
ところが、商事会社と民事会社はその根拠法が異なるため、商事会社と民事会社が合併できるかという類の問題が生じた。
このため、1911年の商法改正により、商行為をすることを業としない会社(民事会社)も会社とみなす旨の規定を置くことになり(旧商法4条2項、52条2項)、民事会社についても、商法に規定する会社に関する規定が直接適用されることが明らかになる。また、この改正により民事会社も商法に規定する商人と言えるか疑義があったため、1938年の商法改正により、民事会社は、商法にいう商人と擬制され(旧商法4条2項)、商行為に関する規定も準用されることになった(旧商法523条)。
これらの法改正により、商事会社も民事会社も、商法上同じ規律を受けることになったため、両者を区別する実益はほとんどなくなっていたが、商法の規定上は一応区別されていたため、講学上の概念としては存続していた(旧民法35条は、旧商法52条2項と重複するとの理由により、削除された)。
[編集] 会社法制定に伴う扱いの変更
会社法の制定により、商法に規定のある会社に関する規定は、削除され、会社法により規律されることになった。
会社法では、会社がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、それが商法501条及び502条に列挙されている行為か否かにかかわらず商行為とされており(会社法5条)、従来の商事会社か民事会社かの区別は、会社法上は存在しなくなった。そのため、商事会社という概念は、全く不要になったものである。
[編集] 外国法人の認許との関係
もっとも、日本の民事会社に該当する外国法人につき、日本国内でその成立が認許されるかどうかという問題は生じ、これを肯定するのであれば商事会社と民事会社を区別する実益がないわけでもない。民法36条2項は、認許する外国法人につき「商事会社」と規定しているものの、民事会社については認許の対象から外れているため、民事会社が認許されるためには別途法律又は条約による特別規定が必要になるかが問題になるためである。しかし、これについても、民法36条2項に規定する「商事会社」は、形式的に見れば狭すぎ、民事会社も含む概念であるとする考え方が支配的であり、外国法人の認許という点からも商事会社概念を存続させる意味はない。
また、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の制定に伴う民法改正により、認許の対象につき「商事会社」から「外国会社」に規定が変わるため(改正後の民法35条1項)、外国法人の認許という観点からも、商事会社という概念を維持する実益はなくなった。