商社金融
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
商社金融(しょうしゃきんゆう)とは、商社が商品の代金支払猶予期間(支払サイト)を通じて実質的に金融を行うことを指す。
商品を売買する際の代金支払いにはいくつかの方法がある。前払いや商品引渡時支払いの場合には猶予期間は発生しないが、例えば「月末締め翌月末払い」(月末にその月の売上をまとめて請求書を発行し、翌月末までに支払ってもらうこと)の支払条件である月の1日に商品を販売した場合には、請求書発行が当月末、支払は翌月末となるため、およそ60日間支払いを猶予していることになる。月末に販売した商品については30日の猶予となるので、平均すると45日間貸付をしているのと同じことになる。この、実質的に貸付を行っている状態を通常は与信と呼ぶ。
日本的な商慣習では、業界によっては手形による支払が一般的であるために、支払サイトが非常に長期になる場合がある。そのため、商社がメーカーと客先の間に入り、メーカーに対しては早期に代金を支払って資金繰りを助け、客先に対しては希望通り長期の与信を行うことによって、その期間の差のリスクと金利を負担し、その代償としてマージンを得ることが一般的に行われている。
銀行など金融機関のように担保を取って現金を貸し付けるのではなく、商品の流通に基づく金融であるために、特定の客先が大量・高額に商品を購入すればそれだけ大量の与信が発生することになり、その客先が倒産した場合多額の損失が発生する(貸倒)リスクを負うことになる。そのため、通常は客先ごとに与信枠を設定し、それを超える場合には支払サイトの短縮や前払いなどへの条件変更をしてリスクの低減を図る。しかし、場合によっては客先から発注があり、商品も用意できるのに、与信枠がなくて売れないという事態もありうるので、与信枠が低すぎればそれだけ商量を限定することになってしまう。しかし、高すぎる場合には貸倒リスクが増大するため、与信枠の設定には独自のノウハウが必要となる。
かつては、商社の規模やステータスが売上高によって判断されていたために、このような金融的取引が売上高向上の武器として広く利用されていた。しかし、近年では、以下のような理由から以前より廃れてきている。
- 商社のステータスの判断基準が売上高から利益中心に移行し、リスクが大きくマージンが小さい金融的取引の魅力がなくなった。
- 客先が購買コスト削減のため、支払サイトを短縮してでも商社を外して直接取引することが一般的になった。
- 税務的にも、このような単純に右から左に流すだけの取引では「売上」として認めない(差額のマージン部分のみを「手数料収入」として売上に計上する)よう指導されてきている。