天下一家の会
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
天下一家の会(てんかいっかのかい)とは、内村健一が運営していた無限連鎖講組織(いわゆる「ネズミ講」組織)である。
目次 |
[編集] ネズミ講の仕組み
天下一家の会のネズミ講の仕組みはいくつかのバリエーションがあるが、その一例として「親しき友の会」について説明する。
- 会員になった人(説明の都合で「A」とする)は、本部が指定する5代上位の会員に1,000円を送金する。本部には入会金1,028円を送金する。
- Aは、4人の新会員(子会員、1代下位の会員)を勧誘して入会させる。
- 子会員は、4人の新会員(孫会員、2代下位の会員)を勧誘して入会させる。Aから見ると16人(=42人)の孫会員がいることになる。
- 孫会員以下、同様の活動を行なう。
- ・・・・・・
- Aの5代下位の会員は1,024人(=45人)になる。その1,024人から各1,000円ずつで合計1,024,000円の配当を受領する。
しかし、以上のようなことは、あくまで「理屈上」のことであり、現実には理屈通り会員が増える訳では無いし、仮に理屈通り増えるとすると人口は有限であるから瞬く間に世界中の人が会員となり新会員を勧誘することができなくなる。 (なお、資料によっては、若干数字が異なる場合があるが、本稿は「(ワ)第32号入会金等返還請求事件」(長野地裁 昭和52年3月30日 判決)の数字に基いている。)
天下一家の会は、他に「相互経済協力会」、「交通安全マイハウス友の会」、「中小企業経済協力会」などネズミ講を運営していた(中には、交通事故死などの場合には見舞い金が出るといった共済的な性質も持ったネズミ講もある)。
いずれにせよ、破綻は免れないのがネズミ講の本質である。
[編集] 天下一家の会、内村健一の略史
- 1926年、内村、熊本県に産まれる。
- 1967年、内村、熊本県内で天下一家の会(第一相互経済研究所)を設立。この会は「親しき友の会」などと称してネズミ講活動を行なう。
- 1970年代、配当を得られない人、勧誘をめぐるトラブルなどが表面化し社会問題となった。
- 1971年、熊本国税局は所得税法違反の容疑により会に対する強制調査行った。その後、内村を熊本地検に告発した。
- 1972年、熊本地検、内村を脱税容疑で逮捕、その後、起訴。起訴後も「花の輪」(A~Cの3コースあり)、「洗心協力会」などのネズミ講活動を行なう。また、天下一家の会の元会員らが内村に対して入会金の返還を求め長野地裁に提訴。
- 1973年、内村、財団法人「天下一家の会」を設立(登記名義のみの財団法人「肥後厚生会」を継承する形)、宗教法人「大観宮」を設立。
- 1977年、長野地裁が内村に対して入会金の返還を命じる判決。
- 1978年、内村に懲役3年執行猶予3年、罰金7億円の判決。その後、控訴。11月に無限連鎖講の防止に関する法律が議員立法で制定される。
- 1979年、5月に無限連鎖講の防止に関する法律が施行される。
- 1980年、参議院議員選挙の全国区に無所属で出馬するが落選。
- 1983年、内村の有罪確定。罰金7億円のうち2億円しか支払わないので収監される。
- 1993年、内村、糖尿病により、死去。
[編集] 内村に対する刑事罰について
脱税で有罪判決が確定しているが、無限連鎖講の防止に関する法律違反、詐欺罪、出資法違反のいずれについても罪に問われていない。 その理由は、以下の通り。
- 無限連鎖講の防止に関する法律違反について
- 天下一家の会が活動していた当時は、無限連鎖講を禁止する法律が存在しなかった。無限連鎖講の防止に関する法律が制定されたのは、脱税で逮捕された7年後である。
- 詐欺罪について
- 詐欺罪が成立するためには、欺罔(だますこと)の故意が必要である。ネズミ講の場合、会員が努力してネズミ講を順調に行なうことができれば多額の収入を得られること自体は事実であるので、欺罔にならないと考えることができる。(このような考え方には、反対意見もあるが)
- 出資法違反について
- 出資法には、次のような趣旨の規定がある。
-
- 不特定多数の者に対して、後日出資の払い戻しとして出資金以上の金銭を支払うべき旨を明示(または暗黙のうちに示して)、出資金を受け入れてはならない。
- 法律に特別の規定のある者以外は、業として預かり金(不特定多数のものからの金銭の受入れ)をしてはならない。
- 熊本地検は天下一家の会の入会金の性質を検討してみたが、出資金、預り金とは言えず出資法違反にはならないとした。
[編集] 天下一家(の会)の思想
天下一家(の会)の思想について「天下一家の会・第一相互経済研究所 定款」より引用する。
- 「天下一家の思想は、故西村展蔵先生(熊本県出身の思想家 内村の結婚にあたり仲人をしたという)の創始にかかる宇宙一体の生命論に立脚する平和思想である……」(定款 前文)
- 「本会は、天下一家の会の思想である人類としての真理と生命を知り、心、和、助け合いの精神を家族の中に培い物心両面を以って相互扶助し、人間性豊かな社会人を作り、平和な社会福祉を実現し国民として祖国愛を知らしめると共に、生命に尊厳、人類の幸せを自覚せしめ、世界に平和に貢献することを目的とする。」(定款 第2条)
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 『新版 日本の経済犯罪ーその実状と法的対応』(神山敏雄 著,ISBN 4535512817)
[編集] 参考判例
- (ワ)第32号入会金等返還請求事件(長野地裁 昭和52年3月30日 判決)
- 『判例時報 849号』(P33~P48)
[編集] 外部リンク
- ネズミ講『天下一家の会』内村健一
- インターネットネズミ講の研究より
- 天下一家の会
- ネズミ講判例(その1)(内村に対する民事訴訟)
- 天下一家の会・ネズミ講 - 販売開発より
- 天下一家の会・ねずみ講事件(事件史探求) - 事件史探求より